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幕間「ありがとう」♢

 トーハさんが氷を利用して私に向かってくる、不意を突かれたけれど『強化の魔法』を身に纏った私にとって避けるのは容易だった。地面を蹴り、宙を舞う。予想以上の跳躍だったけれど攻撃が避けることが出来たらそれで良かった。


 下を見ると土煙ははれていて地面は凍っている所もあれば割れているところ、岩が落ちたところには大きな穴が瓦礫と共にぽっかりと空いているのが見渡せた。


「『フロート』! 」


 魔法を唱えると足が光に包まれる。そのまま私は氷の上に着地して彼を探すと彼は起き上がるところだった。


「ダイヤが、『強化の魔法』を自分に」


「……ダイヤ」


 驚くスペードさんとクローバーさん、そうこれが私の覚悟だった。私は彼が頷くには何でもすると決めていた。


 起き上がったトーハさんの元へと走る、私は剣を振ったことはないけれど魔法の力で力とスピードは十分にあるからそれで足りない技術を補う。


「うおおおおおおおおおおおおおおお」


 彼も全速力で走ってくる。そして彼は私の振りに合わせるように木刀を重ねた。


「ぐあっ……」


 自分でも目を疑う光景だった、私の力は強く彼の木刀を折るばかりかその衝撃で彼を遠くまで弾き飛ばした。


 でも、これでようやく……


 私は動かない彼に歩み寄ると木刀を突き付ける。


「私の勝ちです、トーハさん。負けを認めてください」


 彼の言葉を待っていると彼が口を開く。


「まだ負けていない、負けを認めさせたいなら俺にその木刀を振るってくれ。俺はダイヤが一緒に旅をしようって行ってくれたお陰で皆と出会えたんだ。そのダイヤが本当にそうしたいなら、いいや」


 なんと残酷なことだろう。彼も同じだった、でもそこには大きなずれがあった。私だって、魔王を倒さなければいけないことは分かっている。でも、それで彼が消えてしまうのは余りにも辛い。私の中では彼の存在は世界を救うことよりも大きくなっていたから。

 だから、ズルいことだけれど彼に言って欲しかった。「一緒に暮らそう」って。

 でも、それは叶わない。今そのことが分かってしまった。


 これまで出会った皆の顔が浮かんで木刀を構える手が震える。

 ……出来るはずがなかった。

 カランと木刀が音を立てて落ちる。それと同時だった。私の魔法が消え身体中にフィードバックによる痛みが走る。


「あ……ああああああああああああああ」


 苦しい、痛い。身体が裂けてしまいそう。彼はずっとこんな痛みを耐えていたのだろうか?


「ち、中止だ」


「……ダイヤ、大賢者様彼女の手当てを」


 慌てた2人が私に近寄ろうとするのが視界に移る。


「『シルド』! 来ないでください、まだ戦いは終わっていません。『ヒール』! 」


 彼女達を制して『回復の魔法』を身体にかける。覚悟していた痛みだ、彼はずっと私の魔法と僅かな薬草でこの痛みを耐えてきた、だったら私も耐えないと……


 少しでも痛みを和らげようと歯を食いしばり杖を力を込めて握った。


「ハア……ハア……」


 息が荒くなる。少しでも息を吸わなくてはいけないと目をぎゅっと閉じて呼吸に専念する。それでも耐えられなくてついにバランスを崩して身体が立ち上がる。そして私の身体はドサリと地面に崩れ落ちた。いや、地面にしては暖かくて柔らかい何かだ、ふと倒れる拍子に杖を離してしまったことを思い出す。咄嗟に掴めるものを探すと暖かい者が手に触れたのでぎゅっと掴んだ。


 ♢

 どれくらいの時間が経っただろう。痛みの引いた私は恐る恐る目を開ける。そして信じられないものを目にした。


「トーハさん」


 思わず口からこぼれる。目の前に彼が私の身体を支えながら手を握ってくれていたのだ。彼の頭上を確認すると意識を失っていなかったからだろうまだ『盾の魔法』はそこにあった。


「トーハさん、どうしてですか」


「いや、それは……」


 思わず口から疑問がこぼれると彼は視線を逸らす。どうして教えてくれないのだろうと泥と血だらけの彼の手とぽっかりと空いた大きな穴をみて周囲状況を把握した。彼はここまで穴を掘って移動していたんだ。


「トーハさん、私なんかのためにどうして。私はズルいダメな人なんです。世界よりもトーハさんにいて欲しくて、それをトーハさんに選んでほしくて。こんなことをして」


 そう言って立ち上がり彼から離れようとすると彼は私を抱きしめた。暖かい感触が身体中に広がる。


「そんなことないよ、俺は嬉しかった。ダイヤが反対して本気で俺と戦ってくれて。こんなに誰かに想われたことなんて、それを実感したことなんて初めてだった。でも、そうだから怖いんだ。今魔王と戦わないでいずれ魔王にダイヤが、皆が魔王に消されてしまうかもしれないのが。だから俺はそれだけで十分だよ、ありがとう」

 

 言葉が出ず、ただただ涙が溢れた私は腕を彼の背中に回して力を込めた。

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