3.初めての野菜生活
私と魔法使いさんはこれまでの糖分過多な食事を改善するため目下の課題に取り組むこととなった。
「これから畑を作ろうと思うの。」
「畑?」
そう、私たちの栄養に足りない一番のもの。それは
野菜
ここに来る以前から野菜は足りていなかったが、この少年の話を聞くに、私以上に栄養バランスが偏っていそうなことがわかった。
それにこの少年は巨大化させる薬の作り方を知っているらしい。なので私は彼を野菜好きにし、あわよくば世界の食糧難を救いたいと考えたのである。
「因みに巨大化ってどうやるの?」
「この薬を使うんだ」
すると魔法使いさんはポケットから青い粉が入った瓶を取り出した。
「これをお菓子の場合は出来上がった直後にかける」
ビッ○ライトの粉バージョンだ。
「このお菓子の家もそうなの?」
「たぶん」
お菓子の家は魔女さんによるもので、彼はお菓子が腐り家がなくなることの無いよう維持魔法をかけ続けているだけで、本人もこの薬を使ったことはないらしい。
因みにお菓子を口にすると維持魔法が溶け、劣化が始まる。
「畑作るならどこがいいかな?」
「それならガムシロップの小川を越えたところがいい。あそこは普通の土だから。」
「そっか、すぐ下はクッキーを砕いた土に周りの草もチョコだもんね」
このガムシロップの小川はお菓子で出来た世界と現実との境界線の役割を果たしている。
「魔法使いさんそうと決まったなら早速始めよう!」「ああ」
それから私達は隣町でお菓子との物々交換で手にいれた野菜の苗を植えた。
「お菓子の人気があってよかった」
「ほんとだね」
孤児同然の私たちにはお金がない。そのため今まで魔法使いさんは魔法で空を飛びいろんな場所に行けても、何かを買うことはできなかったという。
そこで私が物々交換を提案し、今回初めて買い物をすることが出来た。
しかも、屋台で売っていたポテリングというジャガイモを油で揚げたものを買ったのだが、甘味以外の料理は口にしたことのない魔法使いさんには衝撃的だったらしく、以降野菜を育てることへの熱意が高まっている。
「2、3日待てば出来る」
「野菜はお菓子みたいに数日で出来るもんじゃないの」
そう私は笑い飛ばした
3日後
「.....出来てる」
「これが野菜か」
お互い全く違う感想を漏らしながら、この光景に呆然とした。
この世界ではこれが普通なのだろうか。
前世で野菜を育てた経験は、小1のときミニトマトくらいで、それも親にほとんどやってもらった。
それに魔法が存在するのだから、前世の常識がこの世界でも当てはまるわけではないのかもしれないと、深く考えないことにした。
「予定外だけど、野菜が早く育つなら嬉しい!魔法使いさん、早速巨大化させよう」
「わかった」
魔法使いさんの声は弾んでいて、野菜の未知の味や初めて巨大化させることへの期待が感じられた。
魔法使いさんが青い粉をかけるとすぐに変化が現れ
ミチミチミチミチ、バンッ!バンッ!ガサガサ、バシャン
たちまち夏野菜が大きくなり、森の木々に当たったり、ガムシロップの境界線をあっという間に越え、お菓子の家一歩手前で巨大化が止まった。
「わあー」
「これが植物の生命力か」
そういう問題ではないと話を聞くと、あの薬は魔法使いさんの魔力の結晶であることが判明。
魔力が魔女より多いため同じレシピでも効力にかなりの差が生じたのだろう。
ただあまりにも野菜が大きく多すぎるので、維持魔法をかけて周辺の村や町におそそわけをした。
家に戻り早速調理開始。
初料理は巨大化した野菜をただぶった切た野菜スティック一品のみだ。あと調味料(幼女特製マヨネーズ、家にあった蜂蜜や塩)を少し。
「違うの!私はあくまで野菜本来の味を楽しむ「食べていいか」..うん」
魔法使いさんはニンジン(太め)を、私特製マヨネーズにつけて食べ
「..ッ!うまい!!」
と感激のあまり涙目になった。
ものすごい手抜き料理(野菜スティックとマヨネーズ)を、まるで極上ディナーを食べるかのように噛み締めている魔法使いさんを見て、無性に申し訳なく感じる。
「次はもう少しマシな料理考える」
「?今でも十分にうまかったぞ。
それに俺のために一から作ってくれたのは、あんたが初めてだ。
だから..その..よけいおいし「ごめんなさいいいい」
直ぐ様スライング土下座をきめ、先程まで言い訳していた自分を殴りにいきたくなった。
なんだ俺が何かしたのか?!とイマイチわかってない魔法使いさんに、私はひたすらごめんなさいと謝り続けた。
その後料理のレパートリー(野菜炒めと野菜煮込み)を増やして、魔法使いさんもベジタリアンの道を確実に歩もうとしている。
私は次のステップへ進むことにした。
「旅行に行こう」
「旅行?」
「各地を巡って、私たちのような存在をなくすの」
「つまり?」
「辺鄙な土地の野菜を巨大化させてまわるの」
魔法使いさんは悩むそぶりを見せたが、結局「わかった」と言ってくれた。
これが何の解決にもならない私の自己満でしかないことをわかっていて、彼は付き合うことに決めたのだ。
私は彼の片手を両手で握りしめ
「魔法使いさん、ありがとう」
と出来る限りの感謝の気持ちを伝えた。
「ッ!...いや、あんたのためだからな」
顔を真っ赤にした魔法使いさんは私の両手をもう片方の手で包み込み、ギュッと力を込める。
もう目線をそらすことはなかった。
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魔法使いさんと手を繋ぎながら世界を飛び回って(物理)、寂れた村から貴族の邸宅の畑まで、様々な場所の野菜を巨大化させた。星空散歩をしながらの旅は私たちの距離を縮めてくれた。
「さむいさむいさむい」
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない!空中散歩がこんなに寒いなんて聞いてないっ。それに季節が秋からまだ10日もたってないはずなのに冬になってるなんて...ってことで...とうっ!」
「ッ!いきなり抱きつくのは..心の準備が」
「いや?」
「そんなことはない!」
「えへへ~、魔法使いさんあたたかーい」
「..やっぱり昼がいいんじゃないか?」
「昼間に青い粉かけて野菜巨大化させたら、私たち不審者じゃない」
「夜中の方が不審者じゃないか?」
最後まで読んでいただきありがとうございました