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2-1「ニンビギまでの道のり」

 

「ガルルルル! 」


 1匹のオオカミ?が雄たけびを上げダイヤに襲い掛かる。しかし彼女の前には───俺がいる!


 空腹も限界のようで動きが直線的になっているためカウンターは容易だ!


「はあっ! 」


 俺は奴の攻撃を予測して彼女に届く前に切伏せる。オオカミ?は声を上げる暇もなく動かなくなった。


 トドメと頭を無言で刺す。ここまで何匹もオオカミ?と出会ったが仕留めそこないや死んだふりで不意を突かれることのないように襲ってきたものにはこうしてきた。


「見なくてもいいのに」


 一部始終をみていた彼女に声をかける。彼女はこれまでもこうして俺がオオカミ?を殺める様を目を開けてみていた。


「いえ、本当は私も戦わなければいけないのにいざとなると足がすくんで甘えてばかりですから……これくらいは」


 ダイヤとニンビギへ向かい数時間後、俺たちは未だにニンビギを目指していた。

 辺りは木だらけで雑草も生い茂っている。その上をひたすら歩いていく。このように緑が多いのも当然だ……今俺たちは森を歩いているのだから。

 

 何故一本道ではなく険しい森の中を歩いているのかというと、俺は人前に出ると襲われるため……そう、俺はゴブリンだからだ。

 

 出発をし始めたのは早朝で人もいない時間帯だったが、それから数時間…・・今はすでに時刻は昼で道には馬車が溢れかえっている。先ほどから、ヒヒーンという馬の泣き声やガラガラと車輪を転がす音も聞こえるので間違いはないだろう。もしかしたら、俺たちのように徒歩で向かっているのもいるかもしれない。

 

 馬車にも乗れず街にも行けず人間にはモンスターと忌み嫌われるのにさっきのオオカミ?のように全てのモンスターと仲良くできるわけでもないというのは悲しいものだ。種族が違うから仕方ないのだろうか?


「俺と違って馬車に乗ってもいいんだよ? 」


「いえ…私は……ハア…ハア…大丈夫です」


 ゼエゼエと息を切らしながらダイヤは答える。無理もない、途中何度か休憩を挟んだとはいえ何時間も歩いたのだ。しかし、何度馬車に乗ることを勧めても彼女はこのように頑なに拒否をする。

 

 ひょっとすると、馬車は貴族の乗り物で予約制のためタクシー感覚で止めることはできないのだろうか?彼女に尋ねてみると客が乗っていない場合はそういうことでもないようだ。しかし、そうしないのは気を遣ってくれているのだろう。俺は申し訳なくなる。


「じゃあ、ここら辺で休憩しようか」


「い、いえ…お…お構いなく」


 うーん…見た感じ大丈夫そうではないんだけどなあ。ちょっと頼み方を変えてみよう。


「実は俺も限界なんだ…頼むよ、休憩にしよう」


「そ……そういうことなら……休憩に…しましょう」


 気を遣いすぎるというのも考えものだな、と思った。

 

 俺たちは木によりかかり互いに向き合う形で座った。モンスターが多く生息する森の中でこんなに静かなのはサイクロプスの存在があるからだろうか。スライムや鳥とはすれ違うが襲ってくることはない。変に騒いでどこにいるかもしれないサイクロプスに気付かれ襲われてはたまらないという野生の勘だろうか?

 だとしたらサイクロプスの死が判明するのは時間の問題だろう。それより前にこの森を抜けニンビギにたどり着きたい。


 そのとき、ぐうううううううと腹が鳴った。俺は恥ずかしくて俯く。


「あはは、お腹…空きましたね」


 彼女が顔を赤くして言う。信じられないことに鳴ったのは俺だけではなかったようだ。考えてみれば、昨日の夜から…いや昼から何も食べていなかった。恐らく彼女もそうだろう。


「じゃあ……あの木か!ちょっと待ってて! 」


 ここに来るまでに何本か果物がなっている木をみた。恐らくとある間隔ごとに果物の生る木があるのだろう。ならばこの辺にも……という推測通り果物の生っている木を見つける。しかし、手を伸ばせばとれる位置にあるものは大体取られている。相当上までいかないと取れなさそうだ。


「いえ、あの高さではもしものことがあったら危険です!別の木を探しましょう! 」


「大丈夫、みてて! 」


 俺は木の凹凸部分を探しそこにまずは手をかける。前にボルダリングはやったことはある。腕は伸ばして足は曲げるのがコツだと友人が言っていた。それを意識して1つ1つ丁寧に凹凸部分に手と足を交互にかけていく。力に関してはゴブリンのほうがあるのでこの手のは得意なのかもしれない。

