40(10月10日・木)
体育の日、というものをどう過ごせばよいか考えていたが、朝のベッドの上で考えだけを持て余していた。今日は由美子の放送部の九州大会だ。だからといってそれを見に行く訳でなし、無関係の人間が顔を出してもよいものかも分からないままだ。
(こういうものは結果だけ聞けばいい)
そう決めて、今日は一日数学の問題集で時間を潰そうと決めた。いつの間にか彼女のいない時間を埋める術が問題集だけになっている。
昼頃、部屋のドアの開く音がして、リビングの方でテレビの音が聞こえてきた。昨夜ノックもなく開いた扉の向こうからは、
――「明日、ゴルフのあとの接待だから。夜は適当にやっときなさい」
今さら聞いたところでどうしようもない話を酔った口調で聞かされていた。果たして受験生の親である自覚があるのだろうか。
まあ、それを言えば娘に平気で酒を飲ます彼女の母親もどうかと思うが決定的な違いがある。娘にしっかりと興味を持って接している彼女の母は、立派に母親をやっていると思うのだ。例えば俺が杉内さんのライブに行こうなどと言おうものなら、母には「あんな不良のやること――」と一蹴されるに決まっている。
俺は母の支度がすべて終わってからリビングへ出る。テーブルには昨夜に客からもらったのか食べかけの寿司折がある。まるで残飯だ。
「ああ、今から行ってくるから。帰りはいつもより早いわよ」
その「早い」がその通りになったことはまだない。
香水を振りまきながら母が出かけると、久しぶりにブランデーを開けた。それに気付かない母を、勝手な言い分だが俺は苦々しく思う。由美子の母親の半分でも気にかけてくれればと。
しかし、今はその気楽さに任せておきたい。
今日は問題集も投げ出し、リビングでくつろぎたい気分になったので、ラジカセを持ち込んで尾崎をかける。『街の風景』から始まって『誰かのクラクション』まで三時間弱ある。その間にバーボンボトルを持ち出してグラスへ注ぐのだ。その間に冷凍のピザを焼く。飯代の千円札はそのまま小遣いだ。
世界一バーボンの似合う十七歳になった気分で、勉強机に放ってあったセブンスターを抜く。あと一か月もすれば十八歳だ。だからといって何ということもない。そういえば今年は「誕生日、何かいる?」という母の探りもない。CDコンポが欲しいところだが、あの世代は「ラジカセあるでしょ」で終ってしまうのだ。ならば現金でもらおう。
ピザの焼けた音でキッチンへ立ち、皿へ移す。スーパーの安いピザは切れ目が適当だ。なのでナイフとフォークを用意した。
テレビの音量はゼロにして、休日の番組をグルグル回す。誰ひとり、何ひとつ、意味のある言葉をしゃべっていない気がする。不意に、杉内直己のCDが欲しくなった。この半分壊れた生活の中で、『壊れているけど世界は回る』を自分自身のBGMにしてみたかった。由美子に相談すれば取り合ってくれるかも知れない。




