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43(10月11日・金)

「ゴメンね無理やり呼んで」


 由美子はテーブルを片づけながらこぼした。そう思うなら最初から呼ぶなと言いたかった。


「でもね、友達にはね、学校と違う関口君ば見てもらいたかったと。それだけ」


 洗い物を片づけ、そして、


「私ね、福大に行くけん。関口君と一緒におれると、あと半年しかないけん」


「別に……会えない訳じゃないだろ」


「ううん。分かるもん。私たちってクラスが違うだけで一緒に遊ばんようになるし。学校から変わったらもう会わんよ。だけんね、私あと半年、すっごい関口君に恋して、それであきらめようと思っとる。片思いでもいい。勝手に思うとるだけやけん」


 彼女はそれだけ言うと流しで手を拭いて、ニッコリと笑ってみせた。眩しくて直視できない笑顔だった。




 家に帰るとバタバタと騒々しい母が荷物をまとめていた。


「ああ、帰ったの。今日は早いからお風呂溜めておいてちょうだい」


 ジバンシィのコロンを首筋に叩き、慌ただしく出て行った。俺はまたボトル棚からジャックダニエルを出してグラスへ注ぐ。


 由美子の本心は果たしてあれでいいのだろうか。何かを偽っているのではないか。そうだとして俺に好意を――今さらだが、持ってくれているのではないか。


 テネシーウィスキーだけでは手持ち無沙汰だった俺は、思い立って彼女の家へと電話を入れた。電話ならではの距離感に賭けてみたい何かがあったのだ。


「俺だけどさ――」


『どうしたと、珍しか。忘れもん?』


 彼女の声は柔らかい。


「今日のことなんだけどさ」


『今日って?』


「片思い……って言ったろ」


 しばらく間があり、


『ああ。あのこと? 気にせんで。私が勝手に思うとるだけやけん』


 次に俺の作る間があった。俺もお前のことを――そう言えれば楽になるはずなのに。


 しかし俺の答えは、


「明日はもう、人呼ぶなよな」


『うん、大丈夫。ふたりだけやけん』


「その……じゃあな。おやすみ」


『おやすみなさい』


 何も言えず電話は終わった。


 静まり返った部屋に彼女の言葉が響き渡りそうで、尾崎を大音量で流した。尾崎はこの支配からの卒業と繰り返していたが、卒業も何も、俺はまだ何も始めてすらいない。レールに従って生きているのは、誰でもない、この俺だ。

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