 幹の部分を登り切る。ここからは枝分かれしていてその先に果実がなっている。幹と比べるとはるかに短い…折れないように慎重に枝の上を移動していく。


「おーい、ここから果物を落とすから取ってくれないかー? 」


「はーーーーーーい! 」


 下から力強い声が聞こえる。とはいえ、こういうのは下を見るのはNGとも聞くが仕方がない。

 少し下に大きく手を広げているダイヤがみえた。


「行くぞー! 」


 そういって1個…2個…3個…4個とダイヤが取って敷物の上に置いたのを確認しながら1つずつ落としていく。


 ニンビギにつくまでの凌ぎとしては、これだけあれば大丈夫だろう。俺は登ってきた時と逆のことをやり木から降りた。何事もなく降りることができた。


「しかし、何でこんなに決まった間隔で果物の木が置いてあるんだろう」


「聞いた話によると、昔モンスターが現れたときに村が襲われないように彼らの食事用として用意されたようですよ」


 サイクロプスがここに来る前は、うまい事回っていたんだなと感心する。しかし、奴がなぎ倒した木の中には果実がなっているものもあったのだろうが大丈夫だろうか?

 そこは今考えても仕方がない、オパールさんたちがうまくやってくれていることだろう。それより今は、この果物をいただくことにしよう。俺は手に入れた果実をまじまじと見つめる。果実は緑色でリンゴのような形をしていた。青りんごだろうか?いやまさかの梨?いやいやこの世界ではこの見た目で味はパインということも考えられる!

 その前にこれ…人が食べても大丈夫なのか?身体はゴブリンだから俺は何とかなるかもしれないがダイヤは人間だ。ドッグフードを食べるみたいなそんなことになってしまわないだろうか?いいやあれは一時的にうっかり少量なら何とかセーフらしいしこれは果物だから大丈夫だろう!この際仕方がない。


「待った!先に毒味するよ」


「え、毒味? 」


 ここでダイヤの冒険を終わらせるわけにはいかない……!俺はガブッ!と勢いよく果実に齧り付いた。


「……………! 」


「ど、どうしました?まさか本当に毒が⁉」


 これは何と表現すればいいのか……酸味がキツイ……?渋い……?苦い……?あまりの味に顎が外れそうだ。恐らくこの果物は俺の来た世界と変わらずリンゴで未成熟だったということだろう…!

 何とかダイヤに伝えようとするもここで吐き出すのも忍びないのでとりあえずこれは我慢して飲み込んだ。モンスターたちは餓えを凌ぐために味はこの際考えないようにしているのか、熟していないのを避けていたのか?ともかくこれは人には辛いと思う。


「えっと……大丈夫ですか? 」


「……うん、まだ熟してないみたいだ。食べないほうが良い」


「これ、トーハさんが木登りをしているときにみつけたんですけど良かったら…多分母からのものです」


 そう言って彼女は包みを開けサンドイッチを取り出した。野菜と肉がバランスよく挟んであって美味しそうだ。


「せっかくだけど、俺は遠慮しておくよ。今度はいつお母さんの料理が食べられるか分からないんだし。とりあえず俺は飢えを凌げさえすればいいから! 」


 俺はそう言って、再び未成熟のリンゴに齧りつく。格好つけてはみたものの母の愛と余りの味に涙が出てくる。このリンゴ……しょっぱいでもそれ以上に渋い。


「いえ、トーハさんも食べてください!確かに次に帰るのはいつになるかは分かりませんが、魔王を倒して私をまた村に帰させてくれるんですよね」


 いつになるか、は関係なく彼女にとっては無事に帰るということだけで大きなことみたいだ。もしかしたら……いや、それだけは絶対ないとオパールさんにも約束した。


「そっか…いただくよ! 」


 ダイヤからサンドウィッチを受け取る。

 サンドウィッチは肉の照り焼きソースと野菜のシャキシャキした感触にマスタードが合わさっていて凄く美味しかった。


「ごちそうさま、凄い美味しかったよ」


 彼女に伝える。これからは、ダイヤの父であるオパールさんとの誓いを頬に刻んで、ダイヤのお母さんの想いを記憶に残して進んでいこう!


「うちのお母さんのサンドウィッチは絶品なんです」


 ダイヤは笑顔で答えた。


「じゃあ、もうしばらく休んだら出発しようか」


「はい、ニンビギの学校に行くまでの間、馬車で遠くの果物のなっている木をみつけては数えていましたが、ニンビギ前に果物のなる木は80本、今は65本目なので多分もう少しです」


 スマホも携帯もない世界、変に優等生だったダイヤにとって馬車での移動中は暇だったのだろう。とはいえ、ダイヤのお陰でニンビギまであと少しだということが分かった。

 

 ……恐らくこれが最後の休憩になるだろう。しばらく休憩したら向かうとしよう!

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