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38(9月23日・月)

 今日もイベントだということで、由美子はまた出向くらしい。


(杉内さんだけでも聴きたいな)


 そう思って出かけると、彼女がひとりで立っていた。杉内さんはラストだという。となると他のミュージシャンには興味がないのでしばらく時間を潰そうと歩き出すと、彼女が引き止めた。


「一緒におってよ。寂しかたい」


 そう言われるとつき合うしかない。上手いのだろうが面白くないオジさんの歌と、今日も露出度の高いお姉さんがカメラのフラッシュを一身に浴びて、そして杉内さんたちの先輩だといういい男が甘いバラードを唄った。そこまで実に一時間だ。


「那由多さん、今日は何ば唄わすかなあ」


 日向那由多の変則的なステージが始まると、やはり客席がざわめく。そして一曲目はハーモニカ入りの曲だった。曲は――。


「『墓標』やん! ハーモニカかっこよか!」


 杉内さんだけでなく彼女もハーモニカを吹くのかと感心しながらステージは続く。


 ラストの『夕凪』を終えると彼女は静かにステージを立ち、そして次は杉内さんの順番だ。


 うろ覚えだった曲のタイトルは『壊れているけど世界は回る』だった。とにかく歌詞が好きだった。不完全なままでも回り続ける世界の中で、それでも巡りくる毎日を痛ましい歌詞が繋ぐ。――誰でも一度は誰でもいいような温もりに頼っている、という歌詞が印象的で、それはもしかして俺にとっての由美子なのかも知れないとも思った。


 杉内さんの最後の曲はやけに激しい歌で、またイメージが変わった。『原点回帰』という曲だった。


 それから昨日に引き続き抽選会があり、なんと最後の一品を由美子が当てた。嬉しそうにステージへ上がる彼女が手にしたのは何ともかさばる大きな両手鍋だった。


 感想を訊かれた彼女は、


「ウチのお店で使います」


 そして、


「ロマン通りの『がんにゃ』という店です! 皆さん来てください!」


 宣伝も抜かりなかった。


「お母さんに持っていかんばねえ」


 ステージから戻り、鍋を抱えて彼女は言う。俺は時計を眺め、


「俺、今日は戻るから」


「ホント? じゃあ明日ね」


「ああ、それじゃ」


 何の用事があった訳じゃない。ただ、今日は部屋にこもって尾崎を聴いていたかった。彼女に対してひと時でも、代わりの利く誰かのように思ったことが嫌だった。

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