一部
わたしむすこころします
おおさわ ひろき
登場人物
日向美月(46)清掃会社・パート
日向 翔(21)美月の息子、区役所臨時職員
山田望(32)区役所福祉課職員
山廣順次(52)ボクシング会長
水田のぞみ(25)英語通訳人
水田琴音(19)大学生、のぞみの妹
揖斐雄二(12)小学生
木村人志(21)ボクサー
○背景ブラック
美月「どうやって殺そう。殺虫剤を飯に混ぜ
るか。首吊りに見せかけるか。シンプルに
海に突き落とすか」
○アパート・外観
窓から見えるテレビ映像。
○アパート・リビング
テーブル席、肘をついてテレビを眺め
る日向美月(46)。
美月のM「そんな言葉が口をついて出た。ギ
シ、ギシ、ギシッ。ナイフで肉を切る。そ
れとも、こんなふうに殺してやろうか。日
本国民の三大義務。勤労、納税、あとは教
育だったけな。うちには非国民がいる。高
校まで出してやったのに、私の息子はニー
トだ。ニートになって丸一年が経つ。社会
問題ニート、私に伸し掛かる。もう倒れそ
う」
食事をとる美月。
美月のM「はっ倒してくれる夫はいない。ト
ンテキをかみしめる私の怒りはもうマック
スだ。このテレビにもいらっとくる。おい
女子アナ。殺人事件のあと、ニコニコ顔で
加湿器の告知かよ。お前の人間性滲み出て
んぞ」
箸を置いた美月はグラスの水を飲み干
す。
美月のM「私はシングルマザーだ。キャバ嬢
上がり。好き放題やってた私」 リビングの壁・幼少時からの息子日向
翔(21)と美月が映る写真が数多く張ら
れている
美月のM「母一人、子一人なんとかやってき
た。私は頑張った。まあ、母子手当てのお
かげも大きいけど」
盛り付けた弁当箱を持つ幼少の日向の
写真群。
美月のM「屈託の無い笑顔。あいつどこに忘
れてきたんだ。料理なんてろくすっぽして
なかったから弁当づくりとか超大変。何個
も作った玉子焼き。困ったときの味方ミー
トボール。海苔と紅生姜、ほっぺに桜でん
ぷんで作ったアンパンマン。カレーパンマ
ン。ドキンちゃんに食パンマン。ばいきん
マンは、江戸むらさきを使った。犬のチー
ズはおぼろ昆布か。なぜ、スライスチーズ
にしなかった。美月。眉毛は森永の小枝。
斬新だ」
乳歯の抜けた幼少の日向の写真。
美月のM「ほら、あの乳歯が抜けたやつなん
てすごくかわいい。息子が屋根の上に放っ
た乳歯ってどうなったんだろ。土に還るん
だろうか」
リングに立つ日向。
律子のM「息子は高校を出てから、プロボク
サーになった。インターハイとか大きな大
会で二位、三位に何度かなったこともあり
活躍が期待された」
○回想
ボクシング試合会場。
観客席・七割程の客入り
リング上・日向翔(21)と対戦相手
美月のM「しかし、七戦目に日本ランク上
位の選手。老獪な選手と当たった。ポイン
ト狙いの戦いに息子は手こずった。終盤、
相手の頭が息子の顔に。確か、バッティン
グと言うらしい。右の目じりから出血。試
合が止まった」
引き上げる日向。
リングアナウンス「偶然のバッティングによ
り試合が終了ました。規定により八ラウン
ドまでの採点。判定結果をお伝えします。
勝者~」
美月のM「私はあのアナウンスが鮮明に記憶
されていた」
肘打ちや頭突きする対戦相手。不適な
笑み。
美月のM「もうひとつ、相手のニヤリ笑った
相手の横顔。わざとやりやがったな。この
やろう。汚い言葉がこぼれ出た」
試合後の会場・後方の観客席にポツン
と座る日向はリングをじっと、見つめ
る。
会場の隅から美月が日向を見つめる。
診察の様子。
美月のM「翌日の精密検査、診断は軽い網膜
剥離。それ程の怪我ではない。しばらく休
んで試合はそれからと医師は言った。しか
し、俺もう辞める。息子は言う。会長さん
いわく燃え尽き症候群。私には不完全燃焼
と感じた試合。息子のなかで何が切れてし
まったのか。夢破れたものに掛ける言葉は
ない。今考えると、これがよくなかったと
