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17(7月20日・土)

 アパートへ着いたのは三時半で、彼女の母はもうお店へ出たあとだった。


「ねえ、ご飯食べる?」


 さっきの涙は何だったのかというほど彼女は明るい。


「あ、ああ」


 俺は気まずさを感じながらテーブル脇に座っている。煙草には手を出さなかった。


 それから彼女は高菜とモツ煮込みと銀ダラの西京漬けを焼いて運んできた。


「煮込みは最高潮の染みっぷりやけんね」


 そう言うと、いつもの席で手を合わせた。


 黙々と、ふたりで食事を進める。会話がないことが不自然で、無理に口を開いた。


「夏期補習、出ないのか」


 どうでもいい話だ。しかし彼女は箸を止めて、


「ちょっとね。お店の手伝いが多くなるけん。朝、起ききえんとよ」


「つっても受験生だぜ。まあ、家庭のことは色々言えないしな。よかったら午後から俺と勉強するか?」


「午後……かあ。ここで?」


「まあ、そうなるけど……」


 すると彼女は今日いちばんの笑顔で答える。


「ここでしよ」


「三十分ごとに休憩するのなしだぞ」


「えー、じゃあ何分」


「九十分だな」


 えー、と不満げなその顔に、こちらは笑いがこぼれる。三週間かかったが、この瞬間が帰ってきた。俺と彼女の、誰にも言わない秘密の時間だ。




「じゃあ、明日からね。三時に」


「とりあえず宿題からやっていこう。じゃあな」


 自転車をこぎ出す足取りは軽く、家に戻ってもその気分は続いた。


 リビングに行くと、母がソファーに寝そべっている。


「あんた、通知表は」


 一気に気分が滅入るのを気づかないふりでやり過ごし、テーブルにそれを投げた。


「明日から午前中の夏期補習と、午後は友達と宿題やるから」


 母は通知表を眺めながら、


「友達ねえ。変な子じゃないでしょうね」


「変な子は補習のあとに勉強会なんてしないよ。仮にもAクラスなんだから」


「まあ、この調子で二学期も頑張りなさい」


 とりあえず五教科には4と5の並んだ通知表に満足したか、母は通知表をテーブルへ置いた。


 部屋に戻るとまた一度、胸のつかえが取れた気分を噛みしめていた。明日からはまた由美子との特別な時間が始まる。


 机の端を見ると、小瓶には五百円貯金が結構増えていた。彼女の家で食べる分がそっくりこちらへ回るのだ。そして不意に、あのファッションビルで見たひまわりのワンピースを思い出した。


(彼女に似合うだろうか……)


 夏の始まりに、しかし受験生にとっては自由のない日々の始まりだった。

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