16‐14「願いの果て」
さようなら皆、幸せだったな、俺。そう考えながら異変に気が付いた。確かにドンカセの景色は消えたけれどまだ意識は消えていないのだ。
「あれ」
何もない世界、でも意識はある。視線を落とすと人間の身体を纏った俺の姿が映る。一体どういうことなのか、と辺りを見回すと「よう」、声をかけられる。聞き覚えのある声だ。振り返るとそこには伝説の剣の精霊の姿がいた。
「あれ、どうして。俺は消えたはずじゃ」
「どうしてって文句を言うために呼び寄せたんだよ」
呆れたように精霊は言う。
「なんだよ、こっちからすれば魔王の手からようやく離れられたというのにもうさよならなんてそりゃねえっつーの。あのゴブリンがこの伝説の剣をどう使われたか知ってるか? 」
相当お怒りのようで精霊は早口でまくし立てる。当然、消えた俺は残ったゴブリンが何をしたのか知る由もない。ただダイヤ達が心配だったので回答と共にそのことを尋ねる。
「それがな、あのゴブリン。人間3人に囲まれて咄嗟に剣を取ったんだけどよ、何を考えたかそのままぶん投げて森の奥に逃げやがった。お陰で今木の枝に引っかかってるわ」
「それはまあお気の毒に」
「笑い話じゃねえんだよ、伝説の剣だぞ。大賢者が作り上げた有難い剣だぞ。それを投げるってどんだけ知能が低いんだよお前の身体は」
身振り手振りで嘆く精霊を見てこの剣を作った大賢者様は負けず嫌いだったと聞いたけど作り手の性格が移ったのだろうかなんて考えていると突如俺を睨みつける。
「それから! 何だよあの願いはよ、この世界の皆を幸せにだ? そんなの叶えるのにどれだけ大変か分かってるのか? そもそも幸せってなんだ。そんなのは人によって違ってだな、それを実現しようとすると……」
再び早口になる精霊、難しい話になっているけれどどうやら精霊なりに俺の願いについて真剣に考えてくれたらしいようで思わず笑みがこぼれる。
「何笑ってんだよ、まあいいや。とにかくそこで決めたのよ」
そう言うと一呼吸おいて精霊が口にする。
「生き返らせてやるよ、あのゴブリンの力そのままで人間の姿でな」
「え? 」
余りの言葉に耳を疑う。
「生き返る? 俺が? 」
「そうだ、世界の皆を幸せにするなんてこっちからすれば面倒でやってらんねえ、だから生き返って自分の手で幸せにしろ、そうすりゃこちらとしても持ち主が帰ってきて幸せだしな」
前半は堂々と後半は小声で精霊が告げる。
「それでいいか? 」
念を押すように精霊が尋ねるが俺にとっては願ってもない提案だ。
「ああ! 」と答えると以前のように目の前に光の階段が出現した。その階段に足をかける。
「そんじゃまあ、末永く宜しくな、主様」
「ああ、宜しく」
言葉を交わすと俺は皆がいる世界が待ち遠しくて階段を駆け上がった。
♥
気が付くと俺は大の字で横になっていた、目を開けるとそこは先ほど彼女達と別れたドンカセの村の森の入り口前だ。
「本当に人間になってる」
気を利かせてくれたのか死ぬ前に着ていたスーツと肌色の手をまじまじと見つめて考えようとしたその時だった。散らばっている鎧や剣にバッグと共に横になっている俺を呆然と見上げている3人に気が付く。
まずい、この姿で会うのは初めてだった。
何とか頭を回転させて俺が俺であることを示そうと頭を働かせる。
「皆、俺だよ俺」
口にしても皆は答えない、考えてみれば当然だ。それならばと上を見上げて枝にかかっていると言っていた伝説の剣を探すと精霊の言うことは本当で実際枝にかかっている剣に同情しながらも地面を蹴って剣を手に取ると剣が漆黒のオーラを纏った。
「ほら、皆みてくれ。この剣がオーラを纏うってことは俺は本物の阿藤踏破だ」
「やっぱり、信じらんねえ。でもあの慌てよう……」
「……うん、顔は違うけど」
「トウハさん! 」
少し予想と判断基準が違う気がするけれどたちまち笑顔になった3人が駆け出して俺に飛びつきあっという間に俺は地面に倒れた。
「なんだよ帰ってきたのかよ」
「……良かった」
「はい! 本当に良かったです! 」
彼女達が涙を流す。そうしてしばらく再会を喜んでいるとダイヤがスッと立ち上がった。
「それでは参りましょうか」
「どこに? 」
俺が尋ねると彼女がにこやかに笑う。
「勿論、先ほどお別れをした皆さんの所ですよ。何名か気付かれていた方がいるようでしたのでその方たちを早く安心させてあげないと」
「え? 」
これには思わず一歩後ずさろうとするもスペードとクローバーに掴まれ逃げることができない。
「それは……気まずくないかな」
そう、気まずいのだ。今生の別れをした直後に戻ってきましたってどれほど恥ずかしい事か、特にコール何かは……どれだけからかわれるのかを考えると思わず顔が赤くなる。
「大丈夫ですよ」
ダイヤが再びニコリと笑う。
「だって、トウハさんが帰ってきたのは皆嬉しいと思いますから」
確かにそうだ、そうやってからかわれるのは嬉しさの表れということにしよう。
「よし、行こうか」
そう口にするとスペードとクローバーが俺を解放したので起き上がるとダイヤの差し出した右手を握った。
これにて小鬼伝説は終了です。
皆様の応援でここまで書き切ることができました、本当にありがとうございました。




