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21(8月11日・日)

 KING'S NIGHTというライブハウスに着いたのは五時半だった。意外に客が外に溢れていて、若い女性の姿も多い。高校生などが入っても大丈夫なのかと思ったが由美子は平然としている。あえてそうしたのか、服はひまわりのワンピースだ。


「この時間が楽しみったいねえ」


 入り口に向けた列の中で彼女が言った。そういうものなのだろうか。彼女の母は落ち着いた様子でチケットを握っている。そして、


「ほら、動き出したよ」


 長い列が動き出すと、その流れに乗って歩いてゆく。生まれて初めてのライブハウスに緊張しているのは俺だけのようだ。


 中に入ると極端に暗い照明で、ドラム缶がいくつも並べてあった、椅子はない。


「アンタたち、ドリンクのチケットば貸しなさい」


 彼女の母が言うので、言われるままそれを渡した。すると数分後、驚いたことにビールを三つ抱えた彼女の母が戻ってきた。そして笑顔で、


「こういう時は飲んでよかと。一端の大人ば気取りなさい」


 すると彼女が意味もなく乾杯をした。そして似合わないビールを美味しそうに飲む。どこか貫禄敗けしている自分に気づき、手にしたカップに口をつけた。


 ステージを見るとドラムのセットとピアノとギター。そして恐らくベースが立てかけてあった。まだ命の吹きこまれていないが楽器たちが、それでも静かに鳴動しているように思えた。


 やがて開演時間が近づくと、バンドがステージへ上がり始める。それぞれに楽器を構えたと思うと開演ブザーが鳴る。客席は真っ暗になり、ステージに照明が当たる。瞬間、命を吹き込まれた楽器が音を出し始める。どこからか声援が飛ぶ。ドラムがカウントを打つ。弾けるような音がスピーカーを震わせた。腹の底に響く重低音が鳴り始め、しかしメロディアスなオープニングが流れる。


「杉内さーん!」


 彼女が笑顔で手拍子をしながら名前を呼ぶ。確かに言われてみれば中州で見かけた男性だ。あの時とはまるで違う迫力に圧倒されていた。これがミュージシャンなのか。


「杉内直己です! 今日は日向那由多のレコ発ライブです! 今夜は盛り上がって行きましょう!」


 生き生きとした顔で即座に次の曲へ移る。よくあるボーカルの聴こえないバンドと違い、彼の歌はしっかりとこちらへ届いた。それは声のみではなく、歌に込めた魂まで聴こえてくるようだった。首に下げたハーモニカが静かに流れ、バラードが続き、ステージはあっという間にエンディングに向かう。


 次はソロの男性の弾き語りで、唄い始めると女性の声があちこちで響いた。どうやら表にいた女性集団は彼のファンらしい。少し甘過ぎるラブソングだと思ったが聞き苦しい歌はなく、最後に一礼すると喝采の中ステージを降りた。


 次は最初に出たバンドだったがボーカルが違った。さっきのボーカルだったスギウチという男性はステージ脇でハーモニカ担当のようだ。少し古臭いロックテイストだったが客席は湧いた。ボーカルのサングラスの男性は歌より喋りが専門なのか、曲の終わりに必ず笑いを取っていた。

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