1.お菓子の家
初めて完結出来ました。最後までお付き合いいただけたらありがたいです。
バタンッ!
勢いよく頭から地面へこんにちはをすると
ぐーきゅるるる~ と情けない音を鳴らしながら
「おなか..すいた...」を最後の言葉に気絶した。
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私は貧乏家族の長女として生まれた。
お母さんにお父さん、私、双子の弟と妹の5人家族だ。
今まではお父さん一人の稼ぎでつつましやかに暮らしていたが
お母さんの妊娠が発覚したことでそれも難しくなっていった。
そんなある日、私はなかなか寝付けなくて両親の寝床へお邪魔しようとした
が、そこで両親が弟と妹を家から追い出そうとする会話を耳にしてしまった。
「ねぇ、あなた」
「?なんだい」
「これから8歳になった長女は働けるからいいとして、幼い双子は食料を貪ることしかできないでしょう?森に置いて来てはどうかしら」
すると動揺したのだろうベットのギシギシときしむ音がした後
「っ!君は何を言っているんだ!」
というお父さんの怒鳴り声と
「声が大きすぎるわ。子供たちが起きちゃうでしょ。」
というお母さんの慌てた声がした。
計画が泡になってはたまらないとお母さんはお父さんをなだめるほうに専念したようだ。この話はここで中断になった。
私は急いで自分の部屋へ踵を返すと悶々とした夜を過ごとになった。
(いつもからお父さんはお母さんのいいなりだから...)
きっと遠くないうちにお父さんは折れて弟と妹を森に置き去りにするに違いないと考え、代わりに自分が家を出ようと、もっている服の中で一番上等だが、春の初めでまだまだ寒く感じるこの季節にしては薄いワンピースを着て、少ない食料と水を持ち隣の町に行こうとした。
(弟と妹を守るんだっ!)
そうして無鉄砲に家を飛び出し、ただでさえ栄養失調気味だった私は早くも2日目にして体力の限界に達した。
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はッ!
意識を取り戻してからしばらくの間この状況を理解出来なかった。
(えっと..あれから...道にまよって..そこらへんグルグルしてたら目の前がくらくなって..たおれちゃったんだ)
森の中はシーンとしていて、川の音や動物の鳴き声さえしない。
(これからどうしよう..)
とこの先行く当てもなく、動く気力も湧かず、ましてや立ち上がることなんて出来そうにもなく途方に暮れた。
(あぁ、あまいおかし食べてみたかったな)
話の中でしか聞いたことのないクッキーやケーキという名のお菓子を自分ができる精一杯の甘い味(焼き芋)で想像しながら、8年という短い人生に幕を下ろそうとした
途端嗅いだことのない匂いが周囲にただっよていることに気付く。
クンクン
(なんかあまいにおいがする..)
私は地面にひれ伏した姿勢のまま匍匐前進でどうにかこうにか匂いのもとのかなり近くまでたどりつくことができたが、それ以上近づくのを許さないといわんばかりに目の前には小川が流れていた。
のどがカラカラで判断能力も鈍っていた私は、なんで流れる水の音がしないのだろうとか、そもそも水が静止して見えるとかの疑問は置いといて、顔面を川の中に突っ込むとそのまま口に水(?)を含み
吐いた。
気が付くと
「何これっ!マジであり得ないんですけど!
あっま..甘すぎ。ガムシロップとかこんなにあったってカクテルかコーヒーぐらいでしか需要ないよっ。
だいたい私甘いもの苦手だし!」
と叫んでいた。
(・・え?ガムシロップトカカクテルカコーヒーって何?それにあまいもの大すきなのに...)
