28(9月12日・木)
まずは由美子が紅茶を淹れる。俺はその時間も惜しくてフィルム包装を剥がし、歌詞を眺めていた。
「紅茶入ったけんね。えっと、テープはこれ? じゃあダビングしようか」
コピーより何より早くその歌が聴きたくて、俺はスタートを待っていた。彼女がCDをセットしてカセットテープを取り出す。
「えっと、これってA面B面五曲ずつでいいとよね」
「ああ、十曲だからな」
「じゃあ録るよ」
由美子がテープの録音スイッチを押してCDを流す。いきなりのロックナンバーだ。曲は『Scrambling Rock,n,Roll』と書いてある。「自由になりたくないかい!」と熱く叫ぶその声は、ずっと聴いていた『十七歳の地図』にはなかったものだ。
明らかにロック色と叫びが続くナンバーに、正直期待外れで迎えた五曲目が『卒業』だった。
柔らかなピアノの音色の中、前作よりも野太い尾崎の声が唄い始める。そうなると歌詞に釘付けになった。持て余した熱情ややり場のない――訳もない怒り。それが退屈な心を打ち砕くように並べられてゆく。いくつもの自分の思いが重なり、そこへ「夜の校舎の窓ガラスを壊して回った」という、鮮烈で過激な歌詞が入ってくる。若さゆえの無謀さと激しさと現実への諦観が、その中に詰め込まれていた。『十五の夜』と繋がる現実への失望、大人への反抗、それが新鮮な――大人の言葉ではない生の声で唄い上げられていた。
気がつくと彼女がカセットテープをB面に裏返し、録音を再開していた。
ラストの『シェリー』まではロック色が消え、尾崎独特の切ない歌声が流れていた。結局、紅茶のひと口も飲まずに録音は終わった。
「はいテープ。でさ、歌詞も読みたかやろ? これも一緒によかけん」
そう言って歌詞カードを渡してくれた。
「ありがとう……」
「どの歌がよかった?」
彼女はいつもの笑みで問いかけてくる。
「そうだな……『卒業』かな」
「そうやと思うた。すごい真剣に聴いとるけん話しかけられんかった」
今日の勉強会はなしになり、俺は思いつくことを懸命に彼女へ話した。学校のこと、親のこと、そして自分が歩むべき人生のこと。一方的ではあったものの話は尽きず、気がつけば午後八時になっていた。
「まだいてもいいか……」
自分の中の寂しさというものが尾崎に触発されて露わになった声で、彼女へ頼んだ。
「よかよ。今日はお店ないけん」
そして、
「ここまで自由にできるとも、お互い親のお蔭やね」
嬉しそうに彼女が笑った。ラジカセからは三回目の尾崎が流れていた。




