20(8月9日・金)
夏期講習も終わり、なのになぜか由美子のアパートへ来ている。夏期講習の間に何度か斉藤知恵が話しかけてきたが、出かける誘いばかりだったので断っていた。俺には外の暑さより冷房の効いた狭い由美子のアパートの方がよかった。
「ごめーん! エアコンの調子の悪くて、修理も予約の詰まっとるって」
最後の砦が崩された気分で、
「窓開けてればどうにかなるだろ」
汗ばむ首筋をハンカチで拭いながら言った。
ということで今日は夏の定番、麦茶が出た。
「あとでアイス買いに行こうよ」
「その行き帰りが地獄だろ」
「えー、アイスー」
「あとでな。ちょっと汗が引くまで待ってくれ。で、宿題はほぼおわりだろ」
彼女は麦茶を飲むと、
「お蔭さまでなんとか」
笑顔を見せた。
「でね――」
またヒュウガナユタを流しながら、
「明後日、那由多さんたちのレコ発ライブのあっとさ。関口君、行かん?」
ここまで毎日聴いていてライブにも行くと言う人間の気が知れない。
「いいよ。俺、人に酔うし」
「えー、でもチケット買うたよ? この前のワンピースのお返し」
「アレは俺がお返しで――。分かったよ、行くよ」
「やったあ!」
そんな訳で強引に誘われたライブだった。彼女の母も行くというので待ち合わせはここに決めた。その日ばかりは勉強会は休みだ。気がつけば胸が高鳴っている自分に気づいた。
家へ帰ると、また脱ぎ散らかした母の服をカゴへ投げ入れ、今日はウィスキーのボトルを棚から出した。ブランデーの甘ったるさと違うエッジの効いた辛口の酒が喉を焼く。
(ライブか――)
想起されるのはバカでかいドラムの音が響き、これでもかと言わんばかりのギターの音色がジャカジャカと聴こえるというのが生バンドのイメージだった。ボーカルは何を唄っているか分からず、ピアノの音もどこで鳴っているのやら分からない、それが俺にとってのバンドだ。由美子が楽しみにしているのは身内びいきなだけかも知れない。とりあえず行くだけは行って、耳栓でもしておきたい気分だった。
それはそれとして、夏休み明けには志望校を絞らなければいけない。今の実力だと九大辺りだが、就職先のバリエーションを考えれば他を目指すのもありだ。これを機に母のマンションを出て一人暮らしのできる学校を選んでもいい。
が、そこまで考えて彼女の顔がチラつく。同じ学校の同じクラスだからこそ、という距離感は、離れればフェードアウトしてしまうだろう。かといって、それを理由に大学は決められない。母は俺が国立に行くことを信じて疑っていない。いざとなれば金は父から引っ張ると常々言っているが、俺はそこまで父に負担をかけたくない。もう遠い存在だからこそ、借りを作りたくなかった。父は父で黙々と生きているはずなのだから。俺のことで迷惑はかけたくなかった。




