16(7月20日・土)
由美子が俺の席に来なくなって三週間。それは終業式が終わっても変わらなかった。
なんや関口、田口にフラれたとや。でも斉藤のおるやろが」
クラスの中ではそういうことになっていた。気がつけばクラスの女子とも離れて俺以外と仲よくしていなかった彼女は、俺と同じく浮いた存在になっていた。教室移動もひとり、昼休みもひとりだ。
担任が夏期補習の希望を訊ね、半数ほどがプリントに記入して渡していた。もちろん俺も書いた。そして彼女はそのプリントを見つめたまま動かなかった。
夏休みというのはいつしか憂うつとの闘いだった。どこへ連れて行ってもらえるでもない。里帰りする訳でもない。ただただ、宿題を一日ごとに削り、それでもあり余る時間を図書館で過ごし、本ばかり読んでいた。SFばかりを読みふけり、宇宙飛行士に憧れたこともあった。しかし今はもう、そんな夢も見れない。入試に向けて最低限度の成績を収めるだけだ。例えば彼女のことばかり考えている今が、いちばんに不必要なことなのだ。たとえ傷付けたのが俺だったとして、何ができる訳じゃない。何が言える訳じゃないのだ。
(違う……俺が言わなければ)
初めて人を傷つけたという思いに、あれからずっと悩まされている。傷つけられることへの耐性はあったが、その逆が俺にはなかった。上手い言葉が浮かばずに一日中費やしたこともある。なのに、たったひと言が浮かばなかった。そしてそのひと言がとても遠い言葉に思えていた。
終業式を終えて彼女のアパートへ向かった。勇気を出して、というよりは心を消した。
が、呼び鈴を鳴らして出てきたのは彼女の母だった。
「あら関口君、久しぶりたいね。でも由美子、まだ帰っとらんとばい。上がって待ちんしゃい」
「いえ……またあとで来ます」
下校途中で寄り道をするとしたら――そう考えて何も浮かばない自分が情けなかった。あれほど顔を突き合わせていたのに、こんな時に思い当たる場所すら浮かばない。仕方なく那珂川通りを通って引き返すと、春吉橋の上に佇む制服姿の女の子が見えた。それが彼女だということは遠目にも分かった。俺はペダルに力を込める。
驚いたのは向こうも同じようで、
「関口君……なんで……」
表情を失くして突っ立っていた。俺は覚悟を決める。今言わなければ一生言えない。
「田口。俺……悪かった。急にあんなこと言われて、焦って、それで……」
すると彼女はポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。人はこんなにも泣けるものなのかというほどに涙を落とした。
「田口……泣くなよ。俺が悪かったからさ。だから……」
「ううん、よかと。私たち、そういうこと言っとる場合じゃなかもんね。受験生やもんね。私の言うたこと忘れて。でもね……また家に来て。一緒に勉強して、一緒に話そう」
必死に涙を堪えて彼女はそれだけ言った。
「ああ……。一緒に帰ろう」
青空の下。彼女が泣きやむのをいつまでも待っていた。




