23(9月4日~5日・水・木)
「なんだよ関口。元鞘かよ」
由美子と昼飯を同じ机で食っていると前田が面白くなさそうに言い放って通り過ぎた。そういうものはもう気にしない。そう決めていた。
斉藤知恵も最近では絡んでこない。そういう意味で俺たちはクラス公認の仲だった。実際はクラスのあぶれ者が一緒に飯を食っているだけなのだが。
――「関口君はお弁当持たんとね。由美子が二人前作るけん、そうしなさい」
とは昨日の帰りに寄った焼肉屋での言葉だ。彼女の母親の言葉は、いつも温かい。
そんな訳でふたりで弁当を食べている。鯨の竜田揚げが絶品だった。それも彼女が作ったという。
「でねえ、こないだ那由多さんは見えられんかったけど、杉内さんが見えらしたって」
一番目に唄った男性だ。
「俺はあの人の歌好きだけど。無暗に『頑張れ』って感じの歌じゃなかったし」
「そう? 杉内さんはね、尾崎豊が好きらしかよ。私もよう知らんけど、お店のお客さんで好きな人の多くって。今度CD買ってみようかなって思う」
弁当を食い終えると、弁当箱をふたつまとめてパックのコーヒー牛乳を吸う。
「さて、明日は放送部の日か」
彼女は放送部の部長で、月に二回ほど昼間は放送室にいる。その特権を生かして最近は日向那由多ばかり流している。さらには力技で十月の合唱コンクールの課題曲を『夕凪』に決めた。同じクラスのはぐれ者でも、彼女の場合、人を和やかにする力は持っている。要するに、いつだって集団に戻れるのだ。
「そろそろ杉内さんのCDも欲しかなあ」
窓の外を眺めた彼女はボンヤリ呟いた。
そんな翌日、昼休みに弁当を抱えて放送室へ行った彼女が舞い戻ってきた。
「CDプレーヤーの調子悪くてね、今日は下級生に任せた。ラジオ流すだけやけん大丈夫やろう」
と、部長の貫録で言い放った。
弁当を食べ進めていると、不意に彼女が立ち上がらんばかりの勢いで机に手をついた。
「杉内さんの出とらす――」
そこで初めて騒々しいDJの喋りを縫って、男性の声が聞こえていた。。
――「杉内さんはちょうど2週間前にもね、番組出演なさいまして。今日は一時間おつき合いくださいませ」
由美子を見るとよほどショックなのか、呆然としている。やがてスタジオで彼が唄い始めると箸は止まり、ラジオに釘付けになっていた。
「どうしよう! 来週から木曜日はラジオの日になる!」
もはや決定事項らしく、その笑みはどこか遠くを夢見ていた。
帰りがけの道で、
「やっぱりねえ。那由多さんの次は杉内さんって思うとったもん」
なぜか誇らしげに、新人発掘したプロデューサーの顔で彼女が言う。そして、
「ねえ、今からCD屋さんに行ってみん?」
「杉内直己さんのCDがあるのか?」
「ううん。尾崎豊」




