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【声劇台本】契ーチギリー  作者: 瀧月 狩織
2/4

【一人声劇台本・前編】(比率:男声1)


【一人声劇台本・前編】


☆登場人物は【(わたくし)】としていますが、男性です。

演者の性別は問いませんので、声が低めな女性や中性声の方でも気楽に演じていただければ…と思います。


キャラクターの年齢は18~20代半ばくらいと考えてください。

※一人称や語尾の変更はご自由に。

ただし、結末が大きく変わるようなアドリブやセリフ変更はナシです。


※BGMを流して読んでみるのも良きかと。

ただし。BGMを使う場合は、音源の規約も守って使用しましょう。迷惑をかけないように。


※本編で「」『』の表現を使用しています。

その部分を声を変えて読む、読まないは演者様にお任せします。

…人の記憶って声から忘れるといいますでしょ?(By作者)




☆本編読了目安⇒一〇分~一五分程度。



【前編】


《題名》チギリ~青年の独白~


香る藤の花の下。

とある少女(おとめ)と結婚を約束した。


必ず、君を迎えに行くと。その時は私の花嫁だと。

そう、(ちぎ)った。


少女の藤の花弁(はなびら)では、隠しきれない色付いた頬。

可愛らしく、幸せにしたいと心に決めた。


しかし、(とき)残酷(ざんこく)だった。


戦争が起こり、戦地に赴くことになった。


『万歳!万歳!!』


勇ましい軍歌と村人たちの声援に包まれ、村を離れることに。

列が動き出す。

立ち去り際に振り向いて、視線を迷わせる。


見つけた。


視界に捉えた少女(おとめ)は、力いっぱい両腕を上げ下げし、村人たちの声援と混じっていた。


それが、少女(おとめ)を視界に捉えた最後の姿だった。


(間)


ーーそれからは死に物狂いだ。

最初こそ、仲間が倒れる姿に涙し、声を枯らした。

しかし、その光景が当たり前と感じ出す異常さ。

感覚が麻痺を起こして、正常とは何か。異常とは何か。

ただ、私を動かす意思。


御国(おくに)の為に、闘う。


声を張る。戦い、駆けて、闘い、走る。

敵兵も、仲間も次々と倒れていく。

心も、身体も、全てが崩れて、バラバラになっていく日々。


それでも、あの少女(おとめ)を想えば。

生きなければ…と足が動いていた。

だが、自身の精神は限界を迎えていたのだ。


茂みから放たれる(たま)

敵兵の銃に撃たれ、身体が傾き、暗闇が支配する。


舞い落ちる藤の花。

迷ったような表情の少女(おとめ)

深く、深く香る藤。

色付いた頬は、とても美しい。


走馬灯というのだろうか。

私は、死んだのだろうか。

奥歯を噛み締める。歯が削れる感覚がある。

それほどに、(にご)った感情が胸の中に芽生えた。


会えなかった。

会いたかった。


生きて、キミに逢いたかった。


ーー目を覚ますと、野戦病院(やせんびょういん)の清潔とは言えないベッドの上だった。右目を被弾したようで、重く暗い視界。

二度と、この右目は陽の光を(とお)さない。


負傷兵として扱われる事になったが、激化していた戦地では多少の怪我でも四肢が動けば戻される。

私は、もう御国(おくに)の為に。

微塵(みじん)も闘志を燃やし、闘える状態ではなかった。


ただ、あの少女(おとめ)に逢いたい。


そんなウワゴトで、ザレゴトを胸に秘める。


一種の精神疾患の病人として振る舞うことにした。

ーー下手をすれば、上官から殺されるような選択ではあった。


(間)


