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16‐9「夢か現か」

 はっと目が醒めると視界に飛び込んできたのは白い天井だった。


 おかしい、俺は確か魔王が落とした伝説の剣を手にしたはずだ。となるとこれはダイヤが言っていた試練だろうか。


 ボンヤリと天井を眺めながら考えるも試練と聞いて身構えるべく身体を起こす。


「……あれ? 」


 身体の違和感に気がつく、いつもよりも身体が重く筋肉の衰えを感じるのだ。『強化の魔法』の副作用だろうかと考えて思わず自分の体を見てギョッとする。


 視界に広がる俺の体は肌色で身につけているのも鎧ではなく病人の着る服で包帯が頭に巻かれているのだ。


 一体これはどういうことなんだ?


 パニックになっているとガチャンと何かが割れる音がした。みるとスーツ姿の女性がそこに立っていた。忘れもしないその女性は留美さんだった。


「阿藤さん、良かった」


 彼女が俺の体に抱きつく。


「落ち着いてください、一体何が起こったのですか」


 俺が尋ねると彼女はハッとして身体を離す。


「ごめんなさい、阿藤さんには何が起こったのか分かりませんよね。説明させていただきます」


 そう言って始めた彼女の説明は俺は雷に打たれておらず間一髪のところで避けた拍子に頭を打ったというものだった。


「課長も、心配しておりましたよ。オレが間違っていたって涙を流していました」


 彼女が付け足すも俺には何が何だか分からない。


 どういうことだ? あの世界でのことは夢だったのか?


 ボンヤリと留美さんを見つめながらそんなことを考えるも考えてみれば異世界転生とこの風景、どちらが夢なのかというと比べようもない。


「さあ、お休みください阿藤さん。傷が痛んだりしたら大変です」


 留美さんが俺の身体に触れ寝かせてくれようとする。彼女に促されるまま身体を横にして眠りにつこうとしたその時だった。


『トーハさん、試練に負けないでください。私、こんな形になってしまいましたがトーハさんのことが大好きです』


 突然脳裏に響き渡る声、忘れるはずもない。ダイヤの声だ。あの出来事は全部夢なんかじゃなかったんだ。


「阿藤さん、どうしたのですか」


 留美さんが起き上がろうとする俺の身体を力を込めて掴みとめようとする。


「話してください、留美さん。俺には行かなきゃならないところが」


「そんな身体でどこへ向かうのですか。阿藤さんに何かあったら私……私……」


 留美さんが眼に涙を流す。これは本当の留美さんの気持ちなのか引き留めるための咄嗟の試練の行動なのかは分からないけれどはっきりしていることはここで止まるわけにはいかないということだ。


「ありがとうございます、でももう行かないと」


 彼女の涙を拭いながら歩き出す。生きていたとはいえ倒れたというのは再現されているようで身体を動かすと身体のあちこちが痛む。でも、それに負けてはいられなかった。俺は歯を食いしばりながら痛みを堪え病室のドアの取っ手に手をかけ開いた。


 瞬間、病室も留美さんも消えて何もない空間に変わる。


「やっぱり試練だったか」


「おう、その通りだ。いいもの見せてもらったぜ」


 俺の声に答える様に禍々しい色に輝く人型の存在が姿を現す。


「ああ、俺か。俺はこの武器に宿る精霊ってやつだ」


 精霊が俺が困惑しているのを見て声をかける。しかし、精霊が本当にいたなんて驚きだ。


「それで、お決まりなんだけどよ。願いを一つ聞いてやる、気分次第では叶えてやる」


 精霊はキッパリと言う。「聞く」だけで「気分次第で叶える」というところに引っかかったけれどそこを気にしていても仕方がない。ダイヤの声は只ならぬことが起きている様子だった。俺は今急がなければならないのだ。聞くだけでもいいから何か願いを言って目覚めなければ。いや、でもどうせなら少しだけ叶ったら嬉しいものを考えよう。


 頭が回るように深呼吸をして脳に空気を送った後思考を巡らせる。


 正直な話、願いと言って真っ先に浮かんだのは俺の身体のことだ。ここでこの俺自身の人間の身体に戻ることが出来たら消されなくて済むのではと浮かんだ。でも、今魔王と戦っている状況を考えるとこのゴブリンの身体は必要だ。俺の身体では足手まといになってしまうかもしれない。

 どうしようか考えると1つのことに気が付いた。


 そうだ、簡単なことだったんだ。これは叶えれば精霊にも得があるばかりか消えていく俺の不安も消す願いだ。


「願いは決まったか」


 顔を上げた俺に精霊が尋ねる。


「ああ、決まったよ。俺の願いは、この世界の皆が幸せに暮らすことだ」


「は? いや待てそんな願い叶えるとしたらどれほど骨が折れるか」


 狼狽する精霊の横に願いを聞いたからか光輝く階段が現れる。恐らくあの先に向かえば目覚めることができるのだろう。


「じゃあ、頼んだ」


 俺はそう口にするとともに階段へ向かって駆け出した。


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