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4.野菜の家

 わたしと魔法使いさんは長い長い旅を終えて、身長が少し伸びたり、声変わりしてかなりのイケボになったり、二人の距離が縮まったりといろんな面で成長してお菓子の家に帰るはずだった


「お菓子の家がないっ!」

「ないな」


そう、私たちが旅行している間にガムシロップの川はテカテカに干からび、その境界の向こう側にあるお菓子の家やその他、土や草も完全に腐ってしまったのだ。


周囲には変な臭いが漂っていて、息をすることさえ難しい。


「どうして?維持魔法は魔法使いさんがかけてたはずなのに」

「あれは誰かが食べるまでしか効力がないんだ」


 だとすると、私たちが旅行中にこの家を誰かが食べたことになる。


「でもいったい誰が...」

「最近は近隣の食材不足も改善されてたから、迷い混む人はいないと思ってたんだか」

「じゃあ動物たちの仕業かな?」

「動物はガムシロップの川から中には入れない」

「そうなの?」

「そうしないと常に上下左右の脅威から、この家を四六時中守らなくてはいけない」


 これ以上犯人探ししても、得られるものはない。


 取り合えずこれから住む家をどうにかしないといけないのでお菓子の代わりになるものを探さなければ


「よければ任せてくれないか」

「魔法使いさん!?なにか策があるの!」

「ああ。あんたが気に入ってくれればいいんだが」


  魔法使いさんはお菓子の家の亡骸を魔法で片付けると、清々しい空気が戻ってくる。


ここで甘くない空気を吸う日が来るとは思わなかった。


「?何やってるの」

「料理を作ろうと思って」


 もともと手先が器用だった魔法使いさんは、旅をしているうちに様々な料理と出会い、それをたちまち自分のレパートリーに入れてしまった。


「でも、キッチンは...あ」


家があった場所にはポツンとキッチンだけが立っている。


「お菓子の家の核、というか本体だ。あの家の材料は、全てこのキッチンから作られたものだ。」


「キッチンだけはお菓子じゃなかったの?」


「そうだ、これ自体が魔道具で、最初に作った料理のジャンルに合わせて今後無尽蔵に材料が出てくる代物だ。

ただ最初に作ったその料理が食べて消滅または腐った場合、その記憶がリセットされる。」


 あのお菓子の家は魔女がこのキッチンで初めて作った料理だったらしい。


「じゃあ今は何の変哲もないただのキッチンなの?」

「ああ。これから新しい家の材料になる料理を作ろうと思う。あんたにも手伝ってほしい。」


魔法使いさんからの初めてのお願いに、私は俄然やる気になる。


「お菓子を作るの?

