3.嘘つきは異世界転生の刑
墨をこぼしたような真っ黒な体毛。
鋭利な刃物のように鋭い目は金色に輝き、
黒い体毛と合わさり、夜空の月のようだった。
左目に包帯が巻かれている。
犬にも中二病ってあるんだろうか。
なんてそんなことはどうでもいい。
「あれぇ・・・?」
さっきの声の主はどこへ行ったんだろうか?
「・・・お手」
とりあえず犬に会ったらこれだよね。
「殺すぞ」
「・・・」
最近の芸は、レベルが高い。
牙をぞろりと覗かせ、
メンチきった犬が「殺すぞ」と喋る。
ネットに投稿したら
お金になりそうだ。
そうだ、帰ったらユーチューバーになろう。
早速携帯で撮影することにする。
動画モードだ。
「お手!」
「何をしているんだお前は」
バリエーションが豊富だ。
犬と会話出来てるようで
なんだか面白い。
「ここはどこですか?」
「・・・?何だって?」
犬はこちらの質問に眉をひそめる。
この表情の豊かさなんて、
まるで人間のようじゃないか。
「近くに街とかありますかね?」
「まぁ、あるな」
「どっちですか?」
「向こうだ」
犬が鼻で俺の右側を指す。
「ありがとうございます」
「送っていこうか?」
「え、いいんですか?」
「あぁ、暇だしな」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「来な」
「・・・はい」
拝啓、母上様。
私、犬と話が出来るようになりました。
実家のサブローに会いたいです。
異世界に郵送していただけませんか?
こうして、
この世界に来て初めての友達が出来ました。
「俺はボルガだ。お前、名前は?」
そうだ、自己紹介がまだだった。
「天野三郎です」
・・・・・・・・・・・・・あれ?
「変わった名前だな。どこから来た?」
「アメリカです」
・・・・・・・・・・・・・あれれ?
「聞いたことねぇな。歳は?」
「21です」
・・・・・・・・・・・・・あれれれ?
どういうことだ?
俺の知ってるプロフィールと違う。
名前も出身も年齢もデタラメだ。
こんな場面で嘘をつく必要はないのに
自然と口から出るのは嘘ばかりだ。
とりあえず、名前はマズい。
訂正しなければ。
「俺の名前は天野三郎です」
「・・・?さっき聞いたが」
「・・・すみません」
ダメだった。
進太郎は生粋のおばあちゃんっ子だ。
小さい頃から、おばあちゃんの聞かせてくれる
ファンタジー世界の物語が大好きで、
毎日寝る前に聞かせてもらっていた。
そのおばあちゃんは、普段は優しいが
嘘をつくことだけは、決して許してくれなかった。
だから大好きなおばあちゃんの為に、
一所懸命正直な人間として生きてきたつもりだ。
そのおばあちゃんも、3年前に死んでしまったが。
目の前がクラクラする。
遠ざかる意識に、
おばあちゃんの優しい声が響く。
「嘘をつくとねぇ、
地獄でエンマ様に舌を引っこ抜かれるんだよぉ
泣いても許してもらえないよぉ」
・・・あんまり優しくなかった。
おばあちゃん、異世界に
エンマ様っていないよね?
ね?
拝啓、母上様。
私、浜村進太郎は、
異世界で改名致しました。
お手紙を送る際は、
名前を間違えないようお気をつけください。
・・・そろそろ日本に帰りたいです。