【一人声劇台本・序章】(不問1)
☆登場人物の【私】は女性でも男性でもOK。
ただ【わたくし】で演じると不自然な部分があるかも知れません。
その際は、語尾や一人称を変更してみてください。
※結末が大きく変わるような改変などはナシとします。
※BGMを流して読んでみるのも良きかと。
ただし。BGMを使う場合は、音源の規約も守って使用しましょう。迷惑をかけないように。
※「」『』の表現があります。
その部分は声を変えて読む、読まないは演者様にお任せします。
…人の記憶って 声 から忘れるっていいますでしょ?(By作者)
☆本編読了目安⇒五分程度。
【序章】
「いいかい。」
清潔な白いベッドに横たわって、老婆は口を開いた。
「戦争なんてのはね。哀しいだけさ。」
私の知らない時代のことを、ゆっくりと老婆は語る。
「あたしにだってね。結婚を約束した人がいたのさ。」
私の問いに、老婆は悲しげに笑う。
「いいや。帰ってきたよ。ちゃんと、生きてね。」
「でもね。遅かったのさ。あたしには、もう爺さんが居ったから。」
私の問いに、老婆は優しく笑う。
「後悔してるかって、訊かれると答えづらいね。」
「でも。爺さんに嫁いでなきゃ、アンタも産まれてないからね。」
老婆の掌は、年の割に力強くて、温かった。
「いいかい。契を交わすときは、慎重にね。口約束でも勿論のこと。…言葉には力が宿るのさ。」
老婆の話は、幼い私にはよく分からなかった。
(間)
けど、今なら分かる気がする。
「ばあちゃん。あっちで、初恋の人と再会できた?じいちゃんが、妬くからさ。あんまり意地悪しないであげてね。」
線香の匂いを感じつつ、手を合わせた。
ふと、暖かく優しい風が吹き抜ける。
透き通った青い空を、見上げた。
(間)
契。
約束を交わすこと。契約。または、それら行為のこと。
街から少し離れ、奥まった土地にその村はあった。
村人たちは、大変仲が良く。皆、笑顔の絶えない日常を送っていた。
「必ずキミを、嫁に迎えよう。」
「…はい。兄様。」
昭和初期の皐月の時季。
一組の少女と青年が 交わした口約束。
その言ノ葉を聞き届けるのは 藤の花。
香る藤の花の下、真剣な眼差しと色付く頬。
しかし、その契は果たされない。
戦火があがり、青年が村を立ち去ったからだ。
…コレは時代の波に引き裂かれた少女と青年の話。