私簡単な卵割るか混ぜるかくらいしか出来ないけど」


「今回作るのはお菓子じゃないから大丈夫だ。

それに、あんたに頼みたいのは家の確認と最後の仕上げだ。」


「確認はなんとなくわかるけど、最後の仕上げ?」


「それは後でわかる。


それより気に入らなかったら言ってくれ。

直ぐに違う料理で家を作るから。」


「魔法使いさんの家なんだから、魔法使いさんの好きにしていいんじゃ「これは俺とあんたの家だろ。それともあんたは違う場所がいいのか?」..ううん、ここがいい」


  魔法使いさんのなかで私と一緒に住むの前提になっているのが、何とも魔法使いさんらしいと思った。


 また、それを嬉しいと感じてしまう私も、胸中で燻っているこの気持ちに名前をつけてあげるべきなのかもしれない。


  魔法使いさんは私の返事を聞くと早速家作りのための料理に取り掛かっていた。


 今手持ちにあるのは、旅のお土産として持ってきた野菜(維持魔法付与済み)と調味料くらいしかない。彼はなにを作るつもりなのだろう。



そう考えているうちにも、目にも止まらぬ速さで料理を作り上げていく。


あっという間だった。


「出来た。取り合えず建ててみるから、感想を言ってくれ」


  魔法使いさんはキッチンの台で何か組み合わせると、青い粉を振りかけた。


  途端、魔法使いさんとキッチンは見えなくなり目の前にはプルプルしたゼリー状の壁が出来ていた。


「魔法使いさん大丈夫!?」

「こっちは大丈夫だ。そんなことより家の感想を」


 ハッとして壁から離れ、家の全体像を見る。


 あの壁はフスランという国で食べたテリーヌだった。テリーヌを四方の壁に使い、屋根にはレタスやほうれん草などの葉っぱ類が乗っている。


「すごい」

「よかった。テリーヌだから、かなり近づかないと家があるなんて気づかないだろう。食べられる心配もへった。」


野菜を使ったテリーヌは、緑生い茂る森のなかに完全に擬態していた。


「中に入って見てくれ」


 魔法使いさんは私に手を差し出し入り口が切り抜かれた玄関へと先導してくれた。



 中は開放的で外がバッチリ見えるが、外から中のようすは見えなかったので何か工夫を凝らしたのだろう。


 床はタイル状にフリーズドライされた野菜たちが、パッチワークのように並べられている。


 他にも大根の皮によるカーテンや蓮根の飾り棚(穴に収納)など野菜をいかした家具まであり、かなり手が込んでいた。


 地下もあの物々しさは消え、カボチャの中をくり貫いたようになっていて、反響具合もバッチリだとか。カラオケルームに出来そうである。



  家を探検していると、いつの間にか入り口に戻っていて、魔法使いさんは切り抜かれた入り口に寄りかかっていた。


私はこの感動を早く彼に伝えたくて直ぐ様駆け寄る。


「ステキステキ!!いいと思う!」

「決まりだな。あとは庭の確認だけだ。」


 魔法使いさんは私が中を見て回っているうちに、庭の方を終わらせたらしい。私は早速外への一歩を踏み出した。



土はそのままに、庭にはたくさんの花や果物の木が植えられていた。紫蘇食べられる野草も所々から生えている。

 カブで出来たガーデンテーブルやチェアもオシャレだ。ジャガイモが入り口まで点々と半分だけ埋め込まれている。とても素敵な庭だった。



だが、そんな中で異様な存在感を放つものがあった。



「川が赤い...」


 地獄に存在するかのように、川には真っ赤な水(血の川)が流れていた。


思わず魔法使いさんを見ると、何故か彼はドヤ顔だ。


「俺の自信作だ。あんたトマトジュース好きだろ。だから、トマトジュ「ダメ」え?「赤はダメー!」..なぜだ?」



変なところでポンコツを発揮する魔法使いさんに、置いてけぼりに感じていた私は安心した。


仕方ないのでグリーンスムージー(苔むした川)で妥協する。


「わからない。赤はダメなのに緑はいいのか?それに緑は目立たないだろ?あっ!マヨネーズなら「目立つ目立たないの問題じゃない!それにもうベタベタになるのはゴメンなのっ!」


