1.ツンドラ女王とおっぱいとエロ本
カテゴリに『らぶえっち』を作った人を俺は尊敬します。
だって『らぶえっち』だよ、『らぶえっち』。
なんかすごくね!? なんていうか、こう、コスモ的ななにかを感じるよねっ♪
しかし第一話にしてすでキャラ崩壊が激しいですね、主に作者の。
時間は少しだけ巻き戻る。本当に少しだ。まあ、多分30分前後なんじゃないかと思う。
ともかく、僕は少し前に家を出た。夜食を求めて夜のコンビニへ行ったのだった。
全てはその帰り。夜食のおにぎりを手に入れた帰り道で起った。
コンビニの外に出るとそこには満天の星空が、なわけもなく、くすんだ夜空が広がっていた。
都会とはとても恥ずかしくて言えないが、
それでも都道府県的には首都ってことになっているここいらは十時を過ぎても道はまだ街灯で明るかった。
未だに梅雨の到来を感じさせない六月の夜だった。湿気も少なく、時折吹く風が半袖から出た腕を心地よくなでていた。
僕はそろそろビーチサンダルの必要性を感じながら、そんな夜道を歩いていた。
そして、それを発見した。
一言で言うなら人間が倒れていた。
ぶっちゃけ、すごく関わりたくなかった。
倒れているのは僕の父さんくらいの年齢のおっさんだった。身なりは悪くなく、浮浪者というよりも研究者然としていた。
なぜ研究者か、というと白衣を着ているからだ。ただその白衣はすすけるだけならともかく、ピンクや緑や赤など、明らかに自然界にないようなおかしな液体が飛び散ったあとがあった。しかもそれらの色は絵の具では説明できないようなぬめり(・・・)といかてかり(・・・)といか、とにかくそんな感じの威圧感を放っていた。
ぶっちゃけ、すごく関わりたくなかった。はい大事なことなので二回言いました。
しかし回りを見渡しても人はいない。いつもならなんだかんだ人通りのある時間帯であるにも関わらず、今日はなぜか誰もいない。
なんだか神様に試されている気がした。僕はこれでも敬虔なクリスチャンなのだ。あれだろ、八百万の神とかそんな感じ?
…………。
まあともかく、そんなわけで僕の周りには誰もおらず、僕の前にはおっさんが倒れていた。
今は夏前だし、ここは路地一本入ったところで車も(ほぼ)通らないので、ほっといても死ぬってことはない、と思いたい……。
「し、死ぬぅぅぅ」
「うわぁぁぁ!」
「バタ」
この人、突然動き出したかと思ったらバタって自分で言って倒れたぞ!
こ、これはつまり、話しかけろってことだよなぁ。
こういう時、自分の流され易さが恨めしくなる。
やれやれ。
僕はとりあえず、おっさんの後頭部の横にしゃがみ込んだ。
「あ、あの。大丈夫ですか?」
「坊主。オレが大丈夫に見えるのか?」
おっさんはうつぶせに倒れたまま、こちらを見向きもせずに低い声で言った。
というかつっかかってきたよ。なんなんだよおい!
「い、いえ。見えないです」
僕はツッコミたいのを我慢して答えた。強気に喋る人間に反論をしてはいけない、というのは僕がこれまでの高校生活で学習した数少ないことがらである。
「坊主、メシを持ってるか?」
「はぁ、ちょうどおにぎりを二つほど」
「坊主、でかしたぞ」
おっさんはそう言うと、これまでぴくりともさせなかった体を跳ね起こした。そしてあれよあれよと言う間に僕からレジ袋を奪い、包装を解いて口へ突っ込んだ。
「ほがっ、ふぇふぇほのがっ!!」
「わ、分かったから。分かったから、口のものがなくなってから喋ってよっ」
僕がそう言うと、おっさんは安心したようにガツガツと二つのおにぎりを片付けた。
「坊主、お茶」
「ねぇよ!!」
どんだけあつかましいんだ!
「まあそうかっかするな。若いもんはこれだからいけねぇ」
「…………」
僕は黙って携帯の110番を押した。触らぬ変人に祟りなし。
「おっと。その物騒なもんは預かるぜ」
手遅れでした!
