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2.にわにわにわにわにわがにわる

タイトルなんて飾りだ!

考えるんじゃない、感じるんだ!!


あとぶっちゃけ俺も惚れ薬欲しいです。

 今さら感もただよいつつあるが、僕の名前は朽木という。朽木(くつき) 真志(しんし)だ。

 名前はシンジではなくシンシというところがミソ。名前の通りの紳士でもある。もちろん小、中は名前のせいでいじめられた。両親まじ死ね。

 そんな紳士であるところの僕の趣味は自転車でツーリングすることである。

 今はお金がないが、いつかバイクを買い、やがては車も買おうと思う。

 しかし今のところ僕の手元にある乗り物と言えばこの自転車だけである。そんなわけで僕は日曜日である今日、自分の趣味を満喫しているのである。

「噂には聞いていたけど地味な趣味ね」

 そして、藤原はそんな僕が風の感触を肌で感じている時に現われた。

 昨日のミニスカートとは違い、紺のジーパンとイラスト入りのラフなTシャツという出で立ちだ。トレードマークのポニーテールも健在で、なんだか彼女のかっこよさの際立つ格好だった。

 そして、その顔を見たおかげで昨日の悪夢が戻ってきた。てか、わざと地元を外すルート通ってたのになぜここに!

 しかもここは昨日とは違い、車道と歩道の分かれ、木が埋まったり花壇があったり100円ショップがあったりする表通りだ。しかも真っ昼間だし。

 僕は他人の振りを決め込んで、藤原の横を素通りすることにした。

「ちょ、ちょっと。待ちなさいよっ」

 が、

「うぉぉぉおお!?」

 なぜかブレーキをかけていないのに、タイヤが前に進まなかった。

 後ろを振り向くと、藤原が両手で自転車の荷台を掴まえていた。ガッデム。

 俺は諦めて足を地面についた。

「で、なにをしてらしているのでしょうか?」

「なんで敬語なのよ」

 藤原は不満そうにジト目で睨んでくる。のだが、なんだか藤原は微妙に視線を合わせようとだけはしない。顔もほんのり赤く、声にも気まずさが混じっているように、聞こえなくもない。まるで好きな女の子を自家発電の材料にしてしまった翌日の青少年のような態度だった。

 とは言ったものの、つっ掛かるなぁ、と僕は思わずにはいられない。ここらへんはやはりあくまでも『惚れ薬』なのであって、『洗脳薬』ではないことを実感させられる。つまり、元の人格が変わるわけではないのだ。

「んで? なにしてんの?」

「そ、そんなのあんたには関係ないでしょっ!」

 うぉい!

 さすがに関係あるだろう!

 そう思ってから、僕は腕時計で今の時間を確認した。

 十時半。

 僕は惚れ薬の取扱い説明書の内容を思い返した。たしか、この時間帯はレベル2だ。

 というか、厄介すぎるだろあの惚れ薬……。

 実はあの惚れ薬、効果は一律ではなく時間帯によって『惚れ度』が変わるのだという。理由は製作者の趣味、とのこと。次あったらまじで殺してやろうと思っている。昨夜、僕の殺人予定リストにあのおっさんが書き込まれた。ちなみに位置は両親の隣だ。

 そうして現在の藤原の状態は十時から始まるレベル2。確か、「相手のことを好きなのかな? と疑問に思う程度。相手を見てるとドキドキしてくるらしい」だったはずだ。

 昨夜の奇想天外な行動が確かレベル4だったはずなので、それに比べればだいぶ常識の範囲内と言えた。惚れ薬が常識的かどうかはともかくとして。

 ともかく、今の藤原に僕のことが好きだという確信はないわけだ。だから当然、自分の胸を僕に揉ませる、なんてことにもならない。

 …………。

「うわぁぁぁあああ.cdjAbd???!?!!」

「きゃ!? 突然頭かきむしってどうしたのよ」

「僕は! 僕は! 僕はぁぁぁ!!」

 ていうかなんでこいつ平然としてんだよ!

 こいつの中では昨日のことはどう処理されてるんだ?

