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1-3「突撃」

「ギョッギギッギギギギギ! ギギギギギギギギギギギ! 」

【ちょっと待ってください! 人間を襲うなんて! 】


「ギギ? 」

【はあ? 】


 ボスを筆頭に何体ものゴブリンがこちらを睨む。その姿が俺が初めて課長に異を唱えたときの反応と重なり思わず委縮する。


 しまった…………またやってしまった。


「ギギギギギ、ギギギギギギギギギギギ」

【すみません、こいつ新入りなもので】


 ゴブリンは俺をフォローした後に口に人差し指をあて黙ってろとジェスチャーをした後にある一点を指さした。


「ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ、ギッギギギギギギギギギギギギギギギギギギッギギッギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ! 」

【お前の前にいた住処ではどうか知らんが、こっちは数か月前に魔王様が放ったペットのサイクロプスのせいで限界なんだよ! 】


 そこには──────無残に食い散らかせたであろうゴブリンの死骸があった。


 ────共食いだ。数か月サイクロプスのせいで餓えたゴブリンたちは自らの仲間たちに手をかけたのだ、しかしそれでは忍びないと考えたのか人間の村を襲おうとしている!


 止めようにも、ゴブリンの士気は餓えのせいか極限まで高まっているこれでは無理だろう──────ではサイクロプスを倒すか?


 サイクロプスは昔ゲームでみたことがある。青く一つ目の巨人だ。ギリシア神話だったか、ゴブリンたちが暗号とかではなくその名の通りのサイクロプスをさしているのならこの小さな身体で、ゴブリンでサイクロプスを倒すというのはかなり分の悪い戦いになるとみた。


 残念ながらこの状況でゴブリンとして生きるのならば人間を襲うのが的確に思う。しかし、それは…………


 何とか隙を見て抜け出そう…………そう考えた。


「ギギギギギギギギ! ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ、ギギギギギギギギギギギギギ! ギギギギ! ギギギギギ! 」

【松明は持つな! サイクロプスに勘付かれるかもしれない、月明かりを頼りに進む! お前ら! 武器を持て! 】


 ボスの指示でゴブリンたちが武器の棍棒を手に取る。俺は当然自前の武器など持っているはずもないので犠牲になったゴブリンの棍棒を拝借した。

 棍棒と言っても棒だけではなく歯か、石か、所々に固いものが埋め込まれていた。



 月明かりを頼りに暗い森を3列で歩いていく。洞窟の中とは打って変わってマイナスイオンが気持ちよく川の音も聞こえる。

 周囲には寝ているスライムやオオカミの姿も確認でき、夜のちょっと変わった動物園を歩いているようで何もなかったなら楽しめたかもしれない。


 が、今はそんな気分ではない。これから人間の村を襲うばかりか何と先ほどの抗議のおかげでボスに目をつけられてしまったらしく先頭で真ん中の列を歩き先陣を切るボスに続き2番目を歩くという何とも光栄な位置に陣取らせてもらった。

 これでは隙をみて逃げ出すなど到底できない。変な騒ぎを起こして周りのモンスターたちをうっかり起こして逃走失敗の上大騒ぎ、なんて事態が容易に想像できる。


 人間の村は襲っても今ここで寝ているモンスターたちは襲わない。長い間同じ森に住んだ故の暗黙の了解だろうか、しかし彼らのこの掟のようなものが恨めしく思えた。


 どうすれば良いのか………………そう考えている間にも無情にも木々の間をくぐり抜け村への距離は縮まっていった。


「ギギギギギ! 」

【あの村だ! 】


 ボスが小さく合図をした。


「ギギギギギギギギギギギ! 」

【とうとうたどり着いたぞ! 】



「ギギギギギギッギギギ、ギギギギギギギギギギギギギギァァァァァァァ! ! ! 」

【あの村を乗っ取れば、当分俺たちは安泰だァァァァァァァ! ! ! 】


「ギギギギ! ギギギギ! 」

【人間! 人間! 】


「ギギギギ!ギギギギ! 」

【食い物! 食い物! 】


 ボスのこの一言を皮切りに次々とゴブリンたちの歓声が上がる。


 村までの距離はざっと400メートル、しかし村といってもモンスターがウロウロしている世界だからか周囲は石の壁で覆われており村の中の様子は分からない。

 石の壁からは見張り台が幾つか確認できる。恐らく臨時事態に備え少なくとも四方には建てられていることだろう。門は2つ、恐らく鉄製で夜のためかどちらも固く閉ざされている。村は塀で囲まれており門を通るためには橋を渡らなければならない。

 とはいえ、馬車を考慮してか結構広い橋なので3列体制でも入れそうだ。



 このままノコノコと直進していけば、見張りに見つかり彼らから弓矢が放たれる中鉄の扉を壊し、その間に夜とはいえ集まるであろう兵士や大人たちを相手にしなければならない、と非常にハードな戦いを強いられというわけだ。


 向こうの思考を張り巡らされ設置された状況に対しこちらは数十体の棍棒を持ったゴブリンのみ──────分が悪すぎないだろうか?

 俺を呼んだゴブリンの女神さまよ──────どうか人を殺めずこちらも死なない計略をどうか我に与えたまえ──────



 そう祈ろうとした時だった



「ギギギギィィィィィ! ! ! ! ! 」

【突撃ィィィィィ! ! ! ! ! 】


 ボスの叫び声とともにゴブリンが一斉に飛び出した。

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