1-6「君を助けに来た」
男は仲間が無残にやられ呆然としている俺たちの元へダッ! と走ってくる。あのゴブリンみたいに一閃するつもりだろう。
だが、一直線にこちらに向かってくるならこちらにも考えがある! やつの直線的な動きは速いがカウンターもしやすい! そして俺との身長差を考慮すると剣が振るわれるので俺の真上から振り下ろし真っ二つにしてくるだろう。剣の間合いからざっと目測して剣が振るわれるであろう場所を想定、とりあえず武器を払わせてもらう! !
ガギィンッ!
狙い通り俺の棍棒を剣にあてることに成功し、奴の剣は払われる…………はずだった
「はぁっ! 」
しかし奴は咄嗟に剣を横にして俺の棍棒を躱す。
ブンッ! と俺の棍棒が空しく空を切る。
まずい、この体制は……はやく立て直さなくては次が来る…!
俺は我武者羅に右足で力強く地面を蹴りその場から離れようとする。
地面をけった直後に来る奴の第2撃……! 間一髪即死は避けられたものの右頬が浅く切られた。
「ぐっ…! 」
「ほう、こちらの振るわれた剣に対してカウンターを狙うだけではなく。あれを躱すとは。ゴブリンにしてはなかなかやるな。」
この男…強い!
近づいてきた男はブロンドヘアに頭以外に青銅の鎧を着こんでいた。ブロンドの髪と青銅の鎧の対比が眩しい。しかし、顔を出しているこの装備は余裕の表れだろうか? そうであろう、この男は歴戦の勇者かは定かではないがゴブリンの襲撃には対処できるほどの自信があるのだ!
この男は通常のゴブリンは力はあるが頭はそれほどでもないことを理解している……故にゴブリンでは咄嗟に反応できない方法で倒しに来た
「ギギっ! 」
【ちぃっ! 】
隙を見て仕留めようと伺っていたボスも思わず嘆く。
………この男には隙がない、ぬけぬけと飛び込んでいたらボスが返り討ちにされていただろう。この男を前に生き延びるのは至難の業だろう、そう確信した時だった。
「…! ダイヤ! 危ないから家の中に入っていなさい! ! 」
男が突然大声を上げた。視線の先には……同じく似たようなブロンドヘアの長髪の女の子が立っていた。
それをみてボスがこれ幸いと真っ先にその女の子に飛びついた!
ドンっ! と勢いよく地面に身体を打ち付けられる彼女。
「ギギギギギギギギギギギギギギ! ギギ! ギギエエエエエエエエエエィ! ! 」
【今のうちにあの男をやれ! やれ! やれええええええええええぃ! 】
ボスは勝ち誇ったように俺に言った。ゴブリンの言葉が分からない男も状況を察したのだろう。
「やめろ! ダイヤを放せ! ! ! 」
先ほどの余裕はどこへやら明らかに狼狽している、それもそうだ。恐らく彼女は男の娘なのだろう。娘を人質にとられ平静でいられる親がいるのだろうか? いや、少なくともこの男はそうではないようだ。
これで生存の希望が生まれた……
ボスの言う通りに娘を人質に取られ何もできないであろう男を始末しその後娘も手にかける、最後に母親の口を封じる。これでこの場は何とかなる。
…………実に、怪物と言われるものにふさわしいやり方だ。
【そうだ、破壊しろ。奴はお前にほかのゴブリンと同じように剣を振った! その家族も同罪だ! ゴブリンらしく手段を選ばずにやってしまえ! ! ! 】
心の中のもう一人の俺、悪魔が囁く。
でも…それでいいのか? 俺は見た目はゴブリンだけど心は人間だぞ? そんな非人道的なことはできない!
【何を馬鹿な…ならばあの声の主はどうする? このまま馬鹿正直に男と戦ってもやられるだけだ! 】
悪魔が手法を変えてきた。
確かに、ここで俺が無残に死んでしまったら声の主にも会えぬままゴブリンとして死んでしまう……!
それならば……
………いいや違う!
俺は手を強く握った。
ここで非道な手段で生き延びたとしてもその時点で俺はゴブリンと何も変わらない! ! そんな状態で誰かを助けることなんてできない!
俺は見た目はゴブリンでも、心は………最後まで人間として生きたい! ! ! ! ! ! !
覚悟は決まった──────あとは走るだけだ! ! !
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! ! ! ! 」
俺は雄たけびをあげ地面を力強く蹴りボスの所へ走った! ! !
すると走ってくる俺に気が付いたのか女性が声を出す
「お父さん! 」
その声を聞いてハッとした! あの時の声だ! ! ! あの声は恐らくこの女性が……!
時が止まったような、永遠の時間に感じられたが時間にしては1秒もなかっただろう。
もう迷う必要はない──────!
俺は一層力強く地面を蹴る──────っ!
「しまった! 」
男が慌てて身構えるが俺はその横を通り抜ける!
「ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ! 」
俺は棍棒を構える! ! ! ! 狙いは………ボスだ! ! !
「ギギ! ? ギギギギギギギギギギギ! 」
【なに!?何を考えてやがる! 】
ボスが動揺しているうちに一気に間合いを詰め、俺は思いっきり棍棒を振るった!
ドゴォンッ!
「ギィャアアアアアアアアアアアア! ! ! ! 」
俺の一撃がボスの腕に当たりクリーンヒット!ボスは空高く舞った! !
さようならボス、万が一に男の反撃を考慮して俺に男を襲わせもしそうなったらいつでも逃げられるようにしていたのでしょう。その賢しさ、俺には真似できません。
ドスンッ!
ボスが勢いよく丘の下に打ち付けられる音を聞く。
もう戻れないが──────後悔はない! 俺の心は青空のように晴れやかだった。
「大丈夫? 」
俺は倒れている女性に声をかけた。
こういうとき、何を続けて言えばいいんだろう? 気の利く言葉が浮かばない………ええい、わからない! こういうときは直球勝負だ! この状況を、俺の心境を現すにもふさわしい一言だ!
「君を助けに来た」
そう、彼女に告げた。