「う……、ぐ……」

 聞いてみたい気もするが、なんだか自らパンドラの箱を開けているような気もしたので辞めておいた。

「で、なんなんだよ。何かよう?」

「え?」

「え? じゃないよ。人が趣味満喫してるところをわざわざ呼び止めたんだから、なんか用事があったんじゃないの?」

「あ、いや、その……」

 藤原はそう言うと焦ったようにもじもじしだした。

 まあそうだろうなー、とは思ってたけどさ。

「用事があるわけじゃないんでしょ?」

「そ、そんなわけないじゃない!」

「じゃあなんだよ?」

「う、ぐぅ……」

 そう言うと、藤原は恥ずかしいと悔しいを足して二で掛けたような顔をして黙り込んだ。

 僕はSなので、それを助け船も出さずに見守る。

 そしてちょうどカップラーメンが出来上がるころ、

「あ、あんたがあたしをシカトするのが悪いんでしょ!」

 すっかりゆでダコのようになった藤原が言った。

 ……うん。

 ……なんていうか。

「これはこれで可愛い、かも」

「なっ!?」

 その言葉に、藤原が顔を赤らめて口をあわあわさせる。

「か、かわっ……でも! その! あの……でも……」

 僕には藤原が今にも高血圧で倒れるんじゃないかと、少し心配になってきた。

 ただ、ちょっと楽しくなってきてもいた。昨日は突然のことに慌ててしまったが、あれだけ僕にツンケンしていた藤原が、いまや僕の一言ひとことに過剰反応して七転八倒しているのだ。これが楽しくないわけがない。しかも、藤原はルックスだけはずば抜けているのだ。こうなってしまえば可愛いものだった。

 この時、僕は自らその泥沼に全身ダイブしていることに気付いていなかった。「君子危うきに近寄らず」を座右の銘としている朽木真志の、一生の不覚といってもいいだろう。

 ともかく、その時の僕は浮かれていた。それもそうだ。天敵だった誇り高き狼が、飼い犬のように腹を見せて媚びているのだ。浮かれるなというほうが無理な注文だ。

 そんな僕だったからこそ、その時意味もなく凶悪なことが思い浮かんだのだった。

 惚れ薬の最終段階、夜十一時から十二時にかけておこる末期症状。おっさんの説明書にはレベル5、とあった。

「ねぇ、ところで藤原」

「え? え?」

 まだ目を白黒させている藤原の耳元へ、僕はそっとささやいた。

「昨日の夜、ひとりでベッドの上でなにしてたんだ?」

 僕は薬の効果から、確信めいて言った。あの説明書を全て信じることはできなかったが、レベル4だという昨夜の藤原ですら、公道で自分の胸をクラスメイトに揉ませてしまうくらい大胆なことをしでかすのだ。説明では性格には全く干渉しない薬であるらしいが、その変わり恋愛感情に付随する性欲を強く刺激するらしい。それこそ、一時的にその人の倫理観さえも破壊してしまいかねないほど。

 そしてこれは昨日恥をかかされた僕の報復でもある。惚れ薬のせいで妙な部分に羞恥心感じなくなっている藤原への、これは言わば『お仕置き』だった。

「え?」

 しかし、僕のその言葉を聞いた藤原の声の質が変わった。同時に、ブチという音が聞こえた気がした。見れば、藤原は目尻に涙を溜めていた。

「あ、いや、その……」

 正直、この時僕はやりすぎたことに気がついた。僕は、調子に乗って藤原を傷つけた。そう思った。

 だが、

「えーそうよ、したわよ一人エッチ。女の子だってするのよ。なんか文句あるわけ?」

「は……?」

 開いた口が塞がらなかった。

 なにを思ったのか、藤原はとにかく早口で喚きたてた。

「オカズはあんたよ。昨日も言ったでしょ、何でかしらないけどあたしはどうやらあんたのことが好きになっちゃったのよ。しょうがないじゃない。あたしがなんか悪いことしたっていうの? いいえ、してないわ。ちょーっとエッチなことしただけで、あたし悪いことなんでなんにもしてないわ。あんたに責められることなんて、なにひとつないのよ!」

 そんなことを、顔を真っ赤にしながらまくし立てるのだった。

 呆然とする僕を置いてけぼりにして、藤原は自分の言いたいことだけを言い終えると、

「フン」

 パチーン!

「ぐふっ!?」

 僕へ気持ちのいいビンタを一撃入れ、どこかへ去っていった。

 僕が動けるようになったのは、それから何時間たってからなのか僕にはよく分からない。あるいは、それは数分のできごとだったのかもしれないけれど。

 動き出した僕の右頬は、まだ熱を持っていた。

 どうやら、感情の折り合いは分からないが記憶は引き継いでいるらしい。

 そんなことを思いつつ、僕はとぼとぼと帰路へ着いた。


 それから更に数時間たっても、僕の心臓はまだ彼女の告白にドキドキし続けているのだった。


お触りがないだと!?

はい、次回持ち越しということで。

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