僕の携帯は発信ボタンを押す寸前で奪われてしまった。
「なにするんですかっ! 返してください!」
「実は追われてる身でね、警察はまずいわけよ」
「僕はもっとまずそうですね、それは」
「そうオレをリスペクトしたような目で見るな。照れるだろう」
「目も頭も腐ってるみたいですね」
「ついでに性根も腐ってやがるともっぱら有名だ」
自覚はあるらしい。
自分が変人だと自覚していない変人と、自分は変人だと言い張る変人。僕はどっちがやっかいか少しの間判断に困った。
結論、どっちも僕の人生には関わって欲しくなかった。
「じゃ、そういうわけで」
僕はおっさんから携帯をひったくると、踵を返した。
「まあ待て、坊主。これもなにかの縁だ」
「僕は基本的に馴々しい人を信用しないことにしてるんです」
「なかなかクールだな。気に入ったぜ兄ちゃん」
「勝手に呼称を親しげにしないでください」
「まあ待て、兄ちゃん。今オレは最高に気分がいい。よってこれをやろう」
「なんだって?」
おっさんはそう言うと、僕の手へなにかを押し込んだ。
目を落とすとそれは、200mlの紙パックだった。手に伝わる重さから、中身は開封されずに入っていることが分かる。
そしてそのパッケージには、
『惚れ薬! 牛乳味!?www』
とあった。
「はぁ? あの……」
僕はおっさんに文句を言ってやるべく顔を上げたが、
「あ、あれっ!?」
「あんた、ひとりでなにやってるわけ?」
僕の前には誰もいなくなっていた。そして、後ろからは不機嫌そうな声色が届いた。まるで会いたくもない同級生に夜道であってしまって、しかもそいつがおかしな行動をとっていたために逆に声をかけざるを得なくなってしまった女の子のような声色だった。
僕はギチギチという音がたちそうな首を必死に捻り、後ろを向くのだった。
やはりというか、そこにいたのはクラスメイトにして校内最強の美少女、藤原沙姫だった。ついでに言うなら天敵、でもある。
それほど積極的に話したことがあるわけではないが、お互いがお互いのことをそれこそ空気によって『気に食わない奴だ!』と感じ取っていた。
その藤原が腰へ手をやり(まるでモデルのようだ)、僕の前へ立ちはだかっていた。そのスカートから伸びた健康的な脚のラインは、ただそれだけで倒錯的ななにかを放っているようで、僕は思わず生唾を飲み込んだ。
「あんた、なにやってるのよ?」
藤原はその黄金律とも言えるような整った眉を、不機嫌そうにしかめて言った。美人というのはただ美人だというだけで人を服従させる。友達なんかは藤原のそういうのを鼻にかけないストイックなとこがいい、と言っていたっけ。だけど、意識するしないに関わらず、やはり藤原の不機嫌な顔というのは僕を圧倒させた。
だからだろう。僕の口から出てきた言葉には、どこか言い訳染みた響きがあった。
「い、今ここに変なおっさんがいなかったか!?」
「そんな奴居ないわよ。あたしが見たのはあんたがひとりでブツブツ言ってるとこだけ」
「そ、そんな……」
馬鹿な、という言葉は口から漏れることもなく、体の内側へ不純物となって堆積していくようだった。
「で? 道の真ん中でなにやってるのよ。邪魔なんだけど」
「変なおっさんがいたって言ってるだろ。絡まれてたんだよ」
「ふーん。変なおじさんねぇ」
藤原は全く信じていない顔で言った。
「ま、あんたのことなんてどうでもいいけど、うちの近所で変なことしないでよね」
「するか!」
「普段陰気な奴って、行き詰まった時に何するか分からないからねー」
ストイック、ねぇ。
僕はポニーテールを揺らしながら僕を嘲笑する藤原を睨み付けた。
腹の立った僕は手にした紙パックを藤原へ投げ付けた。
が、
「なによ、これ」
さすが運動部というか、あっさりとキャッチされてしまった。僕はあまりの情けなさに少しげんなりした。
「そのおっさんが僕によこしたんだよ」
「あっそ。あ、これ牛乳じゃない!」
藤原はパッケージを見て嬉しそうに言った。
「それ、返せよ」
「やーよ、あんたが投げたんじゃない」
