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42(10月11日・金)

「関口君てさ、由美子とつき合っとうと?」


 この世代の女子は――男子もだが、それしか訊いてこない。


「たまに一緒に勉強してるだけだよ」


 たまにではない。ほぼ毎日だ。


「でもそれってつき合っとるって言わん?」


 眼鏡をキラリと光らせたB組の水木優花がピザを手に呟く。


 そうなると同じクラスの相沢翔子もウンウンと頷き、


「ウチのクラス、皆そう思うとるよ」


 相槌を打った。


 当の由美子はピザの一切れを取りながら、


「関口君とは友達やけん。キスしかしとらんよ」


 私こないだ五ミリ背が伸びたよ、と言うくらいの気安さでそう言った。叫びを上げたのは女子二人で、俺も気持ちとしては叫びたかった。


「そしたら恋人さ! いやー、羨ましかあっ!」


 そんなことでははしゃがないと思っていた水木優花が眼鏡を落としそうな勢いで言った。相沢翔子も一緒になりそうだったので、


「そういうんじゃないんだって。何ごとも経験だからさ。やれって言われればお前らとだって出来るよ」


 言うと、ふたりは急に顔を赤らめて静かになった。由美子だけが黙々とピザを食べている。


「関口君、ピザなくなるよ」


「そう思うなら残しとけよ」


 あとは女子三人に囲まれて恋愛談義が始まった。


「ねえねえ、男子ってどういう子が好みなん?」


 相沢翔子が言う。人それぞれだ、といっても収まりそうにないので、


「根が優しい子だよ。で、明るい子だ」


 普通のことを言うと、


「えー、でも可愛いか子じゃなかと? B組の生月さんのごたる」


 懐かしい名前だ。


「好きになったら、その子がいちばん可愛くなるんだよ。男っていうのは」


 すると、きゃあ、と意味もなく喜び、俺はその隙にピザを頬張った。そして、


「田口、ビールあんのか」


「あるよ。500と350、どっちにする?」


「ああ、500で」


 そんなやり取りを見て、


「関口君って、不良っぽくなかとにね」水木がボソリと言う。


「でも、前に柿本に向かっていったろ」


 相沢はコーラのコップを手にして恐る恐る言った。


 そこへ由美子が何食わぬ顔で缶ビールを持ってきた。


「不良だとか真面目だとかは周りが勝手に決めるんだ。お前ら周りの決めたことだけやってて楽しいか」


 俺は有無を言わさず煙草に火をつける。するとまた雰囲気が変わる。


「分かんねえかな。いいことか悪いことか、それは自分で決めればいいんだ。こないだは自分の尊厳が脅かされたんだ。だからあいつを殴った。柿本みたいなヤツは学校辞めて好きなことすればいいんだよ。けどそれをしないだろ? 赤点取りながらもとりあえず学校で友達と会ってれば平和なんだよ。それが俺は嫌なんだ。大人の決めたレールに沿って、半端に適当に反抗して、学校辞める勇気もないヤツらがさ」


 ひと息に言うと由美子がさりげなく灰皿を床に置く。水木も相沢もうつむいて声が出ない。それを見て心が風船のようにしぼむ。


「いや……忘れてくれ。俺も田口も片親で水商売やってる身だ。普通の常識とはどこか違うんだろ」


 やがて二人はカバンを手に立ち上がった。そして最後に、


「よう分からんけど、由美子と関口君のこと応援しとるけん」


 相沢が言った。その応援内容は分からないが、小さく頷いておこう。

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