修正箇所は川のこと一点のみで、他は満足どころか満腹に感じるほどの出来前だ。


「最後の仕上げを頼む」

「何をすればいいの?」

「玄関のドアだ。そこにあんたが作ったニンジンスティック(太め)を嵌め込みたいと考えてる。」


あの切り抜かれた部分に私が魔法使いさんのために初めて作った野菜料理を埋め込もうというのである。


「この家の顔を飾るなら、やっぱりあんたの料理がいいんだ」

「魔法使いさん...」

「野菜を好きになるきっかけをくれたのはあんただ。その中でも 初めて俺のために作ってくれたあの料理は、俺の中で一番鮮明に残ってるんだ。」


 野菜スティックが一番残ってるってヤバくないとか、それいい意味だよねとか、色々聞きたいことはある。


でも、初めての料理をそんな風に思っていてくれたのなら、


それだけで恥ずかしい思い出でが、


掛け替えのないものに感じられるから、


魔法使いさんはズルいと思う。





その後私がドア(野菜スティック)をはめ完成した。こんなにも素敵な家を作ってくれたことに感謝しようと


「まほ「俺と夫婦になってくれっ!」..えっ」


 何故か魔法使いさんは震える右手を差し出してプロポーズをしてきた。


「なんで今?そもそも私たち付き合ってないよね」


 手を握らなかったことで、彼の手は迷子の子どものようだ。


 私からの返事がもらえなかった彼は右手を下ろすと、先程とった行動のワケを説明しだした。



「その、旅をしているときに聞いたんだ。

一緒にいたいやつがいるなら、早めにゲットしとけって。それに他の女の手あかがついた家に、嫁をいれるんじゃないとも。」


「正論だけど、要介護のお婆さんをカウントに入れないで!」


「新築建ててプロポーズしたらどんな女も一発だって言われた。

今回お菓子の家が無くなってたから、予定より早くなったけどいい機会だと思って。それにちょっと順番は狂ったが俺の気持ちは変わらない。」



 私がいない間にそんなことを吹き込まれていたのか。


 その話を振ったのはどうせ30代過ぎの男で信用する方がおかしいと思うが、魔法使いさんは真摯に答えをずっと待っているから


「すごい嬉しい...って絆されるところだった。

付き合う過程を飛ばしちゃダメだよ」


 危ない危ない、危うく流されるところだった。王子様フェイスはこれだから怖い。


「じゃあ、付き合う前からの同棲は、あんたの中でアリなのか?俺的には一緒に住み始めたときから、もうそういう仲になってもいいって意味かと」


 美少年と幼女だと免罪だともろ手を振って言えるのだが、残念ながら、私の精神年齢は28歳+9歳のアラサーだ。


 確かにそう考えると彼が言っていることは正しい。


 しかもどちらかというと私が逮捕される側だ。だがこれじゃあ、あんまりではないか。まるで私が痴女みたいだ。


「下心なんてなかったの、本当に!ただ帰る場所がなかったから、すこーし、ほんのすこーしだけ、お邪魔したいなみたな..」


 下心を隠そうとして墓穴を掘ってしまった。だが彼にとってはあまり重要ではなかったらしい。


「別にそれはいい。それに俺もしっかり言葉にしなかったのも悪かった。だから、今言う。俺は、あんたが好きだ」


 初めて、明確な愛の告白だった。


「でもそれは、ちゃんと人付き合いをしたことがなかったからじゃ..」

「そうかもしれない」


  魔法使いさんが私を特別に思うのは、たまたま初めて会って、一緒に生活して、温もりに触れたのが私だったから。


 それは子どもが親を自然と認識して甘えるのと同じで、刷り込みと何ら変わらない。


「でしょ。だか「だが、俺を狭いお菓子の家から連れ出し、もう一人の生活に戻れなくしたのは間違いなくあんたのせいだ」出来る限りのことをしたかったの。ごめ「俺に野菜の美味しさを教え、もう甘いだけの生活に戻れなくしたのも間違いなくあんたのせいだ。」うっ。でも甘いものきら「でも、俺がここに居るのも、もっともっと一緒に生きていたいと感じるのも間違いなくあんたのおかげなんだ」...っ!」


魔法使いさんは私の不安に気づいて認めた上で、


それでも自分をこんなに変えたのは私だと、


この事実だけは覆せないと言う。


「あんたと一緒に旅に出て、本当に楽しかった。


その中で、いろんな人との出会いもあったが、それでもあんた以上のものを俺にくれた人はいなかった。


何をするにも、何を知るにも、いつもあんたが居てくれたからこそなんだ。」


「.....」


「あんたがまだこの気持ちは親愛からくるものだと言い張るなら、俺の気持ちに答えてくれなくてもいい。


いつか本物だと言わせるから、


そのっ、出来れば..ぃゃ..なるべく..待っていてほしぃ...」


さっきまであんなに自分の気持ちをハキハキと主張していたのに、私の感情に関わることとなると途端に臆病になるから、本当に魔法使いさんはズルい。


 最後まで押し通してくれたなら、きっと私は二つ返事でOK出来たのに。


 結局私から言うはめになるのだ。でも、それが何とも私たちらしい。




「好きだよ」


初め魔法使いさんは何を言われたのか理解できていなかったが、自分で私の言葉を反芻しているうちに、何を言われたのか気づいたようだ。


「スキダヨ..スキダよ..スキだよッ!


 いや、まて早まるな俺。さっき断られそうになったばっかだ。


あんたのことだからな。友達とか親愛とか言うんだろ。」


見た目幼女に2回も愛の告白をさせるなんて、

魔法使いさん以外の男だったら、張っ倒すところだ。


「ちゃんと、異性としての好きだもん!失礼しちゃう!!」


「だって、あんたさっき...」


「私はいきなり夫婦になろうなんて言い出す魔法使いさんに、恋人同士から始めましょうと言おうとしただけで、断るなんて一度も言ってない。」


「えっ」


「なのにいきなり私への思いをドンドン口にするから、恥ずかしいやらパンクしそうだわ...もう、最後まで人の話を聞かないのは魔法使いさんの悪い癖だよ。」


魔法使いさんは頭を抱えていたが、しばらくすると立ち直った。


やっぱり天然なだけじゃなく、図太いんだなこの人。


「つまり、俺とめっ、夫婦になってくれるのか。」


 噛みながらも、仕切り直しともう一度プロポーズをしてきた魔法使いさんに、今度は彼が差しだしてきた右手を両手でしっかりつかんで握り返す。


「今すぐには無理だよ。ただ私たちが結婚できる年齢になったら、その時は喜んで魔法使いさんと夫婦になる。


今のところは結婚前提に付き合うってことで、差し詰め婚約者ってところかな。」


彼はうなずくと、言質は取ったとばかりに脅しをかけてくる。


「絶対..絶対だからな」


「わかってるよ」


 せっかくのカッコイイプロポーズも、最後の確認で残念な感じで終わってしまった。


 でも、私たちらしくてよっかた気もする。


共同で作った野菜の家は、前のお菓子の家より温かく感じた。


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in野菜の家(2年後)


とある夜食時での会話


「結婚っていくつになったら出来るんだ?」

「子供と大人で明確な線引きがないもんね。

とりあえず私が20歳くらいになったらいいんじゃないかな?」

「なら俺たちもう結婚できるじゃないか。よし、夫婦に「待って」..人の話を遮るのはよくない。前言ってたじゃないか。」

「私のはワザとだからいいの」

「それ余計ダメだろ」

「いいの!それより魔法使いさんは18、9歳だよね?」

「自分の年齢を数えたことはない」

「そっ、そっか

じゃあ私は12歳くらいだよね?」

「体年齢はそうだな」


「?精神年齢は前世合わせれば超えるけど、でも今の年齢は12歳で変わらないよね。ならダメだよ。」


「違う」


「何が?」


「外の世界だと、この家を新しく建ててから20年以上経過している」


「..えっ」





最後まで読んでいただきありがとうございました

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