27(9月12日・木)
今日は後輩に任せて教室だと、由美子が嬉しそうに弁当を二つ抱えて現れた。
「杉内さんのラジオやもんね。しっかり聴かんと」
コーヒー牛乳を手に、彼女は耳を放送に傾ける。杉内直己の弾き語りが終わり、エンディングで彼が叫んだ。ライブの告知だった。
「えー! 今日ライブって! 行けんかなあ」
「夜の店だろ。高校生は無理なんじゃないか」
すると、
「なんで?」
その夜の店を手伝っている彼女には意味のない言葉だった。
ラジオの放送が終わると共に予鈴が鳴る。午後の授業はいつになってもかったるい。得も言われぬだるさの中で教師の声が遠くに聞こえる。校庭で響くサッカーの声が眠気を誘う。教室という名の水槽の中で、ぬるま湯の中に浸かって溺れてしまいそうだ。
そんな時間を二時間過ごし、教室を掃除して教科書とノートをまとめて、そして靴箱には由美子が待っている。
「ねえねえ。今日、杉内さんが唄いよらした『初恋』ってよかったよねえ。関口君知っとった?」
「いや……俺は。とにかく音楽に疎いんだ」
今は尾崎豊以外に興味はない。またレコード屋に行って次のアルバムを買ってみようか。月一万円の小遣いとは別に、最近では昼飯代の五百円が貯まる一方なのだ。
「田口、頼みがあるんだが」
「ん? いいよ」
まだ頼みを言ってないのだが。
「ウチ、CDプレーヤーないんだ。だから――」
「だから?」
「俺が買ったCD、テープに録音してもらっていいか」
「いいよ。で、CDは?」
ラシャイビルへ向かうと、真っ直ぐに尾崎豊のコーナーへ向かった。由美子は、
「やっぱり」
と笑っていた。手にしたのは『回帰線』というアルバムだ。先日の雑誌に載っていた『卒業』という曲が入っている。友人との短い家出を描いた『15の夜』と並んで、彼の代名詞的な曲らしい。
俺は悩む間もなくレジへ向かう。
「ハンバーガーでも食べてくか。奢るぜ」
「ううん。帰って早うダビングしよう。聴きたかやろ」
彼女の笑みがとても眩しくて、俺は頷くだけだった。




