表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

2.食事=お菓子

  お菓子の家に転がり込んでから色々大変なことがあったがそれにも慣れてきて早数日。


私は生命の危機をひしひしと感じていた。


そう、食事問題である。


 なんと彼は3食全部お菓子で済ませていたのだ。そのおかげか、彼のお菓子の腕前は弱冠15(たぶん)にしてプロのパティシエ並み。

 甘いものが苦手な私でも食べられる、甘さ控えめでいて大人な味付けを施したサバランやクレープシュゼット、ガトーショコラなど、8年間の人生で一度もお目にかかれなかったお菓子を毎日のように食べている。


お菓子はとてもおいしい。そう、おいしいのだが、それも毎日のこととなると話が変わってくる。


 ぜいたくな悩みだとわかっている、だが正直なとこ、飽きた。


 いい加減しょっぱいものや辛い物などバラエティーに富んだ味付けが食べたいのである。


 お日様がお空の真上を通り、少し傾き始めたうららかな昼下がり。


 私は洗濯(どこでしているのかは知らない)し終わった衣類を外に干しだそうと腕いっぱいに抱える姿がチョー絶似合わない王子様フェイスの魔法使いに声をかけた。


「魔法使いさん魔法使いさん」

「どうしたんだ?あんたこの時間帯だといつもは昼寝をして「魔法使いさんはなんでお菓子しか食べないの?魔法使いさん甘いもの本当は苦手だよね?」


これは一緒に生活をしていく中で気づいたのだが、何を隠そうこの少年毎食お菓子を食べているくせにどうやら甘いものが苦手なのである。


 食事に出てくるお菓子のほとんどが甘さを控えめにしてあり、最初のうちは私に気を使ったのかと思い聞いたのだが、何のことだと逆に聞き返された。


彼は私が甘いものが苦手であることを知らなかったのだ。


その後、彼がお菓子レシピの参考にしている本を数冊借りたのだが、全て甘いものが苦手なあなたにというようなフレーズがそこかしこに見られた。


ということで、今回満を持して疑問を直接本人にぶつけることにしたのだ。


「それは師匠の影響だな」

「師匠って、前言っていた優しい魔女のこと?」

「そうだ。師匠に俺が拾われたのは前話したよな?」

「確か魔法使いさんの他に6人もいて、全員魔女が引きっとったんだよね。」

「ああ。その後甘いものをごちそうしてくれたうえ、俺たちが住む大部屋も用意してくれたんだ。」

「それって、もしかして...」

「あんたを最初に連れて行った部屋だな」

 私は頭を抱えることしかできなかった。

------------------------------------------


お菓子の家初日


  少年は私に着替え(過去ここに来た子供たちの服)を渡すと、とある部屋へ連れて行きここで自由に寝起きしていいといったのである。


その案内された部屋はお菓子の家の地下に位置し、壁はクッキーという名のレンガで埋め尽くされ、1階へ続く階段とこの部屋の間には鉄格子(本物)がはめられていた。


この少年は私を食べるつもりなのかそれとも観賞用として逃げ出さないようにここに連れてきたどちらなのか真剣に悩み本人に尋ねた。


「やっぱり少年は子供を食べるの?それとも幼女だけ地下に閉じ込める変態さんなの?」

「ッ!俺は人間を食べないし、変態じゃないっ!」

「じゃなあなんでこの部屋に連れてきたの!ほかにも空いてる部屋あったじゃない。」


そう抗議するとしばらくロリコン野郎、もとい少年は悩むそぶりを見せたが


「...わかった。俺がこれから住む予定の部屋の隣が空いてるから、そこにするといい。」

というと、私を連れて一階へ戻った。


その後少年の発言は本当で、彼と一緒に部屋をきれいにするため2時間以上かけて取り留めの無い会話をしながら整理整頓をし、何とか住める形にまで整えた。


余談ではあるがその会話の中で俺はロリコン野郎じゃないとか、見た目幼女な私に少年と呼ばれるのは嫌だとかの話になり、結局今の呼び名である魔法使いさんに落ち着いたのだ。

----------------------------------------------------------------------


 (変だとは思っていたけど...)


