9.飾りじゃないのよ
「俺、空の上から来たんだけど、
道に迷っちゃって、
フラフラしてたら屋根の上で
夜を過ごしてしまったんだ・・・」
どうして屋根の上にいたのか、
事情を説明しようとした結果、
俺は嘘をついた。
正直この呪いは夢であって欲しかった・・・。
うんざりしつつエレスを見ると
口をぽかんと開け、こちらを見ていた。
それはそうだろうな、
俺が今のを言われたら
次に何か面倒なことを話し出す前に
そいつを殴り倒すかもしれん。
「天使・・・様・・・です?」
「そうです」
神様!ごめんなさい!許して!
これ以上無意味に嘘をつきたくないんです!
「すごい!本当にいたんです!」
えぇー!何で信じてるのこの子!
見たところ10歳前後だろうし、
まだ夢見がちでもセーフなのか!?
何だ、
結構きつい事言ったりするけど、
無邪気なところがあるじゃないか。
ちょっとほっこりしつつ
残り少ないお茶をすする。
美味しかった・・・。
飲み終わるのを確認したところで、
エレスが満面の笑顔で言う。
「銅貨2枚です!」
手のひらが差し出される。
「・・・え?」
お金、取るの・・・?
口で伝えると嘘をつきそうなので、
ズボンのポケットを
引っ張り出したりして
お金がないアピールをする。
「・・・・・・・・・」
エレスは一瞬真顔になったかと思うと、
親の仇でも見るような目で俺を睨んだ。
「出て行ってくださいです・・・」
「え?」
「お金のない人・・・
大っ嫌いです!
出て行ってください!
出て行け!!!」
「な・・・!」
髪を振り乱し、涙を流しながら
すごい剣幕で怒鳴られて、
半ば押し出されるように
家から叩き出された。
「・・・」
呆然とする。
結構、理不尽に扱われた気がするが、
不思議と頭にはこなかった。
それよりも、
泣かせてしまった。
そのことが気にかかって、
しばらく動けずにいた。
ドアの向こうから
すすり泣く声が聞こえた。
「・・・銅貨2枚」
いや・・・
屋根の上を貸してもらったんだし、
もう少し、かな?
「一宿一飯のお礼は・・・
ちゃんとしないと、ね・・・!」
異世界最初のクエストは、
『女の子の涙を止めろ!』
なんて、ちょっとクサいっすかね?
お茶の温かさが消えないうちに
俺はギルドへと足を向けた。