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2人


 大切なことは、力のない人の言葉が認められることである。

       ウィンストン。チャーチル



















 第二少【2人】














 「よっしゃーーー!!終わった―!!」

 陽翔は、拳をつくって両腕をあげていた。

 その後すぐにぐてん、と後ろの布団に倒れ込んだ。

 どうやら、卒論の資料集めとまとめが終わったようで、残すはそれらを自分なりに解釈して文章にするだけだ。

 ここまでくればすぐのことで、陽翔の心は晴れ晴れとしていた。

 寒い季節は過ぎ、流れ込んでくる空気は春の訪れを告げていた。

 「そろそろ桜咲くかな・・・」

 物思いに耽っていると、スマホが鳴る。

 「またかよ」

 そこには、元彼女の名前が表示されていた。

 面倒臭いとは思ったが、しょうがなく出てみる。

 「なんだよ」

 『あ、陽翔?久しぶり』

 「ん、で?」

 『ねえ、空いてる日ないの?ちょっとでいいから話そうよ。メールだってちゃんと返してくれないし』

 「無理だよ。忙しいから」

 『えー、何が忙しいの?一日くらいどうにかなるでしょ?会って話したいの。お願い』

 「無理だって。もう切るぞ」

 『あ、ちょっと!』

 一方的に電話を切ると、そのすぐ後にまた電話がかかってきたため、一時的に電源を切った。

 忙しいなんて言ったが、嘘だ。

 実は、春に入ってすぐくらいに1社内定をもらえたため、もう就活は終わりにしようと思っていた。

 此処が良いというのは何もなかったため、とにかく早く決まればそれで良かった。

 きっと後悔するかもしれないが、それでも良いから早く終わりにしたかった。

 陽翔はすぐに着替えると、とても久しぶりな水族館へと向かって行った。

 バスでも行ける場所に自転車で行くのは、混んでいるのが嫌いだからか、それともこの気持ち良い風を受けたいからか。

 「いた・・・」

 水族館に着くと、すぐに探した。

 いつもの場所にいた少女に近づくと、少女は陽翔に気付いた。

 「久しぶり。やっぱり来てたんだ」

 「みんなといるのが好きなのです」

 みんなとは、この館内にいる生物たちのことだろと分かると、陽翔はその後ろに設置されている腰掛けに座った。

 しっかりとした椅子ではないため、ゆっくりとすることは出来ないのだが、それでも、目の前の少女を見ているだけなら何の問題もなかった。

 「見ないのですか?」

 「え?」

 疲れていたからぼーっとしていたのか、少女が目の前まで来ており、陽翔の顔を覗き込んでいた。

 いきなり少女の顔があったため、陽翔はびっくりしたのと同時に恥ずかしくなり、思わず立ち上がった。

 「み、見るよ!」

 そう答えると、少女はにっこりと微笑んで、陽翔の腕を掴んだ。

 何処へ連れて行かれるのかと思ったら、いつも少女がいる場所ではなく、それよりも端っこの場所だった。

 なんでこんなところにと思っていると、少女が指を指した。

 「ここからの方が、あの子が良く見えます。隠れるのが上手なのです」

 そうは言われても、少女がどこを指さしていて、そこに何がいるのか全くわからないでいると、目らしきものが見えた。

 「あ」

 「オニオコゼなのです。毒を持っているから、触ってはいけません」

 「へぇ・・・すげぇ。同化してる。全然気付かなかった」

 「賢い子たちなのです。退化しているのではなく、そこで懸命に生きている証拠なのです」

 少し角度を変えただけで、今の今まで気付かなかったものが見えた。

 目が退化してしまっている生物たちは、目が見えても意味を成さないから退化しただけの話で、人間が海で生きられないからエラも水かきもないのと同じこと。

 その時ふと、陽翔は思い出した。

 「ウリちゃん、桜好き?」

 「桜?」

 「うん。そろそろ見に行かないとすぐに散っちゃうから、一緒に見に行こうかなと思って」

 少女はいまいちピンと来ていないようだったが、水族館から出ることを伝えると、やはり断られてしまった。

 分かってはいたことだが、どうしても桜を見てほしいと思い、桜の画像を見せてみた。

 すると、少女はそこに写っている、儚げで美しい鮮やかな桃色の花を見て、目を輝かせていた。

