24(9月5日・木)
ひまわりのワンピースを買った日以来のラシャイビルだ。六階のARBレコードへ行くと、彼女は迷わず邦楽のコーナーへ行き、尾崎豊を探していた。
「あったよ。えーっとね、四枚ある」
彼女が指差す場所を見ると『十七歳の地図』『回帰線』『壊れた扉から』『街路樹』その四枚が目に入った。タイトルに射抜かれたように俺は『十七歳の地図』を手に取ってみた。
ジャケットには朝焼けか夕焼けの街、壁を飛び越える人影が見える。胸がざわつくジャケットだった。
「これがいいんじゃないか。ファーストアルバムみたいだし」
いつになく興奮している俺に、
「そうよね。一番目がいいかもね。これ、買って来る」
言いつつ彼女は60分のカセットテープを一緒に買っていた。
当たり前の顔で彼女のアパートへついて行き、彼女が紅茶を淹れてCDをセットした。途端に軽やかな、淡い色のついたような曲のイントロが流れた。歌というものは時にそういう出会いがある。イントロから俺はその歌に惹かれた。やがて唄い出した尾崎豊の声はかすれながらも甘く切ない声で、流行歌とはまったく違う言葉を並べ始めた。俺たちは一枚の歌詞を肩を並べて黙ったまま目で追った。狭いちゃぶ台の端で身体を寄せ合い、照れも恥じらいもなく尾崎豊の歌詞に見入った。息を吐く間もない、あっという間の四十五分分だった。
「よか歌ばっかりやね」
彼女はふうと息を吐く。
俺は魂も抜けて、
「ああ……」
呟くのがやっとだった。十七歳であるということは、こういうことだったのだと、俺と同じ理不尽な悩みに振り回されて、鬱屈とした心で夢も見えず、もがいている人間が他にもいたのだと、そのことが衝撃的だった。
「ダビング忘れとった。もう一回かけながら録るけん」
そう言って背を向けた彼女を、不意に俺は背中から抱きしめた。抱きしめたくなった。固まったように動けない彼女にそれ以上何も求めず、細い身体に腕を回し、気がつけば涙をこぼしていた。彼女は抵抗しない、代わりに俺の手へと優しく手のひらを重ねた。
「じゃあこれ、帰ってから聴いてね」
玄関先で硬直している俺に、彼女は笑っていた。
「さっきは……悪かった」
「別に、気にしとらんよ。嬉しかった」
その深い意味は分からなかったが、そこで言おうとしたことを先に言われた。
「明日からも普通に会うてくれる?」
俺はつま先まで満たされる幸福感の中で頷いた。




