6.どこまでも空気は読めず
「ギルドへの加入登録ですね?
少々お待ちください」
ギルド到着後、
早速受付に向かい、
登録をお願いする。
あまりもたもたしていると
日が暮れてゲームオーバーだ。
少なくとも宿に泊まれるだけの
お金を稼がなくては。
「お待たせいたしました。
まずはあなたの情報を
登録いたしますので
質問にお答えください」
きた。
どうせまともには
答えられないんだ。
適当に流れに身を任せよう。
「お名前をお願いします」
「天野三郎です」
「アマノサ・ブロウさんですね?」
「はい、そうです」
・・・あれ、区切りおかしくなかった?
聞き間違いかな・・・?
「お年をお願いします」
「21です」
本当は23だ。
ちょっと若く言うな。
乙女か俺は。
「お住まいはこちらに?」
「はい」
あ、今のはまずい。
宿の宿泊料金とか聞きづらくなった。
ちょっと空気読めや、俺。
「では最後に適性検査をして
あなたの職業を決めますので、
あちらのお部屋にお入りください」
「え?」
受付のお姉さんの指す方を見ると
某探偵アニメでおなじみの
CMをまたぐ時の扉的なのがあった。
いや、火はいらないだろ。危ないし。
というか、
職業自分で決められないんだ・・・
頼むよ組み分け扉。
俺は呪文を唱える。
「アソビニンは嫌だ。アソビニンは嫌だ」
「アマノサ様?」
「天野です。アマノ・サブロウです。」
あ、訂正するんだ。
どっちみち偽名だけど、まぁいいか。
「これは失礼いたしました。
訂正しておきます。
ではアマノ様、早くあちらの扉へ。」
もう少し心の準備をしたかったが、
これ以上はお姉さんが不審に思うだろう。
一呼吸入れて、扉へと向かう。
手をかけ、力を入れると
扉は思いのほか簡単に開いた。
やけに眩しい光が差し込み、
目に刺すような痛みが走る。
思わず顔を手で覆う。
「・・・」
話が進みそうにないので、
おそるおそる目を開くと
俺の体は白い空間の中で
宙に浮いていた。
「な・・・!なん・・・!?」
たたらを踏む。
あ、踏んでる感触はある。
でも倒れられない。
少し無重力に近い感覚なのだろうか?
少し落ち着いてきた。
しかしここはどこだろう?
何をすればいい?
振り返ると、扉がなかった。
「何かしろってことか・・・?」
立っていても仕方ない。
歩きながら考えよう。
「い・・・!?」
再び前へ向き直ると、
目の前に女の人が立っていた。
(いつの間に・・・!)
背は自分より高い。
180より少し低いくらいか?
金色の長い髪に
整った顔立ち。
柔らかい笑みを浮かべる顔は
控え目に言っても
女神としか例えようがなかった。
(というか、この人は
さっきから何で何も言わないんだ?)
と、ゆっくりと手を伸ばされる。
そのあまりの自然さに
俺の体はまるで人形のように、
全く動けなかった。
「・・・」
抱きしめられていた。
まるで我が子を抱きしめるような
柔らかく、温かい抱擁。
胸に顔をうずめているのに
少しも恥ずかしさを感じなかった。
全身の力が抜けていく。
そうだ、
俺はこの世界に来てから、
ずっと張り詰めていたんだ。
異世界に対する緊張、
生活の基盤が全くないことへの焦り、
これからへの不安・・・
色々な感情が渦を巻いて、
少しも落ち着かなかった。
少しも心が休まらなかった。
緊張も焦りも不安も
全部全部、興奮で塗りつぶして・・・
ここは・・・とても温かい・・・
叶うなら、ずっとここに・・・
「・・・?」
何を・・・考えている?
ずっと、ここに・・・?
元の世界に帰りたい。
仲間に出会いたい。
ボルガさんにまた会いたい。
世界を救うほどの大冒険がしたい。
やりたいことを挙げたら、キリがない。
異世界だぞ・・・?
ずっと憧れてた世界に来たんだぞ?
冗談じゃない・・・!
「・・・っ!」
全身の力を振り絞って
女神様を突き飛ばす。
驚いている。
そうだろう。
もう少しで骨抜きに出来たんだ。
クソったれ・・・!
「舐めんな・・・!」
俺の冒険はまだ始まってすらいねぇんだ!
神様だろうが、邪魔させてたまるか!
「よく聞け!俺は・・・!」
(お前の思うようには絶対にならん!
大冒険が俺を待ってるからな!)
息を吸い込んで、
自分の気持ちを、正直に言った。
「お前を俺のものにしてやる!
世界一幸せにしてやる!
だから俺についてこい!!」
そっか・・・この空間でも、
この呪いは消せないのか・・・。
真っ赤になった女神様の
強烈なビンタで、
俺は、気を失った。