  お菓子の家を探検しているとこの家の構造がわかってきた。この家は1階と地下室があり、地下室の方はあの牢獄のような大部屋だけで他になにもなかった。


1階にリビングやキッチン、その他生活に必要なモロモロのへや、後は私たちの寝床である2部屋の他、1部屋だけ入れない部屋が存在する。


でも、掃除を日課にするほどきれい好きな魔法使いさんを知っている私としては、なんであの2部屋を放置したままだったのか疑問に感じた。


(一体魔法使いさんは私がくる以前どこで寝ていたのだろう)


と考えふけっていると、魔法使いさんが私のことを心配げな目で見つめていた。


「ぉい..おい。大丈夫か?やっぱりお眠の時間なんじゃ」

「いつまでも子ども扱いしないで!そんなことよりあの大部屋へ連れて行ったのは、純粋な善意からだったの?」

「そのつもりだった。あの部屋はこの家で一番大きいし安全だ。

それに直前まで俺が寝泊まりしていたから部屋も片付いていたんだ。だからあの部屋をあんたに受け渡すつもりだったんだが」

「なぜか不評だった」

「そうだ」


魔法使いさんは今でも私が嫌がった理由に気づいていないようで疑問符を頭に浮かべている。


 それに手の中にある衣類たちが気がかりなのだろう、洗濯物が皴にならないうちに干したいというので別に家事しながらの会話でいいと返した。


  魔法使いさんが家事をする後ろをひな鳥のようについて歩く。

洗濯物はガムシロップの小川を越えたところにある物干し竿に干す。なぜかこの竿だけはお菓子ではなく木製で、年代物らしく至るところ腐りかけていた。


(たぶん魔女は黒だ。でも魔法使いさんのことを思うと真実を打ち明けにくいし、それに魔女が子供たちが不安がらないよう同じ部屋で寝泊まりさせた結果あそこしかなかったのかも)


この時魔法使いさんがやたら上機嫌に鼻歌を歌っていたことに気が付くことなく私は続きの話を促した。


「~♪ん?部屋を用意してくれた後? ..師匠は毎食必ず甘いものを全員分用意してくれたんだ。おかわりをしてもる怒ることなく、むしろニコニコして前の2倍、3倍もする量をくれるんだ。」

「太っ腹だね」

「あぁ。だが逆に残す人へは容赦なかった。全部食べ終わるまで泣きわめいたり、抵抗しても決して席を立たせてくれなかった。」

「へ~、礼儀を重んじるタイプなのかな。

でも、席を立てないって紐か何かで縛られていたの?」

「俺もよくわからない。ただ他の6人は足に重りを付けられたような感覚だと言っていた。」


(魔法使いさんだけは何も感じなかったのね...鈍感というか図太いというか)


「それにかなりの高齢に見えたが人から施しを受けるのをすごく嫌った。」

「年寄り扱いするなってことかな」

「気難しいところがあったからな。俺たちが食事の用意や運ぶのを手伝おうとしたのだがすごく怒ってしっまて。ついには俺たちを縄で縛りあげようとしたんだ。」

「えっ..」

「さすがにあの時は驚いたな。そのあと余計なことはしないこの檻から基本出てはいけない食事もここですると、いろんな約束させられて何とか事なきを得たんだけど。」


そう話す魔法使いさんに怯えの色は見えず、どこか懐かしげに目を細めている


(なんでだろう..今は魔女より魔法使いさんの方が怖く感じる)