思う」
ソファーに寝転んでテレビを見る日向。
美月のM「そして、息子はニートになった」
日向に口うるさく言う美月の様子。
美月のM「私は、易々と息子をニートにした
わけではない」
職業コロコロと変える日向。
美月のM「眼の傷が小さくなった頃合いに。
私の勤める清掃会社や知人が経営するスー
パーなどにほおりこんだが、すぐに辞めて
しまった。あんなに活力であふれた姿が幻
のように思えるぐらいに息子は変わってし
まった。息子がすることといえば、自室で
パソコンに向かうことと、散歩するぐらい
だ」
神社で願い事をする美月。
美月のM「神様、神様。存在を信じてもいな
いのに、手を合わせる。ハロィン、クリス
マスを満喫しましたが、どうかお願いしま
す。今年は働きますようにそう願った」
ぐうたらな生活をする日向。
美月のM「神様はニートと言うことばをご存
じではないのだろう。全く変化がない」
○アパート・リビング
テーブルを叩く美月。
美月「私はもう限界だ」
美月のM「勝手に、人生を絶望してる息子。
私はいろいろとアクションを起こした。い
ろいろと。私がこんなに苦しむ必要がある
のか。そうだ、息子を殺そう。これが私の
愛情だ。そう思った。息子を殺したら、恋
でもしようか。長年していなかったな恋。
キャバ嬢時代、あそこまでとはのぞまない
が恋がしたい」
美月はスマホ検索する
美月のM「ネットで調べたところ、殺虫剤は
足がつきやすい。首吊りは争いなく殺した
としても、世間体が悪い。近所の奥様連中
が無いことを尾びれ、背びれ、ご丁寧に胸
びれまでつけて泳がすことを予想される。
やっぱり恋なんてできない」
○妄想
岸壁、波が打ち寄せる。
美月のM「だったら海に突き落とすのがベス
トだ。計画を練る。時間はやはり夜だ。一
緒に夜釣り。頃合いを見て、突き落とす。
計画は完璧だ。しかし、私は母親だった」
海面に顔を出して助けを求める日向。
美月のM「私は息子が悶え苦しむ中、それに
背を向ける自分の姿を想像する」
○アパート・リビング
壁の写真。
美月のM「無理だよ。母親の性は捨てられな
い。あいを抱き抱える写真。手の掛からな
い子供だった。夜泣きで寝不足になること
はほとんどなかったし。コロコロと転ぶ子
だったが、私の心配そうな顔をのぞき、ニ
ヤッと笑ってから立ち上がる。子供は未熟
だから守ってあげなければならないのに。
私の不安を悟り続けた息子は反対に私を守
らなければならない。そんなふうに思って
いたのか? 息子よ。息子への殺意より息
子が今何を考えているのか気になった」
テレビ画面・情報番組
美月のM「最近、人の思考が読み取れる装置
が実用段階に近づいてると、なにかのテレ
ビでやっていた。そんなものはないから、
手っ取り早くパソコンでものぞくか」
○同・日向の部屋
部屋を見渡す美月。
美月のM「部屋に、じょっぺんはかっていな
い。閉ざしかたは末期ではない。レベルで
言うと一か二。治る見込みはあるし。働か
ないが日常会話はできる。というかじょっ
ぺんなんて今は死語か。ここのところ、散
歩が長い。暖房の温度を下げろと、口酸っ
ぱく言っているのでフリーWi-Fiのある図
書館、ふれあい会館にでも行ってんのか」
デスクに腰掛ける美月。パソコンが起
動。
美月のM「起動。パスワードは設定していな
い。トップ画面は木村くん。木村くんは、
息子のアマ時代ライバルだった選手。彼も
プロに転向、強豪ジムに所属。六戦でフェ
ザー級の日本チャンプ。今も無敗、世界チャンプになった。
未練たらたら。だったらやればいいのに。
ボクシング」
画面・検索エンジン
美月のM「まず、履歴を見た。就職、アルバ
イト募集関連なら殺意も和らぐと思った。
そんな期待は裏切られた。DMM、DMM
DMMが続いた。破廉恥なタイトルで、も
う予想はついた。開くまでもない。DMM
とはエロ動画だ。筆下ろしや親子丼。息子
