【一人声劇台本・終章】(比率:不問1)
☆登場人物【私】わたし・わたくし
どちらの読み方でも大丈夫です。
年齢と性別の設定はありません。けど、社会人です。
一人称や語尾を変更する。言い回しを軽く変更・アレンジするなどはOKとします。
ですが、結末が大きく変わる行為は禁止です。
※BGMを流しながらの読みをしてみるのも良きかと。
ただし。BGMが使う場合はその音源の規約を守って使用してください。迷惑をかけないように。
※本編で「」『』の表示がありますが、声を変えて読む、読まないは演者様におまかせします。
…人の記憶って声から忘れるって言うでしょう? (by作者)
本編読了(目安)⇒五分くらい。
【終章】
☆☆本編☆☆
「わたしにも、初恋の相手は居たんですよ。」
「でもね。」
「時代の動きを言い訳に、初恋の相手を迎えに行けないような男だったんです。わたしは。」
蔑むような言葉を選んでいるにも関わらず、老爺はどこか愛おしげに言葉を紡ぐ。
老爺は、皺々(しわしわ)な手で私の手を握り。笑みを零した。
「きみが、知らない世代でよかった。」
「じゃなければ、こんな話をする機会も訪れなかったと思うんだ。」
一介の訪問ヘルパーである私に、そんな嬉しげな顔をされては言葉に詰まる。
「戦争は、確かに二度と起こしてはならない。けどね。」
「きみたちが、過ごしていく…これからの時代。火種は残っているみたいだ。そういった燻りを残してしまったことが悔やまれる。」
老爺は、少しだけ悲しげな視線をした。
「どうか、平和な日常が続いて欲しく思っている。」
「長く生きすぎてしまったせいかな。」
「自分でも、何だか弱気なことを言ってしまうんだよ。」
そう言って、老爺は天職としていた思い出に視線を流した。
本棚に飾られた写真立てである。
彼の愛おしげに見つめる眼差しは、とても優しく。切なげであった。
ーーーーー
その後、上司から私が担当していた老爺の訃報を告げられた。
戦争が終わりを迎えてから70年目の梅雨の時期に。
私は、老爺の最期を見届ける場に立ち会えていない。
実家の都合で、一週間ほど帰郷していたせいもある。
ヘルパーという職に、人の死は付き物だ。
しかし、辛いものは辛い。
気落ちする私。
そんな、私を見かねて同僚から 私宛ての封筒 を渡される。この同僚が、私の代わりに老爺の元を訪問してくれていたのだ。
(間)
帰宅後に、中身を確認してみる。
二枚の写真と便箋の一部を切り取った紙が入っていた。
写真は見た目からも古いものと、見覚えのある写真の二枚であった。
見覚えのある写真というのは、私が老爺の九十歳越えの誕生祝いに撮ったものだ。
そして、見た目からも古い写真は老爺が天職としていた時代に撮ったもので。
尚且つ、一番大切にしていた写真であることを私は知っている。
青に着色された朝顔。
それに、微笑む赤子を抱えた女性とそんな女性らに寄り添う男性の家族写真。
涙が溢れそうになり、頭を振る。
徐ろに、二つ折りにされている紙を開く。万年筆特有の掠れた字で。
『きみが、わたしの担当でよかった』
『ありがとう』
そんな短い文が添えられていた。
我慢ならなかった。
堪えられなかった。
外はシトシト…シトシト…
雨が降っている。
私の気持ちと共鳴するように降っている。
この雨が上がる頃。
私の気持ちは、変わっているだろう。
『わたしは、語ることしか出来ない。』
『きみは、聴くことしか出来ない。』
『それは、悪いことじゃない。』
『だからこそ、知らない世代の話に耳を傾ける。それが重要なことなんだ。』
老爺は、左目だけを細めて優しく。
力強く語ってくれた。
ーー契〜チギリ〜 終章 おわりーー