茫然としながらズキズキと痛む頭をあげ、目線を小川の向こう側へ向けた瞬間
先ほどの発言の意味もこれから起こるであろうこと前世の記憶何もかも思い出した。
「これお菓子の家じゃん!」
ガムシロップの小川を越えるとクッキーを敷き詰め石畳のように並べたものが、お菓子の家のチョコレートでできた扉まで続く。壁や屋根もかわいくデコレーションしたアイシングクッキーや生クリームをたっぷり使ったケーキで作られており、童話に出てきたお菓子の家を忠実に再現していた。
「うっわ。衛生面とか建て替え費用とかいろいろ突っ込みどころ満載だけど、何が一番ヤバいってこの胸焼けから起こる気もち悪さだよっ..!」
と顔を地面に俯けて、甘い匂いを出来るだけ吸い込まないで吐き気を押さえるようにベタベタとした口元を手で覆う。
(うぅ...さっきまであんなに甘いもの食べたかったのに..)
どうやら完全に前世の記憶に味覚や思考も引っ張られているようだ。
とりあえずこの甘ったるくベタベタした口内だけでもどうにかしたいと考えていると頭上に影が差し、次いで変声期特有の少しかすれた少年の声が静寂な森の中に響いた。
「おい何している」
私はその質問には答えずこれ幸いと
「み..ず...」
と死にそうな声で自分の要求を口にする。
だが残念ながら男の子の耳には入らなかったらしい。
「何をしているんだと聞いている」
今度はあえて反応せず
相手が動き出すのをうつ伏せのまま待つ。
予想通り彼は何の反応も示さない私に焦れガムシロップの小川を超え私の側にしゃがみ
「もしかして、死んだ?..のか」
と私の肩に触れようとした隙ををついて
その手をガシッと両手でつかむと
ガムシロップでドロドロテカテカになった顔面を見せつけた。
そして今度は聞き逃すことがないように
「み...ず..み..ず..み.ず.みず水水水水水水」
とひたすら水という単語を繰り返してあげた。
だが彼は化け物と遭遇したかのように「うわあ!」と叫び
空中に球体のようなものを出現させると
私の手やら顔やら手当たり次第にぶつけてきた。
バシャバシャバシャ
謎の球体の正体は水だった。
どうやら私の声は無事彼に届いたようだ。
水をガムシロップでベタベタになった部分から、土でドロドロに汚れた服の方にまでかけてくれる。
少しすると彼の足がプルプルしていることに気づく。
彼は私のせいで中腰のまま動けないようだ。
なので途中で立ち上がりついで服の背面だけでなく前面の泥も落としてもらうことにする。
きれいに落とし終わると水が止んだので彼と目線を合わせお礼を口にしようとした
「ありがとう、少年。もう十ぶ「っ!」」
が、彼と目線が合うことはなくなぜ目を大きく見開いた後、顔を真っ赤に染めると
バシャバシャバシャバシャ
と再び私に水をぶかっけてきた。
初めやたら腹部めがけて水を放っていたが、だんだんと適当になっていき水の勢いが強くなっていった。
私は窒息しないよう頭を垂れると、水圧に負けないよう手足に力を込めたが、そんな抵抗もむなしく突き放そうと明確な意思を持ったように急激に水の勢いが増した。
(もう息がもたない...)
二度目の死を覚悟したが
ドサッ!
彼は「もうむり...」と真っ赤な顔でつぶやき横に倒れた。
(なんで横に...あ。手握ったままだった)
そこでようやく少年の姿を確認した。
(うっわぁ~..王子様みたい。しかも後ろで花が舞う幻覚が見える..)
少年は金髪碧眼のとても整った顔立ちをしていた。
(前世でいう中学生ってところかな...)