とりあえずこのよくわからない空気を変えようと、先ほどからずっと気になっていることを尋ねた。


「そういえば、その6人の方はどうしていないの?」

「多分耐えられなかったんだと思う、さっきの縛ろう事件が起きた後すぐ家から出て行った」

「出て行った?ってことは外への行き来は自由だったのね!」


先の話で魔女への疑惑が生じていた私は、その発言に何とか希望を見出せそうになった


「それがよくわからないんだ。俺はすんなりと扉を開けたが他の人は開かなかったらしい。」


やはり魔女は黒だと確信した。


「魔法使いさんがほかの人を逃がしてあげたっていうこと?」

「そうなるのか。ただ扉を開けてほしいと頼まれただけなんだが。」


いつでも逃げようと思えば逃げられる魔法使いさんと、他の6人との間には大きな溝があったに違いないと感じた私はこれ以上彼らとの関係性は聞かないようにしようと決めた。


(それに、多分だけど魔法使いさんの魔力は魔女を上回ってたんだわ。だから魔女からの圧力なも仕掛けにも気付かなかった。)


私はある程度の憶測を立て、先を促す。


 「魔法使いさんは逃げ出そうとか思わなかったの?」

「別に行く当てもなかったし。それにこんなによくしてもっらたのに挨拶もなし出ていくのは..」

「(この人にも常識はあったのね!伝える相手は間違ってるけど)魔女だっていきなり6人も子供が減ったらさすがに気付くでしょ?」

「ああ、すぐに気づいた。でも子供たちが師匠のことを恐がって出て行ったというのは失礼だと考え、あれは俺の残像だと嘘を言った。」

「残像」

「そうあの6人は俺が高速で移動したことで見せていたのだと、咄嗟のウソにしては頑張った方だと思う。

 それにあの時はまだリビングの円卓で食事をとっていたからな。

椅子の上を高速移動していたといっても違和感はないと思ったんだ。」


(中華の円盤テーブルの逆みたいなことかな?それを自力でやったと。)