僕は藤原を睨み付けたが、彼女は涼しい顔をしてそれを受け流した。
「投げたってことは、いらないのよね♪」
藤原のそんな言葉が聞こえたかと思うと、視線を上げた先で藤原はすでにストローでその紙パックを吸い上げていた。
「ちょうど牛乳が飲みたくなって買い物に来たから助かっちゃったわー」
そんなことを飲みながら漏らした。
夜の十時すぎに牛乳が飲みたくなってわざわざ外まで買いに行く、とかどんだけ牛乳が好きなんだよ……。
そんなどうでもいいところにさらにげんなりしつつ、僕のほうはそろそろ帰ることにした。
「おい、藤原。腹壊しても僕は責任取らないからな」
「…………」
「藤原?」
その時になって、僕はようやく藤原の様子がおかしいことに気が付いた。
藤原はストローで紙パックの中身を飲んでいた。それは時折喉が動くことから間違いない。ただその飲み方が異常だった。なんだか一口のむごとにうっとりとしているのだ。瞳は色気たっぷりに濡れ、にも関わらず焦点はまったく合っていなかった。ゆっくりと、ひとくちひとくち味わうように飲んでいるくせに、時折息継ぎのためにストローから離される口からはハァハァと悩ましげな吐息が漏れている。顔は徐々に赤みを増し、熟れたりんごのような赤さになっていた。
なにもできずにその様をぼうっと見ていた僕の前で、遂に藤原は紙パックを全て飲み終えてしまった。 最後はジュースのなかなか飲めない子供のように、音がするくらい最後の一滴まで吸い上げていた。
そして、飲み終えてしまうと今度は自分の口の周りをぺろりと舐めた。それはまるで今まで飲んでいた飲み物の味が忘れられない、とでもいうような仕草に見えて、僕はその淫靡さに鳥肌が立った。
そして、焦点の戻った藤原が僕を見る目は完全に蕩けていた。
その上目遣い、ただそれだけに、全て逆立ったと思われた毛穴がさらにゾワリとした。
「好き。ううん、大好きっ!」
藤原が、聞いたこともないような甘えた声で僕へ愛の告白をした。
僕はその事実にくらくらした。
ここまで来たるもはや信じるしかあるまい。『惚れ薬』というのは本当だったのだ。
だが、それが分かったところでやるべきことはひとつだ。僕は暴れる理性を深呼吸で押さえ付けた。落ち着け、これは藤原だ。OK俺、これは藤原だ。行動を開始する。
「おい藤原、落ち着け。お前のその気持ちは偽物だ。だってそうだろう? 僕らはいつだって憎しみ合っていたはずだ。そんなお前が僕のことを好きになるわけがない。その気持ちは偽物だ」
少し早口になってしまった。なんで僕が藤原に告白されて動揺しなくちゃいけないんだ。
だが、
「ううん。今まではあたしが間違ってた。朽木は正しい。あたしがバカだっただけ。だけど、朽木が好きって気持ちは偽物なんかじゃないもん」
全く聞く耳を持たない。これは少し厄介かもしれない。
「いいか? もう一度言うぞ、落ち着け。深呼吸だ」
「うん」
「吸って」
「すぅー」
「吐いて」
「はぁー」
「落ち着いたか?」
「うんっ」
「冷静になって自分の内面を考えるんだ。この好きって気持ちはどこか不自然じゃないか?」
「う、うーん……」
「つい十分前のお前は思ってなかったはずなんだ。不自然なはずだ」
「そう言われてみれば……そうかも」
「だろう?」
僕は少し光が見えてきた気がした。
「だから……」
「ううん。でもそれもどうでもいい! 今、誰かに恋することを知ってこんなに幸せなんだもんっ。それが本物だろうが偽物だろうがどうでもいいもんっ」
「え?」
いや、いいわけがないだろう……。
「それに、今は朽木のことしか考えられないしっ」
藤原はそんなことを恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、満面の笑顔で言った。
「ぐっ」
その笑顔に、僕は少しだけ気勢を逸らされてしまう。
「朽木はあたしのこと、嫌い?」
そして、畳み掛けるようにして藤原は、心細そうな、庇護欲をくすぐるような声で僕へ尋ねるのだった。
僕の方は藤原の甘過ぎる声や言葉、近寄ってくると香る女の子独特の柔らかい匂いに頭はぐるぐるだった。