 もう一押しすれば、なんとかなるかもしれないと思い、陽翔はもう一度問いかける。

 「桜、見に行かない?」

 「とても、綺麗です。でも、ここから出るのは、ちょっと・・・」

 「俺の自転車で、すぐ近くのところ行こうよ。途中で嫌になったら、すぐに戻ってくるから」

 少女は悩んでいるようで、水槽に顔を向けると、じっと何かを見つめていた。

 そんな少女の後ろ姿に、さらにこう言ってみる。

 「水族館の魚たちみたいに、桜も、近くでみたらもっともっと綺麗だと思うよ」

 歯が浮くような台詞だったかもしれないが、言ってしまったものはしょうがない。

 少女の口が開くまでの数秒間、とてもじゃないが心臓がバクバクしてしまって、生きた心地がしなかった。

 一緒に行きたい気持ちはあるが、無理矢理連れていきたいわけでもないため、少女の返事をただ待つことしか出来ないでいた。

 「見て、みたいです」

 「え?」

 「桜」

 水槽から陽翔に顔を戻した少女は、確かにそう言った。

 陽翔は最初ぽかんとしてしまったが、徐々に嬉しさがこみ上げて来て、でもそれを見せたらいけないと思い、予定を聞いた。

 すぐにでも見に行かないと、満開の時期は過ぎてしまうだろうからと、陽翔は大学で休める日を調べて、その日に水族館で待ち合わせをすることにした。

 桜を見に行くのに水族館で待ち合わせなんておかしいとも思ったが、少女がそうしたいと言ったから、そうした。




 「ふう・・・」

 それから僅か3日後、陽翔は少女と桜を見に行くため、水族館に来ていた。

 自転車で着いて中に入ろうとしたとき、スマホが震えたため見てみると、それは元彼女からだった。

 「なんだよ」

 『陽翔?今どこ?今日休みなんでしょ?どこか行こうよ』

 「約束あるから、じゃあな」

 『え!?』

 すぐに切ってまた電源も切ると、中に入って少女を見つける。

 いつもと同じ服装で、いつもと同じ場所にいた少女に声をかけると、もう少し待ってほしいと言われたため、少女が満足するまで待った。

 そして30分ほど経った頃、ようやく少女が動き出した。

 「じゃあ、行こうか」

 行くとは言っても、水族館の敷地内には桜の樹が埋まっていて、埋もれてしまうくらい咲いていた。

 一緒に外に出ると、少女はぎゅっと目を瞑っていて、どうしてかと思っていると、持っている本で顔を隠した。

 「眩しい?」

 返事はなかったが、少女は小さく頷いたため、影になっている場所に連れて行く。

 「ここなら大丈夫かな」

 少女に声をかけて見ると、恐る恐る本をずらして少女の顔が見えるようになる。

 太陽の光が遮られたためか、少女は桜の樹を見上げる。

 さすがに近すぎたかと、陽翔は別の場所に連れて行こうかと思ったが、少女はこんなところに桜の樹があることを知らなかったようで、ただでさえ大きい瞳がさらに大きく開いていた。

 風が吹いて、桜の花びらが踊り出す。

 すると、少女は片腕を広げてくるくるとその場で回り始める。

 視界には青空と桜の花びらが舞い、それを見ていた少女はこう言った。

 「水面に落ちた花びらより綺麗に飛んでいます」

 花びらが顔に当たると、少女は急にバランスを崩し、そのまま後ろ向きに倒れてしまいそうになった。

 陽翔は慌てて少女の腕を掴むが、少女は倒れることから抗おうとはしていなかったため、陽翔ごと、緩やかな傾斜になっていた坂を転がって行った。

 坂とはいっても長さでいうと2メートルは無いくらいなため、怪我などはしなかった。

 「大丈夫?」

 少女は大丈夫だろうかとすぐさま確認をすると、隣で未だ仰向けのまま空を仰いでいる少女がいた。

 太陽に雲がかかっていたため、眩しくはないようだが少しだけ目を細めて空を眺めていた少女は、急に声を出して笑った。

 その笑い方も、喉を鳴らしたような小さいものだったが、隣にいた陽翔にはよく聞こえた。

 「これが、大地ですね」

 「大地・・・まあ、そうだね?たまにこうして寝ると、気持ち良いんだよね」

 「こんなに、明るい世界なのですね。全てが輝いて見えます」

 「ウリちゃん、背中汚れちゃうよ?」

 「良いのです」

 普通の女の子であれば、服が汚れてしまうこととか、桜の樹が近いのだから毛虫を嫌がったりするものなのだが、少女は土の冷たさが気持ち良いらしく、しばらくそのままだった。