彼はやたら達成感にあふれキラキラした眼差しを向けてくる。それによってただでさえ眩しいのに今は目がつぶれそうである。


「そのすごいとは思うけど、魔女は信じたの?」

「いやさすがに6人は無理があった。


 それにその後いなくなった6人分の食事も私一人で食べることになってしまったんだ。


 他の6人があなたの残像によるものなら食事量は変えなくていいわよねって。


 しかも首輪を付けられたことで外に出ることができなくなったんだ。今思えば魔力封じとかそいう類のものだったのかも。」


「食事も檻の中になってしまったんだよね」


「ああ。今まではこっそり外に出て極限までお腹を減らすことで、苦手な甘味のものも食べることが出来ていたんだが。


仕方ないから、檻の中で出来る運動をしてお腹を減らすことにしたんだ。腹筋とかスクワットとかで。」


「でも前の運動量には全然かなわないし、魔女の見張りも強くなったんじゃ」


「よくわかったな。師匠は7人の相手から俺1人になったから、食事の時は常に俺から目線を外さなくなったし、運動もなかなか出来なくて、大変だった。」


そういうのと同時に選択が干し終わる。


次いで魔法使いさんは掃除を始めたので、私も手伝うことにした。


 使用している部屋は全て1階なので楽だ。


 ちょうど開かない部屋の前を掃除していた私は、近くで掃き掃除をしている魔法使いさんに聞いた。


「なんでこの部屋だけ開かないの?」

「?開くよ」


魔法使いさんは空かずの間に手をかけると


ガチャリ


私が押しても引いてもダメだった扉は拒むこともなく開き、中から埃っぽい空気が流れ出てくる。


「ここは何の部屋なの?」

「師匠の部屋だ。師匠が出ていったきり使ってない。」


そういうと魔法使いさんは躊躇いもなく扉を全開にした。


 中は閑散としていて、机とベットしかなかった。ベットの四方には縄が張られており、先の方ががベットの上に放り出されている。


「魔女はMなのかな?」

「M?」

「縛られるのが好きなのかなって、

でも魔法使いさんに聞いてもわかん「俺がやったんだ」ないよ...え?」

「だから、俺がやった」

「どうして..」


私のジト目から逃れるように俺は変態じゃないからなと前置きを置くと先ほどの続きを語りだした。


「あの後、俺は首輪をとって外に運動しに行こうとしたんだ。」

「とれたの?!」


両手で首の辺りを引っ張るジェスチャーを


「こう、毎日やってたらバキッて」


と軽くやる魔法使いさんに魔力だけじゃなく怪力なのかと戦慄した。


「でも魔女さんすぐわかったんじゃないの?」

「よくわかったな。俺が外に行く前にバレた。」

「大丈夫だったの?」

「後ろから羽交い締めにされて、縄で縛られそうになったが、なんとか反撃した。


 たぶん強盗かなにかとボケて間違えたんだろう。


それに、あの時間リビングを彷徨いてたから徘徊癖もあると思ったんだ。


 これは俺が介護しないといけないと感じ、師匠が持っていた縄で縛り上げベットに寝かせたうえで、甲斐甲斐しく世話をした。


そのときに料理も覚えたんだ。」


(マジか。しかも全部善意からの行動だから余計タチ悪いな)


 そして彼から料理という言葉が出てきたことで本来の目的を思い出した。


「そうだよ!魔法使いさんなんでお菓子しか作んないの」


「この家にあるレシピと材料が、たぶんお菓子?とか言うのしかない。

 俺の中では料理=甘いもの(お菓子)=食事なんだ。

 だが俺は甘いもの苦手だからいろいろと工夫をこなして、なんとか食べてる状況なんだ。

 それに、この家にくるまでまともな食事を口にしたことがなかったから、師匠のマネをするしかなかったんだ。」


「(なるほどね)魔女さんにも同じような食事を渡したの?」


「ああ。それにたくさん作ってあったし食べさせてくれたから、きっと師匠も好きなんだと思う。

 だから、師匠のためにも俺たちの倍以上もの食事を用意して、食べきるまでしっかり目を離さなかった。」


「へー(鬼畜だ)」


「最初のうちは戸惑っていろいろ聞きに行ったんだ。この家のことや、魔法のこと。」


「魔法?」


「このお菓子の家を保つための維持魔法とか、巨大化される薬とか、全て師匠によるものだった。


 だから、まだ記憶がある程度しっかりしているうちに聞かなきゃと思って。


 ただ俺が聞きに幾度に、俺のことを忘れてしまうのかヒィッて悲鳴をあげられるのは悲しかったな。」


「そっか(それ多分ガチめなやつ)」


余りにもトンチンカンナ魔法使いさんの話はシリアスなはずなのに、シリアルに感じた。


(ここまでくると逆に魔女が不憫に思えてくる...)


ただそう話す魔法使いさんは少しションボリして見えた。


「なんで悲しそうなの?」

「そのあと師匠は書き置きを残して消えたんだ。


こんない家くれてやる!二度と私の前に来るな、いや来ないでくださいお願いしますとな。


しかもあんたの師匠になった覚えはないとかなんとか。


やっと一人ぼっちじゃなくなったのにと思ってしまった。」


そう話す魔法使いさんの肩は寂しそうだったが、

突如そわそわし始め


「だから、あんたがきてくれて、その..嬉しいんだ。」


とさっきとはうって変わってちょっとはにかんだ笑みを浮かべた。


いろいろと魔法使いさんのことを誤解していたようだ。


「魔法使いさんっ!私も、魔法使いさんといると嬉しいし、楽しい!」

「そうか。でも、あんたが少しでも過ごしやすいよう俺なりにいろいろ頑張ったが、から回ってばかりだったんだな。その、悪かった。」


私はこれまでの自分行いを少し恥じた。


「私の方こそロリコンとか変態とかいってごめんなさい。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

悪い魔女を気づかないうちに要介護認定をして自滅させた魔法使いさんは、かなり天然で世間知らずな少年でした。


 その後お菓子の家では幼女によるお料理教室が開かれるようになったとか


「なんで甘いものしかないの?!」


「さっき言っただろ。ここには野菜とか魚とか言うものはない。

甘いもの関連の材料は延々に出てくるが、それ以外は調達してくるしかない。」


「そんな~」


ならなかったとか。














最後まで読んでいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