それから、幾日が経った。


忙しない軍靴(ぐんか)の音。

制止を求める軍医と看護婦の声。

強めに開け放たれた扉から見え、聞こえたもの。


動けるものは、外に集まるように告げられた。


ーーまた。戦場に戻されるのか。

私は、また狂ったように戦わなければいけないのか。


入院している間に。

如何(いか)に、自分のような駆り出された身の上の兵が 捨て駒 なのかを理解した。

そして、死んでいった仲間を思うと尚更、やりきれない。

どうして、こうまでも 自由 とは程遠いのか。

悔しかった。もう、(けが)れたくなかったのに。


だが、上官の命令は絶対だ。


蒸し蒸しとした異国の暑さ。

立てる状況ではないやつは、看護婦に支えられ。

私のように自立していられるやつは、出来る限り背筋を伸ばす。


私たちの前に立つ上官。

神妙しんみょうな顔つき。

ーーいや、あの表情は下手な言葉では表せまい。

(またた)()に、上官から戦の終りを知らされた。


祖国は、負けた。

敵国に全面降伏する形をとったとのこと。


上官から聴こえた言葉に、理解が追いついたのは。

負傷兵として並んでいた仲間たちが膝から崩れたり、(むせ)び泣く声が聞こえてからだった。


心臓が、強く脈を打った。


私は、今にも笑い転げそうだった。

いやむしろ、精神疾患のものを装っているのだから笑うべきだったのだろう。


それは、狂気にも似た歓喜だ。


生き残った。

生き残ったんだ。

これで、私は戻れる。

四季の国に。(おのれ)の祖国に。

あの少女(おとめ)の待つ(さと)に。


ああ、これが私の勝ちだ。

私は、生き残った。


それからは慌ただしく、日が流れる。

敵国に捕虜として身柄が引き渡されたが、特に覚えていない。

何せ、闘う必要のなくなってからは抜け殻だったから。


(間)


復員船(ふくいんせん)

後に、そう呼ばれることになる船に乗り込み。

海を渡る。


ニホンの土を踏む頃には。

冷たい風が吹き付ける時季だった。


人混みから、抜け出し。

酷く崩壊した街並みに言葉を失う。

おぼつかない足取りで、街を歩き。

また、(みなと)に戻って来た。

その時に、息を大きく吸い込む。

チリッ…と肺や胃といった臓器が痛む。


それでも、祖国の空気をいっぱいに満たした。


それからは、考え、働く日々だった。

どうにか、故郷(ふるさと)に戻りたい私。

しかし、汽車(きしゃ)に乗るには 金 が必要だ。

金を貯める間、何をしたか思い出すのも拒絶反応が起きることをした。それだけだ。


既に、ニホンの土を踏んだ頃より時季が流れた。


蝉時雨(せみしぐれ)の降る時季。

私は、(さと)の土を踏みしめた。


順を追って、村にある家を尋ね歩く。

最初は、実家だ。


ごめんください。


一言だけ、声をかける。しばらく待つと、戸が開く。

少し老いた女性が、顔を見せた。

軍帽(ぐんぼう)を下ろした私が、喋る前に抱きしめられる。

女性の腕は、思っていたより力強さをもっていた。

抱きしめられた部分から、せり上がってくる感覚。


溢れそうになる感情を堪えて。


ただいま、母さん。戻ったよ。


その言葉に、女性は雫で濡れた。


一休みの後、村にある家を再び、尋ね歩く。

戻りました。生きております。

幽霊などではありません。


これらの言葉が、言い慣れる時には最後の家を訪問しようとしていた。最後の家。

そう、ここはあの少女(おとめ)の家だ。

()りガラスを叩く。


ごめんください。


その言葉の後に、慌ただしく扉が開かれる。

現れたのは、少しやつれたのが伺える女性。

しかし、この女性は私の求めている相手ではない。


私は、軍帽(ぐんぼう)を下げ、女性に挨拶する。


戻りました。あの。

(好きな女性名)さんは、ご在宅ですか。


あの少女(おとめ)の名前を音にした。

だが、女性から返された言葉に心は打ち(くだ)かれる。


彼女は(さと)には居なかった。

終戦を迎えてから幾月(いくつき)は、意地らしく待っていたとも女性は語っていた。

しかし、嫁行きが遅れると村人たちに(そそのか)され。

ついには、私が死んだと聞かされていたらしい。


女性は、(ひど)く深く謝ってきた。


軍帽を被り直す。

せいいっぱいの、作り笑みで立ち去る。


(間)


ーー私の足は、あの藤の花の前へと来ていた。

記憶にあるような香りも、花も舞っていない緑葉(りょくよう)の樹を見る。


私は、なんの為に闘ったのか。

なんの為に、生き残ったのか。

なんの為に、戻って来たのか。


分からない。

分かりたくない。


私は、私は。

何で、生きているのか。

…胸の中ににじむ感情はとてつもない。


その時、枯れたはずの(なみだ)が溢れる。


ああああああああ!!!!


膝から崩れ、土を掴む。土に水模様を作る。


泣き()れ、腫れた目元で見上げる。

私の心を見透(みす)かすのは、青く()き通った空。


…もう、約束は果たされない。




『初恋は実らない。とはよく言ったものだ。』





チギリ〜青年の独白〜 おしまい



公開日⇒2019/04/03(水)

内容の一部変更 修正 2020/04/02(木)



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