5-8「燃える城」
ドサッ! と忍者が屋根瓦へと崩れ落ちる。
「申し訳ありません、御館様、拙者はまた……最後までお守りすることが……」
力のない声で忍者が呟く。お互い命を賭けた勝負だったが彼がどれほどの想いで戦っていたのかを知った今、何かを言わなければいけない気がした。だが何を言えば良いのか……
悩んでいる時間はそうないと感じたので思ったことを言おうと口を開く。
「少なくとも敵である俺からすると、参ったよ。貴方の存在でこちらは分断されたばかりか貴方を倒してもこの傷で俺はもう助太刀にはいけない…………貴方はよくやったと思う」
「は、はは……そうか、敵である其方が言うのなら…………拙者も少しはお役に立てたのだと誇りを持てる」
忍者は満足そうに言う。
「待て」
ダイヤの所へ戻ろうとする俺を彼が引き留める。俺は足を止め彼に近付いた。
「もう、御館様への……戦いに手出しはできないであろうから教えておく……拙者の弱点を見極めるコツだが……拙者はこの足で敵よりも速く動くことに生まれた僅かな時間……そこで見極めている…………もし其方が生きていたら参考にしてほしい」
なるほど、彼の説明で合点が言った。この屋根で彼が常に後手に回っていたのは時間稼ぎだけではなく俺に先に攻撃させることで僅かな時間を生み出すためだったのか。とはいえ、言うのは簡単だが実行するとなると相当難しいだろう。
「貴方は、本当に凄い人だ……ありがとう」
俺がそう言うとフッと微笑み主のために戦い抜いた忍者は消えていった。
それとほぼ同時に俺を纏っている赤いオーラが薄くなっていく。
「まずい、もう時間がない」
俺は忍者のいたところに一礼すると屋根を蹴り天守閣最上階へと戻った。
「トーハさん、本当によかったで…………その血、待っていてください! すぐ治します! 」
帰ってきた俺を笑顔で迎えてくれるダイヤだったが俺の流血している左手をみて血相を変えて走ってきた。
「『ヒール』! それとトーハさん、この薬草を! それからこの薬草をすり潰して作られているポーションを飲んでください」
赤いオーラだけでなく『回復の魔法』により身体が緑色の光に包まれたと思った矢先にダイヤがてきぱきとバッグから取り出した薬草と包帯で俺の左手を止血するとポーションを差し出した。俺はそれを飲み干す。と苦みが口いっぱいに広がる。
「苦くて辛いでしょうけど我慢してください」
俺の表情で言いたいことが伝わったのだろう。彼女がそんなことを言った。しかし、回復手段のてんこ盛りと言うべき彼女の処置のお陰で次第と身体が楽になってきた。
「だいぶ楽になったよ、ありがとう」
俺が彼女の顔を見てお礼を言ったその時だった。『強化の魔法』の赤いオーラがフッと消える。それと同時に俺の身体に激痛が走る。
「ぐっ…………」
俺の身体全てが崩れ去るような感覚に襲われる。
あの忍者は自分を分身したと錯覚させるほどのスピードの持ち主だ。その彼に追いつくまで身体を強化したとなるとフィードバックは……
「があああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 」
骨が! 血管が! こんな小さな身体では物足りず飛び出したいと願い巨大化しているようだ。
ダメだ! それ以上は本当に身体が張り裂けて…………
「トーハさん! トーハさん! 」
彼女が涙声で俺の名前を呼ぶのが聞こえる。
…………この魔法は危険だ。
薄れゆく意識の中、そう判断した。。
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「トーハさん! トーハさん! 」
彼女の声が聞こえ目を開ける。ガバッと起き上がると同時に身体の変化に驚く。
「なんじゃこりゃああああああああああ! 」
俺の身体は目を除き頭の先からつま先のてっぺんまで包帯でグルグル巻きにされていた。カサカサしてむず痒いので薬草が間に挟まっているのだろう。しかし、そのお陰か痛みはほとんど治まっている。
「良かった、トーハさん……」
彼女が目に涙を浮かべながらも笑う。
「心配かけてごめん」
彼女に微笑みかける、が素早く現状を認識して大声を出す。
「スペードは! ? 」
俺は起き上がろうとするもどういうわけか足にも腕にも力が入らなかった。情けないことに強化中に使用した部位程フィードバックは深刻なようだ。
「安静にしていてください! スペードさんは、今は……彼女を信じましょう。彼女なら大丈夫ですよ」
そう言って俺の肩を抑えて床に寝かせる。確かに状況が分からない今向かっても途端に駆け付けて人質に取られ不利になることもあるかもしれない。今は彼女を信じて待つことくらいしかなさそうだ。
俺が再び横になった時だった。夢中で気が付かなかった何か焦げ臭く感じる。
「ダイヤ、この臭いは一体? 」
それを聞いた彼女が首を傾げる。
そうか、俺はゴブリンなだけ鼻が良いんだ。つまりこれは薬草の匂いに敏感になっているのか『強化の魔法』の副作用なのかもしれない。
推理したと同時にダイヤが眉を顰める。
「確かに焦げ臭いですね、何でしょうかこれは」
そう呟いた途端、辺り一面が火の海に包まれた。
「こ、これは一体どういうことだ」
突然のことに思考が追いつかない。何で急に辺りが燃えて…………まずい!
「ダイヤ、スペードを! 」
それを聞いた彼女は俺をすぐさまバッグに入れ隠し階段目掛けて歩き出した。しかし、階段は隠し階段だからか強度は考慮されていなかったのだろう。すぐさま燃え尽きてしまった。こうなると降りるならともかく上に行くとなると至難の業だ。バッグが揺れ彼女が必死にジャンプをしているのが伝わる。しかし届かないようだ。揺れるバッグの中考える。
この火の回りからみてもそろそろ脱出しなければ俺達もマズいだろう。でもそれは御館様を倒したスペードが城から出ようとしたときも同じこと、いや何時になるか分からないがもっと深刻なことになっているだろう。だったら……
「ダイヤ、話がある」
俺はバッグ越しに彼女に語り掛けた。
次回4月4日投稿予定です。