 しかし、雲がどいてしまって太陽の光が直接顔に当たるようになると、少女は顔の上に本を置いていた。

 滑稽な様子ではあるが、陽翔も真似をして寝転がった。




 「ありがとうございました」

 「こちらこそ。嫌がってたのに、外に連れ出したりしてごめんね」

 「いえ。とても綺麗でした」

 結局、午後の3時少し前くらいまで寝転がっていた2人は、ようやく立ち上がっていた。

 陽翔は少女を送り届けようかとも思ったのだが、少女はまた水族館に戻ると言っていたため、見送った。

 多分喜んでくれたのだろうが、それでもやはり、水族館には敵わなかったと、少しだけショックを受けたのもまた事実。

 翌日、陽翔は大学の図書館へと向かってそこでレポートをまとめていると、隣に元彼女が座った。

 「ねえ、今日ご飯行こう?」

 こそっと話しかけてきた彼女に対し、陽翔ははっきりと断った。

 「なんで?内定もらったって聞いたよ?卒論だって順調なんでしょ?少しくらい、時間割けるじゃん」

 「なんで別れたお前のために時間を割いて会う必要があるんだよ。それに、俺今好きな子いるから」

 「え!?」

 思わず大きめな声が出てしまい、彼女は口元を押さえて辺りを見渡したあと、先程よりも距離を縮めて来た。

 すぐそこに彼女の顔があるというのに、陽翔は見向きもせずに家から持ってきたパソコンをいじる。

 「好きな子って、誰?大学の子?誰誰?」

 「うるせぇな。関係ないだろ」

 「何よ。いいじゃない、教えてくれたって。あ、そんなこといって、本当はまだ私のこと好きなんでしょ」

 「違ぇし」

 「じゃあ誰?なんで教えてくれないの?陽翔ってばそんなにいじわるだったっけ」

 「名前で呼ぶな。五月蠅いからどっか行け」

 拒む言葉を投げかけても、彼女は全く動じることがない。

 それどころか、自分が好きな人が出来たと言って別れたことを棚に上げて、陽翔に好きな人が出来たことが気にくわないようだ。

 頬杖をつきながら、じーっと陽翔の横顔を見ていた彼女は、いきなり陽翔の肩に頭を乗せて来た。

 重たいと何度も言ったのだが、どこうとしてくれない。

 「邪魔」

 「聞こえなーい」

 今思っても遅いことなのだが、一体どこが良くて付き合っていたのだろうと思ってしまうほどだ。

 周りの学生たちから見れば、きっと今の陽翔たちの様子は恋人同士に見えるのだろうが、ついには陽翔の友達からメールが届いた。

 その内容というのが、縒りを戻したのかというものだった。

 全否定したメールを送り返したあと、保存をしてパソコンを閉じ鞄にしまうと、頭を乗せられていることなんてお構いなしに立ちあがった。

 「あ!ご飯行ってくれる気になった?」

 「なってない」

 「えー、じゃあ、何処行くの?」

 「ゆっくり出来るとこ」

 そう言って図書館から出ると、しばらく後ろを彼女が着いてきていたが、自転車に跨って逃げるように漕ぐと、そのうち、諦めたようだった。

 折角卒論が進められると思っていたのに、こんなことなら家でのんびりとやるかと考えていたが、陽翔の頭の何処かにあった選択肢の場所へと向かう。

 パソコンも資料も入っている大きめの鞄はとても邪魔ではあるが、そこまで重たいものでもないため、家に置いてくるということもせずに真っ直ぐ漕いだ。

 一体この水族館に幾ら費やしたかは分からないが、陽翔は何度目かのゲートをくぐる。

 「こんにちは」

 声をかけると、少女は同じように返してきた。

 少女の目の前には、海亀がいた。

 海亀は少女に顔を近づけてきて、ガラス越しにキスをしているような形になる。

 少女は小さく微笑みながら、また何か口を動かしていた。

 海亀が少女から放れ、頭上にもある海の道のような場所を渡ると、陽翔たちがいる場所からは見えないところへ行ってしまった。

 「何を話してたの?」

 「聞いていたのですか?」

 「いや、聞こえなかったけど」

 「内緒なのです」

 フフ、と笑った少女は、また視線を水槽へと戻した。

 陽翔は後ろの椅子のようなものに腰かけ、ただただ、少女の姿を見ていた。

 毎日水族館に来て何を見ているのか、どういう気持ちなのか、なぜそこにいるのか、陽翔には何も分からないが、いつも少女は1人でそこにいて、そこにいるだけで幸せそうにしている。

