3-5「ゴブリンであることの苦悩」
視点戻って踏破のお話です。
ダイヤがドンカセまで無事歩いていくのを見届けた俺は森の奥へと進んでいた。正直1人で初めての森の奥へ進むとなると恐怖心が全くないというわけではない。というか風が吹くとざわざわと「待っていたよ、ここが地獄の入り口だ」とばかりに葉が揺れるのはかなり怖い。正直夜に訪れるのは御免被りたい。
───何が起こるか分からないこの世界、本当にゴーストが出るかもしれないのだ! 出来れば昼のうちに全体を把握しておきたいとできるだけ急いで行動をしなくては! ! !
そう決心をして急いで木を登った。そして以前のようにジャンプできそうな距離にある丈夫そうな枝を見極め渡りながら移動していく。ケルベロスというとやはり森の奥にいるのだろう。
と頭にこの森のこれまでの地図を描きながら念のため渡ったところを剣で軽く引っかき印をつけながらもできるだけ奥に向おうとしたその時。
「うわあああああああああああああああああああああああ! ! ! 」
下から叫び声が響く。下を見ると鎧を着た剣士が白いタカのようなカラスのような鳥に襲われている。
「この! このこのこのこのぉ! ! ! ! ! ! ! 僕が! タカラスごときに! ! ! ! 負けるかあああああああああ! ! ! ! 」
剣士は鳥を振り落そうとブンブンと剣を振っているが全てが空しく空を切っていた。タカラスという鳥はその剣を見極めて確実に男の剥き出しの顔面を突いている。
関わると確実に偉いことになる。そんな予感がするもこのままでは一撃は弱くともいずれ急所を突かれてやられてしまうかもしれない。
俺は仕方なしと割り切り、木を飛び降りた。
「えっ? 」
突然何者かが下りてきた音に驚いたのはその剣士だけではない、鳥も同じだった。俺はその隙をついてブンッと剣を振り鳥を一閃する。鳴き声も上げる暇もなく鳥は息絶えた。
「助けてくれてありが………………うわわあああああああああああご、ごゴゴゴゴブリン! ! ! 」
男は俺がゴブリンだと気付きドスン! と大きく尻もちをついてしまう。
「そっちを真っすぐ行けばドンカセにつく」
「うわああああああああああああ喋ったあああああああああああああ! ! ! ! 」
男は更に大きな悲鳴を上げた。これが普通の反応なのだ。
ダイヤやオパールさん、ディールのように誰もが俺と接してくれるわけではない。だから彼らとのつながりを大切にしたい。剣士は驚いて腰を抜かしているので戦えないのを見て俺が木を登り立ち去ろうとしたその時だった。
「やめろ! その人を放せ! ! ! ゴブリンめ! ! ! ! 」
大きな声が響いたので見上げるとそこには1人の剣士と魔法使いが立っていた。
魔法使いの女性と剣士の男か……2人を見てダイヤとルイーダが重なって次に人間として召喚されたらあり得たかもしれないダイヤと俺のならびっが重なって思わず涙ぐみそうになるがそう感傷に浸ってもいられない。
どうやら俺が襲ったと勘違いしているらしい、落ち着いて状況を見れば腰を抜かした男と1体のゴブリン………………まあ確かにそうみえなくもない。
「ダンスタン! その人は大丈夫? 」
「心配ないよミスア! ゴブリン1匹くらい俺一人でやっつけてやる! ! ! 」
話を聞くとどうやらダンスタンという男性剣士が俺と戦う気満々のようだ。ここで逃げて追ってこられても面倒だから戦うしかないか。
俺は観念して戦う決心をする。
彼は茶髪をなびかせながら大剣を斜め鞘にさしていて今その剣の柄に手を伸ばした。銀色のピカピカの鎧を見ると冒険者なりたてなのだろう。バッジはどこかに隠しているのだろう、人にみえれば良いのだから戦闘中にモンスターに見える位置に設置しておく必要もないということか。
こちらとしても戦闘に関してはほとんど素人なのだから戦闘経験を積むという意味で人間の冒険者なりたてというのは戦う意味もある。
「行くぞ! ゴブリン! ! ! 」
律儀に戦闘開始の合図を告げながら男は剣を抜き剣を引きずりながら俺目掛けて突進してきた。
ガガガガガガガガガガガッ! と剣が地面を引っかく音が響く、数メートルも進まないうちに木の根元にでもぶつかったのだろう。ガンッ! と鈍い音がして男は顔を歪ませながら剣を落とし手を何度も振った。
「もう、何やってるの! 格好つけて使いこなせない大剣何か使うからそうなるの。私に任せて! 」
戦闘すら始まらなかったことに驚き俺が目を丸くしている間に俺と男の間にミスアと呼ばれていた女が立っていた。紫髪の彼女は帽子にビロードと軽装なのをみると盾の呪文が使えるのだろうか? 彼女が黒いステッキに紫の丸いオーブのようなものをつけたシンプルなデザインの杖を掲げる。
「『ブリズァード 』! 」
彼女が呪文を唱えるとともに杖から小さな吹雪が吹き荒れそれが一つに集まり小さな鋭い氷の塊となって俺に一直線に向かってくる。
氷は余りに冷たいと凍傷の危機があるという………………そのようなものを鋭く貫くようにして放つとは何と恐ろしい呪文だろう。決して人に使っていい呪文ではない!
しかし強力な呪文だけあってコントロールが難しいからか動きは一直線と単調なうえ攻撃もそれほど速くはない。サッと右に避けて躱す。
「くっ! 私はファイエアのほうが向いてるのに! ここが森じゃなければ………………」
彼女が地団太を踏んで悔しがる。なるほど、攻撃系呪文にもその人の向き不向きがあるようだ………………
そこに痛みが引いたのか男が女の肩に手を置いた。
「こうなったら2人がかりで行こう! 」
まずい……近距離の1人と遠距離1人の連携は厄介だ。これまで通りにはいかないだろう。俺は生唾を飲み込み剣を構えなおした。
「はあああああああああああ! 」
ダンスタンが大剣を引きずりながら突撃してくる、時々さっきみたいに根に剣が引っ掛からないように視線を逸らし足元をみているがこちらはもう一人の敵魔法使いのミスアにも気を配らなければならず下手に動けない。まあ向こうから近付いてきてくれるのだから動く必要もないか。
やがて男が俺との間に邪魔となる根元がないのを確認すると視線を俺に向けた。
「死ねえええええええええゴブリいいいいいい……なに! ? 」
男が大剣を振り上げる前に俺が剣で男の大剣を叩きつける。剣の大きさでは向こうに分があるがパワーなら俺のほうが上だ!
ガキィンと金属が激しくぶつかる音がした後男は剣を落とした。
「剣が……しまっ……」
動揺する男にすかさず軽く蹴りを入れる。ドォンっと男は勢いよく彼女目掛けて飛んでいく。
「えっ! ? ちょっ……」
彼女も飛んできたが仲間とあっては盾の呪文で身を守ることも出来ず攻撃呪文で俺を狙うこともできずとどうすればいいのか躊躇っていた。
しかしその迷いが勝負を分けた、数秒後に男が彼女に勢いよく激突し彼女は意識を失った。
「ふう……」
どうにか殺すこともなく気絶させることができて安堵のため息をする。この2人は最初に助けた男に任せようと彼に目を向けると彼も気絶していた。
「ここに置き去りにするとモンスターに襲われるかもしれないなあ、しかし村に向かうのも……」
俺はこの3人をどうするか腕組みをして考え始めた。




