一 雷神たちの狩り
「ムカつく」
ゲームのコントローラーを握ったイヨがテレビ画面に向かって呟く。
「ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく!」
画面ではイヨのPCが、仲間とともに怪獣を相手に大剣を振っている。
壁に掛けられた無名ヒーローのお面(五百円)がなだめる。
「イヨ殿、落ち付いて下され」
「黙れ筋肉だるま!」
浴衣の模様の猫が苦笑する。
「でも、イヨっち。もう十四歳なんだから、そろそろママの幸せも考えてあげようよ。ママだって女なんだし」
「うっさい尻軽! あんたと一緒にすんな!」
カラーボックスの上のタブレットが話しかける。
「まあ、お主もそろそろ親離れする時期かもしれん」
「はぁ!? あんた、バカのカネに名前変えたら? イヨ、自立してるし! いつでも一人暮らしできるし! ママがイヨを放したくないだけだし!」
すると、猫。
「ご飯全部ママさんだよりなのに?」
タブレット。
「洗濯もママじゃろ?」
お面。
「掃除もママ殿」
「きーっ! うざいうざいうざい!」
頭に血が上ったイヨが操作ミスをした。
「ほら! あんたらのおかげでミスったじゃん」
別のPC、黒い稲妻(笑)、土雷(233)、Jeune Tonnerre(mdr)がカバーする。
イヨがチャット。
『トン』
黒い稲妻(笑)から返信。
『おk』
土雷(233)
『無問題』
Jeune Tonnerre(mdr)
『Ca va』
イヨと仲間が狩りを続ける。
「とにかく! ママはイヨがいなきゃダメなの! ママはイヨのお世話だけしてればいいの! それなのに、奴が、奴が……」
と、イヨの歯ぎしりに、スマホのブザーが重なった。
「Jアラートが出ました。ミサイル発射です」
「またミサイルとは」
「どうせただの脅しでしょ?」
「最近多いのう」
タブレットに速報が表示された。
対象地域と、「建物の中、または地下に避難して下さい」という案内。
「Jアラートが出ました。ミサイル発射です。〇〇国からミサイルが発射された模様です」
イヨのスマホからもJアラートがしつこく鳴る。
「あーっ、うっさいっ!」
イヨがスマホをベッドの上のシロクマのぬいぐるみに投げつけ、そして怒鳴る。
「スサノオッ!」
黒雷 土雷 若雷 黄泉の国のイザナミノミコトにまとわりついていた雷神です。