 それから、陽翔は最低限の授業には出て単位をもらい、卒論は家でやることにした。

 そういうわけで、大学には週2回ほどしか顔を出さなくなって、友達からも大学に来て一緒に何処かへ行こうという連絡も来たが、時々返すくらいだった。

 それでも連絡をしてくる友達には会って話をしたり、ご飯くらいは一緒に行っていた。

 「陽翔、最近何してるんだ?前は必要なくても大学来てただろ?」

 「いや、卒論家でやってるから」

 「なんで?図書館でやればよくね?」

 「あいつが来るから・・・」

 陽翔が言うあいつというのが誰を示すのか、その場にいた友達は分かってくれた。

 「でも、陽翔とやりなおしたって言ってたよな?」

 「はあ!?誰が!?」

 「誰って、お前の彼女しかいねぇだろ。SNSにも、彼氏と縒りを戻しました―!って書いてあったぞ」

 「ふざけんなよ」

 「まあまあ。お前、好きな子が出来たとか言ったんだろ?そんな分かりやすい嘘じゃダメだろ」

 「嘘じゃねぇし」

 「え!初耳!どういうこと?俺たちにもずっと内緒にしてたのか?なんで言ってくれねぇんだよ」

 「別にいいだろ」

 「おい、どこ行くんだよ」

 「水族館」

 「はあ?」

 いたたまれなくなり、陽翔はその場を後にした。

 好き勝手している元彼女にも何か言ってやりたい気持ちではあったが、反応を示してはいけないと我慢した。

 水族館に行って少女を見つけると、少女はまた生物たちと何やら楽しげにしていたため、陽翔は後ろの椅子でしばらく眺めていた。

 一向に気付かない少女だが、陽翔はその間、同じように水槽を見つめていた。

 すると、エイがひらひらと泳いで来て、陽翔の前で少し留まっていたかと思うと、少女が陽翔を見た。

 目が合ってほんの数秒、ただ見つめあっていただけだったが、陽翔が立ち上がって少女に近づいて行った。

 少女の真横に立つと、水槽のガラスに手を置いている少女の手を確認し、その小さな手の上に自分の手を重ねる。

 ただそれだけで、手を伝って自分の心拍の速さに気付かれてしまいそうだ。

 「怖いのですか?」

 「え?」

 予想していなかった言葉を発せられ、陽翔は思わず少女の方を見る。

 いつもと変わらない少女だが、少しだけ、眉が下がっている気がする。

 「震えています」

 それが、多分陽翔の手のことを言っているのだとすぐに分かると、恥ずかしくなり、手を放してしまった。

 自分の身体の横にぴったりとつけ、そこで拳を握っていると、少女は身体を正面に向けて来た。

 「何も怖くありません」

 「え」

 「この子たちは、見た目は怖いかもしれませんが、怖くありません」

 勘違いをしているようだが、少女は必死になって誤解を解こうとしており、陽翔は笑って返事をした。

 大丈夫だと分かると、少女も嬉しそうに笑った。

 少女は満足したのか、陽翔に向けていた身体を水槽へと戻すと、またガラスに手をつけてじーっとしていた。

 そんな少女を見つめながら、陽翔はぐっと強く唇を噛み、深く深呼吸をする。

 「ウリちゃん」

 名前を呼ぶと、少女はこちらを見る。

 その瞳はあまりにも純粋で、陽翔は言葉を飲み込んでしまいそうになるが、唾を飲み込んでから口を開ける。

 「好きです」

 「どの子ですか?」

 「ウリちゃん」

 どの生物が好きなのかと聞いてきた少女に対し返した言葉に、少女は首を傾げた。

 それからすぐに首を戻すと、進みそうにない状況に陽翔が話す。

 「初めてウリちゃんを見たときから、好きだった。ウリちゃんはこの場所が好きであって、俺のことは好きとか嫌いとか、そういう対象ではないかもしれない。でも、ウリちゃんのこと、やっぱり好きだから」

