41(10月11日・金)
「三位やった」
珍しく朝の靴箱で一緒になった由美子が言った。放送部の大会の話だろう。
「それでもすごいだろ。何校出たんだ」
「あのね、二十三組」
それはまた選考も大変そうだ。
「まあ、教室で聞くよ」
そう言って靴を履き替えて三階の教室へ向かった。
一時間目の古典は自習だった。各々、机を離れて好き勝手に過ごすもの、その名の通り自習に精を出すものそれぞれだ。
「早澄さーん、椅子借りるねー」
やって来たのはもちろん由美子だ。
「おい、自習だぞ」
「えー、そげん言わんで。あのね、三位取ったとが、創作ラジオドラマ部門やったとさ。私もちゃんと配役あったとやけん」
「で、何の役なんだ」
そう訊くしかなく、シャーペンを止めずに言った。
「人の気持ちが分かる猫の『ミィ』って役」
「どんなドラマだよ」
「うーん。説明すると難しかとけどね、その猫が家庭内不和を丸く収めていく話」
それは結構シビアな話だ。そんな猫がいればの話だが。
「まあ、よかったじゃないか。高校生活の総決算ができたんだろ」
公式を間違えて消しゴムで消しつつ言った。
「でね、そしたら顧問が記念にお昼の放送でやろうって。私、もう一回マイクの前に立てると」
目を上げると、とびきり嬉しい時の顔になっていた。この顔を見られるのもあと半年なのだ。
放課後になり、彼女は靴箱にいなかった。代わりに一通の手紙が置いてあり、「先に帰っとるけんね」と、それだけ書いてあった。もはや彼女のアパートは帰る場所になっているのだろう。そのことをどうこう言わない俺の母親を、すでに俺があきらめている。
国体通りを自転車をこぎながら那珂川を渡る。あとは川沿いに走ると彼女のアパートだ。そしてチャイムを鳴らすと、彼女が顔を出す。そしてひと言。
「今日ね、パーティーやっちゃん。放送部の大会三位記念」
部屋を見ればあとふたり女子がいた。ひとりは恥じらうように、ひとりは興味深そうな目を眼鏡越しにこちらへ向けていた。
「人がいるならいいよ。今日は帰る」
踵を返した。しかし、
「待って! 大っきいピザ頼んだもん。関口君もお祝いして」
これは俺を取り巻く不幸の一環だとあきらめ、玄関へ入り、靴を脱いだ。




