二 スサノオの読書
「は?」
寝転がりながら漫画を読んでいたシロクマ、ってか俺は、そのスマホを片手でつかみ、答えた。
「何?」
「何じゃない! アレ、さっさと片付けてくれば?」
イヨがテレビを指さす。
「あー、俺、今漫画読んでる途中だし」
「知るか! てかそれ、イヨのマンガじゃん。返せ! てかイヨのベッドに乗るな! そして早く行って来い」
「めんどくせーなー。それに、向こうさんもホントに攻撃するつもりはないさ。どうせそこらの海に落ちるだけだろ?」
「それはそれでオオワタツミ殿たちが怒るのでは?」
お面、ていうかタヂカラオが呟く。
「それは兄貴たちに任せるってことで」
「うわっ、スサっち薄情!」
猫の模様、ウズメが非難する。
「お前は俺に薄情だろ?」
俺が身を起こす。
「隣国を発射したミサイルが日本に到達する前には、その中間地点を通らなければならない。しかしその前にその更に中間を、そして更に中間を通らなければならない。無限に分割していくわけだから、ミサイルは日本には到達しないのでは?」
タブレット、オモイカネがぶつぶつと言う。
「イヨのパンチは中間の中間の中間のそのまた中間を通るけど」
イヨが右手でオモイカネを殴った。
「でもブツブツカネに到達! はい論破!」
「ひでえ」
「イヨ殿……」
「こんな機械殴ったって、イヨの手の方が痛いし! これも全部スサノオのせい!」
「無茶いうな」
「とにかく、このブザーがうざいから、早く何とかしてよ!」
「スマートフォンを消しておけばいいじゃろ?」
「ダメノカネって名前変えたら? ともだちからHELIX来たら困るじゃん」
と、ノックが聴こえた。
「イヨ? 起きてる?」
姐《あね》さんの声が聴こえた。
イヨは返事をしない。
いつものことだけど。
「何か、例の国がミサイル発射したみたいだよ」
イヨは無視し続ける。
「ちょっと怖いね。にゃろうすけに電話しようかな」
「は?」
「東京に来てくれてれば、イヨも安心でしょ?」
「無理!」
「無理って、イヨ」
無視。
「イヨ、イヨ!?」
無視。
ドアの外の気配が消えた。イヨが俺様を睨む。
「ほら、あんたがぐずぐずしてるから、ママが奴を呼んじゃうじゃん!」
「いいんじゃないの? 姐さんもその方が安心だろ」
「イヨは奴なんていなくていいし! むしろ奴にだけピンポイントでミサイル落ちてほしいし!」
「イヨ殿はよくても、ママ殿が」
「ママにはイヨがいればいいの!」
「てか、イヨっち、チャット画面なんか開いて何してんの?」
イヨは答えず、コントローラーを操作する。
宛先:黒い稲妻(笑)
『ママの回線の混線ヨロ』
すぐに返信が表示される。
送信者:グレートサンダー(笑)
『強壮薬三個と交換で』
イヨの返信。
『りょ』
しばらくして、姐さんがドアの外に戻って来た。
「イヨ、ママの携帯、何だか電話通じないの」
イヨ、無視。
「イヨのケータイ貸して?」
「無理」
「イヨ!」
姐さんは何度かイヨを呼んだが、しばらくすると諦めたようで、また自分の部屋に戻った。
画面に黒い電(笑)からのチャットが表示される。
『混線を続けると回線がパンクする。インフラに影響が出るので、一分以内に解除予定』
そして追記。
『またいつもの時間に集会所で。明日の狩りにはGreat Thunder(lol)とFeuer-Donner (loel)も参加予定。ではでは』
「クズのカネ!後一分以内に別の対策考えろ」
「別の対策と言っても。そもそも、ママ氏が呼んだところで、運送屋は来るか?」
「え、普通に来るでしょ?」
「拙者もウズメ殿に同意」
「まあ、来るだろうな」
「ほら、アホノカネ! 早くしろよ?」
「そもそも、運送屋は今どこじゃ? 関西や東北にいれば、すぐには来ること自体出来ないじゃろ?」
「じゃあタニグクに訊いて来いよ、役に立たないカネ」
「都内で?」
「すぐ隣の抜け道にいるし。イヨ、ローランに行くとき何度も見たもん」
ちなみに、ローランてのは一本北の通りにある中華風ファミリーレストランだ。
「もう、しょうがないなぁ」
イヨの呟きに、猫の模様が浴衣から這い出た。
「ほんとイヨっちって、人使い、じゃなくて神使いが荒いんだから」
タヂカラオ 力持ちの神様です。
オオワタツミ 海の神様です。
ウズメ アメノウズメ 天の岩戸で有名ですね。眼力がすごいようです。ちょっとエロい。
オモイカネ 知恵の神様です。