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44(10月12日・土)

 由美子が休んだのは翌日だった。放課後に残ってノートを写し、とりあえず見舞いっぽいものを買って行くと、彼女の母と鉢合わせした。


「あらあらまあまあ、由美子は風邪のごたるけん。移したらいけんとにねえ」


「いや、昔から風邪には強いんで。ノートを持ってきたんですけど」


「あらそうね。わざわざゴメンたい。じゃあちょっとだけ上がらんね」


 というやり取りのあと、聞こえてきたのは彼女の声で――。


「いやあ! まだこっち来んで!」


「何ばカッコつけるか。パジャマでよかとに」


 お母さんの言葉通りだと、菓子包みを手に玄関先に突っ立っていた。


「どーぞー」


 許可が下りたのは三分後で、俺は玄関の敷居をまたいだ。彼女はまるで今にも出かけるような恰好だった。


「欠席理由が分らなかったからな。とりあえず無難にケーキにした」


「ホント! ケーキとか何か月ぶりかな」


 そこへ、


「ほいじゃあ関口君。風邪の移らんうちに。私は行ってきますけん」


 由美子はそんなことなどどうでもよさそうにケーキを睨んでいる。


「レアチーズもいいし――」


「こないだ自分で作ってたろ」


「お店のは別物やもん。じゃあこっちの、フルーツいっぱいタルトにしようかな」


 ということで彼女は小皿も出さず、ちゃぶ台でタルトを頬張った。


「バラバラこぼしてるぞ」


「紅茶、淹れ損ねた」


 嚙み合わない会話に立ち上がり、キッチンを借りた。この部屋は知り尽くしている。


 紅茶を淹れる俺が珍しいのか、


「台所に立つ男の人って珍しかあ」


「そうは言っても料理人なんて男ばっかりだろ」


「そう言えばそうやねえ」


 シナモンスティックをつけてカップを持ってゆくと、嬉しそうな顔が迎える。


「あくまで届けたノートがメインだからな。復習しとけよ」


「はあい。頑張ります」


 絶対に頑張らない顔だ。


 そのあとは柄にもなく柿本がさっさと尾崎のCDを返しに来たことと、四枚目のアルバムを買おうかと思っていることなどを話し、彼女が思いついたようにCDを流し始めた。初めて聴くCDだ。


「三木祐介さんて人でね、旅のミュージシャンって。こないだ那由多さんとか杉内さんとかと一緒に川端に見えらしたと」


 なるほど、と聴くフリはするが、最近の耳は尾崎耳になっていて他を受けつけない。上手いのは分かったが好んで聴くアーティストではなかった。


 CDはしばらく続いたものの、彼女が咳き込むようになったので帰ることにした。


「明日も無理するなよ」


「うんうん、大丈夫」


 昨夜の電話の続きもできず、俺はアパートのドアを閉めた。

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