幕間「踏破VSダイヤ」
「冗談だろ? 」
スペードが震える声で尋ねる。
「冗談じゃない、多分本当のことだ」
「……多分、なら」
「でも、そうだと思って欲しい。正直この世界に来たことに関しては俺は何も知らない。魔王の言うことの真偽が分からないんだ、だから消えると思っていてくれ」
再び沈黙が訪れる。自惚れかもしれなかった、「そっか、じゃあさようなら」で別れるかもしれないなんて思っていた。でもそうならなかった。それは嬉しい反面辛く胸が痛む。
「とにかく、そういうことだから。俺に関して魔王が何か口にした場合は動揺しないで全力で魔王と戦うことに専念して欲しい」
「俺の考えすぎでそうならない場合もあるから」という言葉を飲み込む。そんな淡い期待に縋るのは駄目だ、これに関しては最悪の想定をしておかないと取り返しのつかないことになりそうだから。再び訪れる沈黙、ふとダイヤが言葉を発していないことに気が付き視線を向けると彼女は俯いていてその表情からは何も読み取れない。
何か言葉をかけなければ
彼女にかける言葉を見つけようとしたその時だった。
「それなら、私は戦いません」
小さいけれど、力強く彼女はそう告げた。
「戦わないって、それじゃあ俺達は今まで」
「魔王を倒すために戦ってきた気持ちに嘘はありません。でも……私の願いは……」
彼女の目が涙で溢れる。彼女の気持ちは嬉しい、4人で暮らしたいというのは本心からの言葉だったのだろう。
「でも、今戦いに向かわないと次に魔王が何をするか分からない。各地にもっと強力なモンスターを呼んだりもしかすると出向いて村を襲ったりするかもしれない」
「それは…………」
彼女が俯く。俺はその横顔を見つめていた。やがて決心したように彼女が口を開いた。
「分かりました、それではトーハさん。私と戦ってください」
「え」
驚き尋ね返す。彼女は折れなかったのだ。いつもとは違うそれでも覚悟を決めた彼女の姿がそこにあった。
「私が負けたら、その時は私も魔王と戦います。でも私が勝ったら……魔王のことを忘れて私と一緒に暮らしてください」
キッパリと彼女はそう言い切る。
「分かった、じゃあ明日戦おう」
俺は混乱しながらもなんとかそう伝えた。
♥♢♤♧
「大変なことになったのう」
翌日、事情を知った大賢者様が口にする。それだけだった。ここで「お主は消えんよ」と言ってくれたらどんなに嬉しいことだったろう。でもそうはならなかった。俺は木刀を構え木刀と杖を構えて戦いの場所であるいつも特訓に使用している草原で待ち構えていた彼女と3メートルほどの距離で向き合う。
まさかダイヤと戦うことになるなんて考えもしなかった。木刀を構える。
「それじゃあ、この木刀で一本取った方が勝ちでいいかな」
「はい、構いません」
「なら、ワシが開始の合図をしよう」
スペード、クローバーと並んでいた大賢者様が一歩前に出る。
「それではこのコインが落ちたら開始じゃ」
そう言うと大賢者様はコインを右手の親指に乗せピンと弾いた。宙を舞うコインを見てダイヤの初手を考える。どちらかが相手を木刀で攻撃すれば勝ち、このルールならば相手が大きいほど隙も生まれて有利なはずだ。それならば彼女の初手と俺の取るべき行動はこれだ。
作戦が決まったその瞬間、コインがピンと音を奏で地面に落ちた。それと同時に俺は右に跳ぶ。
「マキシマ…… 」
先ほどまで俺が立っていたところにダイヤが杖を向けて魔法を唱える。やはりそうだった、ダイヤの狙いは俺の身体を大きくして的を大きくすることだった。間一髪で躱した俺はそのまま隙が生まれた彼女に木刀を当てようと向かおうとして彼女が呪文を言い終えていないことに気が付き不安に襲われる。
「『ブリズァード』! 」
予感は的中してしまった。俺が跳んだ隙に地面は凍り付き無防備は俺は足が滑り着地が出来ずに転倒してしまう。幸運なことに滑っているお陰か彼女が杖で俺に魔法を当てようとするのは不可能に見えた。彼女もそう判断したのか石を空へと投げてみせる。
「『マキシマァム』! 」
慌てて頭上をみるとそこには巨大な岩が2つ俺に迫ってきていた。受け止められない大きさではないけれどそれをすると彼女に魔法を当てる隙を与えてしまう。
俺は全速力で右に避けると岩はズシンと地面に落下する。避けれたから良いものの彼女は俺の考えを読んだ上でそれ以上の手を打ってきたのだ。
でもその作戦は成功しなかった、俺はまだ一太刀も受けていないのだ。残る彼女の手を考える、攻撃系の魔法は情けないことだけれどこのルールからしても彼女は使えない。強化を俺にかける意味もないので警戒すべきは『盾の魔法』だ。ダイヤの盾は頑丈で俺でも破るのは困難だろう。ならば打つ手は1つ!
俺は木刀を氷の地面に突き刺して滑るのを強引に止めると別方向に滑り拳で氷の地面を叩く。たちまち俺の拳は氷事地面を砕き辺りを土煙が覆ったのを見て今度は彼女が大きくした岩に向かい滑り出す。そして目の前に迫ったところで拳を振り上げ岩を砕いた。恐らくダイヤは砕いた岩を何に利用するのかを考えているだろう。しかし、実のところこの岩を砕くという行為に意味はない、フェイクだ。勝負はこの一瞬だ。
俺は先ほど把握したダイヤの位置まで氷を利用して滑り出す。彼女の視界を奪い『盾の魔法』を発動する前に懐に入り勝負を決める、これが俺の狙いだった。
彼女との距離は目測3メートルだった。1メートル……2メートル……と着実に迫っていき遂に彼女の姿を捕えた。ダイヤもそれに気が付きハッとし杖をかまえているももう遅い。
今俺を大きくしても小さくしても変わらない。懐に入ったので攻撃の魔法も使えない、眠らせる魔法をかけられたとしてもその前に一本は取れる。何をしようと俺の勝利は決まったと確信したその時だった。彼女の口が動き呪文を唱える。
「『エンハンス』! 」
耳を疑った、この状況で俺を強化しても何もないからだ。俺が突然の強化にこの一撃を外すと考えたのだろうかと視線を身体に落とす。しかし、どういうことか俺の身体は『強化の魔法』が発動した時に出る赤いオーラを纏っていなかった。
どういうことなんだ?
疑問を浮かべながら視線を元に戻すとそこには赤いオーラを身に纏い木刀を手にしたダイヤが立っていた。




