表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/46

24(9月5日・木)

 ひまわりのワンピースを買った日以来のラシャイビルだ。六階のARBレコードへ行くと、彼女は迷わず邦楽のコーナーへ行き、尾崎豊を探していた。


「あったよ。えーっとね、四枚ある」


 彼女が指差す場所を見ると『十七歳の地図』『回帰線』『壊れた扉から』『街路樹』その四枚が目に入った。タイトルに射抜かれたように俺は『十七歳の地図』を手に取ってみた。


 ジャケットには朝焼けか夕焼けの街、壁を飛び越える人影が見える。胸がざわつくジャケットだった。


「これがいいんじゃないか。ファーストアルバムみたいだし」


 いつになく興奮している俺に、


「そうよね。一番目がいいかもね。これ、買って来る」


 言いつつ彼女は60分のカセットテープを一緒に買っていた。


 当たり前の顔で彼女のアパートへついて行き、彼女が紅茶を淹れてCDをセットした。途端に軽やかな、淡い色のついたような曲のイントロが流れた。歌というものは時にそういう出会いがある。イントロから俺はその歌に惹かれた。やがて唄い出した尾崎豊の声はかすれながらも甘く切ない声で、流行歌とはまったく違う言葉を並べ始めた。俺たちは一枚の歌詞を肩を並べて黙ったまま目で追った。狭いちゃぶ台の端で身体を寄せ合い、照れも恥じらいもなく尾崎豊の歌詞に見入った。息を吐く間もない、あっという間の四十五分分だった。


「よか歌ばっかりやね」


 彼女はふうと息を吐く。


 俺は魂も抜けて、


「ああ……」


 呟くのがやっとだった。十七歳であるということは、こういうことだったのだと、俺と同じ理不尽な悩みに振り回されて、鬱屈とした心で夢も見えず、もがいている人間が他にもいたのだと、そのことが衝撃的だった。


「ダビング忘れとった。もう一回かけながら録るけん」


 そう言って背を向けた彼女を、不意に俺は背中から抱きしめた。抱きしめたくなった。固まったように動けない彼女にそれ以上何も求めず、細い身体に腕を回し、気がつけば涙をこぼしていた。彼女は抵抗しない、代わりに俺の手へと優しく手のひらを重ねた。


「じゃあこれ、帰ってから聴いてね」


 玄関先で硬直している俺に、彼女は笑っていた。


「さっきは……悪かった」


「別に、気にしとらんよ。嬉しかった」


 その深い意味は分からなかったが、そこで言おうとしたことを先に言われた。


「明日からも普通に会うてくれる?」


 俺はつま先まで満たされる幸福感の中で頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