の趣味がはっきりわかった。偉いのは試聴
動画を選んでいたことぐらい。このばかや
ろう。DMMの他はボクシングの試合結果
速報……風俗店も見てやがる。場合によっ
ては恩赦で刑の執行も考えた。働かないで
ものをこすってばっか。だれのおかげで生
活できているんだ。水もヒカリもただだと
思っている息子に腹が立つ。とりあえず、
きょうの飯はカップラーメン。決定」
画面・メール受信ボックス
美月のM「続いてメールチェック。受信ボッ
クスは迷惑メールばっか。あんなもんみて
るからだよ。私はその中に紛れてたメール
を見逃さなかった」
メール文面。
美月のM「水田のぞみ。ありがとうございま
した。すっきりしました。また、お願いす
るかもしれません(笑)はっふざけんなよ。
あいつ、行きやがったな。すっきりする金
が残ってるなら家に金を入れろっつうの」
画面を睨み付ける美月。
美月のM「よしっ。この女も同罪だ。これで
打ち込むのか、イヤだな。うわっ、イカく
さっ」
キーボードを打ち込む美月。
文面・いきなりごめん。よかったらこ
れから、店ではなく普通に会いたい。
駅の改札前、六時でいい?。
美月「送信」
美月のM「ふしだら娘に制裁だ。待ちぼうけ
で風邪をひく刑だ、小娘。まあ来ないか。
風俗嬢だし。お次はワードでも見るか。」
ワードファイルを開く美月。
美月のM「そのファイルには低俗な小説。何
やってんだか。こっちが恥ずかしくなるぐ
らいの幼稚な文章で、ロッキーシリーズを
薄めたような話。小説書いて生活しようと
する生半可な魂胆が丸見えだ。少しは隠せ
よ息子。いやらしい腹が立つ。こちとら、
鼻毛も凍る朝っぱらから便器をこすってい
るっていうのに親の私、主人より遅く起き
て銭ならない文章書いて、いいご身分です
な。今日は飯なし。水飲んで寝ろ」
〈日誌〉ファイルを開く美月。
美月のM「日誌というタイトル。ニートの日
誌なんて、と思いながらクリックした。内
容はボクシング。今日のスパーはどうだっ
たとか。僧帽筋がまだ足りないからダメー
ジが残る。肘の返しのが甘い。腰が入って
ない。足の親指で地面をつかめてない。ボ
クサーだったんだな。コイツは」
○フラッシュバック
早朝、自転車にまたがる美月が少し開
けたドアの隙間に顔を入れる。
美月「ちゃんと閉めなよ」
ドアを閉める美月。
美月は自転車を漕ぎ始める。
耳にイヤホン。
イヤホンの曲・ワイマー「蝶結びのう
た」Aメロ
美月の背中。
美月のM「出掛ける私、しばくして」
扉の前・寝癖頭の日向が
ニット帽を
挟んだ指で靴紐を結ぶ。
口には首からぶら下げる鍵。
日向が口で施錠してから走り出す。
美月は施錠の音で振り向く。
美月のM「走り出すと、すぐに私に追い付く
の」
日向は美月に追い付きニット帽を浅く
被る。
美月のM「酷い寝癖をごまかすニット帽頭」
美月「目やについてる」
日向は目やにを擦って、美月を追い越
す。
○アパート・日向の部屋
美月「懐かしいな」
画面・下へスクロール。
美月のM「日誌はあの日に近づく」
○回想
計量と試合前日の生活の様子。
日向のM「一一月一六日。計量。明日は試合
か。木村に先に超されたぶん、ここで負け
られない。木村に負けた半年前、全日本新
人王を思い出せ。あの悔しさ。あの時の自
分より、俺は強くなった。さあ、母さんの
カツ煮食って寝れば。明日が来る。明日は
カツ」
○アパート・日向の部屋
美月「フッだじゃれかよ。このあとの結果」
○回想
日向のM「一一月一九日」
ドクターストップで負けた試合。
日向のM「the end終わった終わったんだよ
何度でも立ち上がる。竹原ピストルのうた
じゃあるまいし。パンチでは倒されていな
い。でも木村が離れていく」
○アパート・日向の部屋
美月「精神的なダメージ、それがコイツを沈
めた原因だった」
○回想
バイトをする日向。
日向のM「一二月三日。母さんの会社でバイ