 陽翔の、所謂告白を、少女はただ静かに聞いていた。




 「ごめんなさい」

 真っ直ぐな目で、そう告げられた。

 ショックと言えば当然ショックで、今すぐにでも布団に包まりたい気持ちではあったが、陽翔はそこから動けなかった。

 凛としている少女に、陽翔は自嘲気味に笑うしかなかった。

 「そ、そうだよね。ごめんね、急に」

 少女の方を見ていた顔を水槽に移し、そこで泳いでいる魚達を見て、陽翔は羨ましいと思った。

 水槽の中にいれば、優雅に泳いで逃げられるし、涙を流したとしても周りに見られることがない。

 陽翔はそこにいるマンボウを指さし、少女に色々聞いていた。

 少女は知っていることを全て教えてくれたらしいが、正直なところ、陽翔の耳には何1つとして入ってこなかった。

 それでも、こうして話している時間があるというだけで良いのだと、自分にそう言い聞かせるしか出来ずにいた。

 少女の横顔を見ることも出来ないでいた陽翔だが、それ以上ここにいることが辛くなり、放れようとした。

 陽翔が後ろに下がってもそこに居続ける少女に、もう一度声をかける。

 「また、会いに来てもいいかな」

 少しの間があって、続ける。

 「友達、として・・・」

 ゆっくりと顔を向けて来た少女は、静かに頷いた。

 家に帰った陽翔は、その日、何も手につかずにいた。

 ただ布団に転がって、テレビも点けずに何処か一点を見つめていると、ポケットに入れていたスマホが鳴る。

 取りだして表示されている名前を見るとあの彼女だったため、枕の下に突っ込んで鳴りやむのを待った。

 それから一週間ほど、時間はあるのに水族館には行く元気がなく、かといって家にいると少女のことを考えてしまいそうで、大学に来ていた。

 ぼーっとしている陽翔に近づいてきた友達は、まるで抜け殻のような状態の陽翔の耳元でこう言った。

 「ふられたのか」

 「・・・!!」

 気配もなく近づいてきた友達に驚いていると、その友達は楽しそうにケラケラと笑いながら向かいに座った。

 「俺見てたんだよね、実は」

 「何を」

 「お前がふられたとこ」

 「はあ!?」

 陽翔が水族館に行くと言っていたため、元彼女との出会いが水族館だと知っていた友達は、本当はその彼女のことが忘れられないから水族館に行くのだと思ったらしい。

 そこで付いていってみたら、陽翔は別の少女のことをずーっと、穴が開くくらいに見ていたため、ピンと来たという。

 「いやー、前の彼女と趣向が違いすぎて吃驚したけどさ。まさかの玉砕。しかもその後お前逃げただろ。見てたぞ」

 「あきこさんか」

 「誰だそれ」

 「知らないなら良いよ」

 まさか友達に後をつけられていて、しかも告白したシーンもふられたシーンもみられていたなんて思っていなかった。

 というより、会話が聞こえていたなんて、どれだけ近くにいたのだろう。

 「てっきりあの彼女との思い出を思い返しに行ったのかと思ったからさ、俺教えちまったよ」

 「何をだ?余計なこと言ってねぇだろうな」

 「言ってない言ってない。ただ、陽翔は出会った場所でたそがれてるんかないかって言っただけ」

 「それを余計なことと言わずに何を余計なことと言うんだ」

 そのせいなのか、彼女からのメールや電話が毎日かかってきていた。

 あれは友達の勘違いなのだと話しても、笑ってしまうくらいに信じてもらえないため、どうすることも出来なかった。

 少女に振られたからといって、気持ちが無くなったわけではない陽翔としては、少しは忘れられる時間ではあったが。

 だからといってこのままで良いはずもなく、ちゃんと会って話した方が良いだろうと判断した頃には、ならば2人が出会った水族館でまたやり直そうという話になってしまった。

 ふと、陽翔はあの時のことを思い出した。

 元彼女とあの水族館へ行ったときも、あの少女がいたような気がする。

 しかし気のせいかもしれないと、水族館で会うことを了承した。


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