「好きとか、き、ききき嫌いとかじゃなくてさ!」
「じゃあ好き?」
「あ、あの……ううう……」
「じゃあ、好きになってもらうしかないね」
その時の藤原の声はどこか低く、僕のその時点でその淫靡さに気付くべきだったのだ。
「ほら、あたしの心臓の音、聞いて」
藤原はそう言うと僕の手に自分の手を重ねて、自分の形の良いおっぱいを押しつぶすように押し付けた。
「あ、う……ちょっと……ううう」
そうして聞こえるのは自分の心臓が早鐘を打つ音ばかりだった。
藤原の巨乳は張りがあり、服の上からでもその柔らかさを自己主張しているようだった。藤原のおっぱいは、まるでそれ自体が引力をもっているかのように、服越しであるにも関わらず僕の手に吸い付いた。形、なのだろうか。それは人の手に中にあるこそがあるべき姿とでもいうような自然さで、そこに収まっていた。といっても藤原の大きすぎるおっぱいは僕の手には少し余るのだが。
「好き。あん、朽木ぃ、好きぃ」
そして耳元では呪い言のように、甘い言葉を囁き続ける。そうしていると、いったいどっちが操られているのかさえも曖昧になってくるのだった。
片手だった手はいつの間にか両手になり、場所はすっかり心臓ではなく下乳を持ち上げるような位置にあった。両手の甲に添えられた藤原の手は汗でしっとりと濡れていた。手のひらが感じる藤原のおっぱいは熱いと暖かいの中間のような温度だった。感触として感じるのはほとんど服の繊維だけだというのに、その視界から得られる扇情的な光景に僕の頭はどうにかなってしまいそうだった。しかも、女の子の胸というのは想像以上に柔らかいものだったらしく、触れているだけで形が変わっていた。その感触が、なんとも言えず甘美だった。
「うふふ、男の子なら、こういうのが嫌いな人はいないって聞いたよ」
藤原は耳元でそう呟くと、重ねた手を上から強弱を付けて握り始める。そう、まるでものを揉んでいるように。ふにっ、ふにっ、と。僕の手はこれまで必死に理性でもってブレーキかけていた領域に、突き落とされそうだった。もちろん、ブレーキをぶっ壊されてから。
「う、わわわ……!」
ガタッ。
「……うわぁぁぁ!!」
路地の奥の方から物音がした。見ればそこには黒猫が一匹、道路を横断していた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ハァ、ハァ、ハァ」
僕と藤原の距離は物音に飛び退いたおかげで少し離れていた。僕はそこから一歩でも近寄れば藤原のチャームの魔法にかかってしまうという脅迫観念から、一歩も動けずにいた。
だいたい、どうかしていたとしか思えない。
いくら人通りの少ない道だからといって、公道のど真ん中でクラスメイトの胸を揉んでいたのだ。
極度の緊張のためか、頭痛までした。
見れば藤原は僕が夢から覚めてしまったのを、理解しているようだった。それ以上僕に迫ってくるというようなことはなかった。
しかしそれはつまり、『惚れ薬』の事実が勘違いではなかったことを示していた。
「きょ、今日はそろそろ帰るよ」
そう言った僕の声は裏返っていた。
「うん、じゃあまた学校で」
藤原は暗闇でも分かるほど、興奮した顔のまま言った。
その後のことはよく覚えていない。とりあえず、僕は逃げるように走って帰ってきたことだけは玄関で荒い息を整えていたことで理解した。
そして、そのさらに数分後、悩みの種は想像以上の花が咲きそうなことを予感した。
自分の部屋のベッドの上には置き手紙とともに、一冊の取扱い説明書が置かれていた。
置き手紙曰く、
『そう言えば、惚れ薬! 牛乳味!?wwwの取説を渡して置くのを忘れていた。なので勝手に進入させていただいた。取説にはないが、かなり強力なので使いどころは自分の倫理観とも照らし合わせて厳重に考えてくれたまえ。PS.エロ本を背表紙変えて堂々と本棚にならべるのは、あまり効果的ではないぞ、兄ちゃん』
余計なお世話だよっ!
あんまりニヤニヤしない?
ぶっちゃけやらかしたと思ってる。