25(9月5日~6日・木・金)
――くわえ煙草のセブンティーンズ・マップ
そのフレーズだけで心が揺れた。久しぶりに販売機でセブンスターを買ってソファーに座っていた。尾崎豊にはきっとウィスキーだと、ボトルもテーブルへそのまま、グラスに注いで飲んでいた。カセットは三曲目の『I LOVE YOU』が流れている。由美子が丸っこい字で書いてくれたタイトルを眺めながら、そのひとつひとつだけでも心が震えた。
どんな人なんだろうか――。
歌を聴き終えると、次は人が気になった。バイクを盗む不良連中に書けるような歌詞ではない。
(オザキユタカ……)
シャワーを浴びてもベッドへ潜っても、その名前だけを頭の芯が繰り返していた。
深夜に帰った母はまた客を連れて来た。機嫌よさそうに喚く母の声と、酔ったオヤジの声が一緒に聞こえる。これで朝四時までは眠れない。俺はラジカセにヘッドホンを繋いで大音量の尾崎豊を流した。もうすでに全曲のメロディーは覚えていた。
このアルバム最大のバラードとも言える『I LOVE YOU』が流れている。いつか彼女と二人、ひとつのベッドに横たわり、同じシーツで包まって瞼を閉じてみたい。そう思いながら朝を待った。
酒宴の跡がテーブルに繰り広げられていた。母はソファーでだらしなく眠り込んでいる。最悪の気分で歯を磨き、制服を着て、やることもなく自室でコーヒーだけ飲んで朝飯を終えた。たまらなく彼女の淹れた紅茶が飲みたかった。
「本屋さん行かん?」
昼メシのあとにそう言ったのは放送室から戻った由美子で、
「参考書か?」
弁当箱のふたを閉じてそう言う俺に、
「じゃなくてね、尾崎豊、気にならんかなって」
コイツは俺の心が読めるのかと軽く鳥肌が立った。
帰り道、ラシャイビルの書店へ行くと、偶然にも尾崎豊の特集をしているロック雑誌を見つけた。近々アルバムが出来るらしく、彼の足跡が長々と書かれてある。そこに高校中退の文字を見つけ、二度驚いた。やはり彼もバイクを盗む不良連中と同じなのだろうか。
記事に見入っている俺から雑誌を奪うと、由美子が言った。
「帰ってからゆっくり読もうよ」
レジへ向かった由美子は最近、髪が伸びた。肩までだったのが肩甲骨の辺りまで伸び、時々今日のように後ろで結んでいた。
どこよりも安心できる彼女のアパートへ向かうと、久しぶりに彼女の母に会った。
「タッパばひとつ忘れてね、取りに来たとよ。アンタたちのおるかて思うて電話したばってん出らんけん」
「すみません。俺が寄り道させたんで」
「よかとよかと。由美子、十時やけんね」
「はあい」
受験生をバイトに使う彼女の母は、娘の行く末が気にならないのだろうか。ウチの母親ならあり得ないことだ。しかしなぜだかそこには微笑ましいものがある。
「じゃあ行くけん。関口君よろしゅうね」
「あ、はい」
任されるというのも重責で、今日は少しくらい試験勉強を進めようと思った