まだあどけなさが残る少年のうるんだ目とプルプル体を震わせている姿に、開いてはいけない扉を開きそうになった精神年齢28歳のアラサーは即座に手を離すが、力が残っていないのか彼の手は重力に逆らうことなく鈍い音をたてながら地面に落ち、その後一向に動く気配を見せない。
「あなた大丈夫?」
「全然大丈夫じゃない」
意識はあるようだ。
「もしかして動けないの?」
「魔力切れで、体にかなり負担が強いられたんだ。しばらくすれば動けるようになる。」
それっきり彼は何も話さず、目線を森に飛ばしてしまう。
だが私はそんな彼の奇行より先ほどの発言にばかり意識が向いていた。
「魔法って存在するの?!っていうかあの物語の中では魔女が出てくるんじゃ..」
「さっき身をもって実感したじゃないか。物語云々はよくわからないが俺は魔法使いだ。」
「えー、じゃああなたが子供たちを太らせた挙句食べてしまう外道なの?」
「勝手な想像で俺を外道だと決めつけないでもらいたい。
そもそも人間なんて食べない!」
というと彼はグリンと勢いよく顔を向けたが、すぐに先ほどの2倍の速さでシュッと顔を背けてしまう。
どうやら彼を怒らせてしまったようだ。
さすがにお菓子の家を見てから自分の中であの童話とこじつけて考えてしまっていたことを申し訳なく感じた。
「ごめんなさい。じゃあこの家はあなたの趣味?」
「ここは師匠の家だ。」
質問には答えてくれるようだ。
「あなたの師匠である魔法使いの家ってことね」
「いや師匠は女だったから魔女だ。
かなりの高齢だったが、師匠はたくさん身寄りのない子供を家に連れてきては甘いものをたらふく御馳走してくれた。」
「へー、優しい魔女なのね」
「そうだな、俺も師匠に拾われた一人だ。
あの時は俺も含め7人いたんだが全員この森で迷子になっていたところこの家にたどり着いたんだ。」
「私と同じね」
「あぁ、俺もこの川の水を飲んで、咽たんだ。
だから昔の俺と同じことをしているあんたを見て懐かしく感じた。」
私の奇行はバッチリみられていたようだ。
彼を直視できなくなった私は彼に恨み口を吐く。
「飲む前に声をかけてほしかった...それになんであんなに水を投げつけてきたのよ。危うく窒息死するところだったわ!」
「それはッあんたがっ!...」
彼はまた顔をこちらに向けまた戻すという先ほどと全く同じことをした。
「ねぇ、なんで私のほう見ないの?そんなに怒らせるようなことしちゃった?...」
と声は震え涙があふれそうになった。
(感情は8歳の子どものままなのね...)
感情のコントロールに必死になっていると、彼は彼で幼女を泣かせたのではと慌てていたようだ。
「いやっ..決してあんたを嫌ってはいないんだ。その..なんていうか....」
と容量の得ない言葉を並べているが、私と目線を合わせてしゃべろうと努力しているのは伝わってくる。
「ほんとう?」
「もちろんだ。なんなら持ちか..いや何でもない」
今回は彼の顔と努力に免じて許すことにした。
甘い匂いで鼻の機能もマヒしてるし、それに帰る場所も行く当てもない。こちらを害そうとする様子もないのであの発言さえなければかなりの優良物件。逃すわけにはいかない。
「私ここに住んでもいいの?!」
「俺はその..大歓迎だが家は「私もう変える場所がないの」..そうか、わかった。」
彼は立ち上がるり少しフラフラしていたがお菓子の家まで私を連れて行ってくれた。
その間彼の手をギュっと握っていたが、顔を真っ赤にするだけで水を飛ばしてくることはなかった。
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inお菓子の家
「結局なんで私の方見なかったの?」
「これは女性に対して言ってもいいのか?見て見ぬふりをするの「いいから」..透けてた。」
「...何が?」
「しっ..したっ」
「した?」
「くっ。あの日あんた白いワンピース着てただろっ。「っ!」..だから水で濡れて中がまる見ぇ「いやああああああ!変態ロリコン野郎おおおぉぉ」」
この日お菓子の家からはバヂンッ!という鈍い音と顔を真っ赤に腫らした美少年の姿が見られ、これまでにないほど賑やかな一日だった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。