ト。頑張るれるかな?」
引きこもり生活の日向。
日向のM「一二月二〇日。バイト、やめた。
母さんに公務員試験を受けるなんて嘘をつ
いてまで。なんか力が入らないんだ。バイ
トの掛け持ちしまくって俺。ポスティング
に居酒屋、交通誘導。そんな俺が六時間清
掃に耐えれたかった。俺、もうダメだ。そ
れから、美佳と別れた。いい人見つかれば
いいな」
○アパート・日向の部屋
美月のM「心がいたいな。私がコイツに仕事
を紹介した。それは間違ってた。こころの
修復。それが最優先だった」
○回想
憂鬱な日向の様子。
日向のM「一月一八日。新年が開けたってい
うのに。気持ちが晴れない。たぶんもうだ
めだ。死んでしまおうか。三月五日。真剣
に死のうと思う。警察の参考書完璧に理解
した。でも働くってイメージしたら吐き気
がする。ずっとおんなじことすんだなって
思ってしまうと絶望しか感じないし。かと
いってリングになんて戻れない」
自殺を図る日向の様子。
日向のM「三月九日。これから、リビングに
あった更の風邪薬を飲む。ゼリーにまぜて
ね。三月一一日。死ねなかった。丸二日、
寝ただけだ。母さんには風邪引いたって誤
魔化した。四月一日。エイプリルフール。
この日に死んだら、母さんの悲しみも少し
和らぐのか。四月二日。昨日も死ねなかっ
た。ドアノブに結んだロープほどけた。結
びかた自己流だったから。死ぬのって、こ
わいのな。心臓より胃が過敏に動く、体質
かもしれないけど。四月三日。駅裏の公衆
便所にいい感じでロープをくくれる。ネッ
トで絶対ほどけない結び方を習得した。四
月四日。死ぬための日。でも、死ねなかっ
た。夜九時、ちゃんと結んであとはわっか
に首を通すだけだった。怖かった。足が震
えてる。と、まっぽが来た。自転車の番号
確認させろっていうから、なんか腹立って
拒んだ。言い合いになった。あんまりにも
楯突くもんだからやつがあきらめた。邪魔
入って良かった。死ぬ恐怖乗り越えないと
死ねないことがわかった。逆に死ぬなって
ことか。働けねえ体質、直すしかねえな。
しばらく、電源入れてないスマホをリブー
ト。会長やらの着信。出れねえよ。俺は天
才だと思ってボクシングやってた。木村に
だってそのうち勝つ。俺は天才だ俺は天才
だ俺は……と、うぬぼれてうぬぼれながら
死ねれば幸せなのに。最高に気持ちいいの
に。俺の自己慢でマスターべーションの人
生終わりにしたい」
○アパート・日向の部屋
美月は散らかったティッシュで目尻を
抑える。
美月を照らすブルーライト。
美月のM「親ってこんなの見つけたら、ひっ
ぱたいて抱き締める。私にそんな資格はな
いか。今まで私は親をやれていたか。ライ
ト、眩しい」
○回想
引きこもる日向の様子。
日向のM「五月五日。死ぬのやめて小説はじ
めました。俺は書く才能ねえわ。あー暇。
八月二日。二一になった。良さそうな仕事
はお祈りメールだから楽な仕事探したら、
だし子を勧められた。捕まりたはくない捕
まりたくはない」
社会復帰プログラムに参加する日向の
様子。
日向のM「最近、区の社会復帰プログラム。
訳すとニート相談室とやらに行ってる。卓
球とかやって社会復帰? バカらしいわ。
次の段階、就労体験でリハビリしろとさ。
暇だしやるか。八月一三日。就労カフェ。
就労体験いい感じ。八月二二日。客にボク
サーがばれた。なんかすごくばかにされた
言い方。就労体験やーめた。と。八月三一
日。山田さんが家にきやがった。言い分は
分かるがあんたみたいにまっとうには生き
れんわ。俺に今度は障害者が働く事業所に
行けって。ふざけんな山田。九月七日。く
るなって言ってるのに山田が来る。母さん
にばれたら恥ずかしいから、明日あそこに
行く。一日行ってばっくれようか。九月八
日。事業所行った。障害者すげえ。効率よ
く働いてる。賃金、雀の涙でよくもこんな
に頑張るわ。健常者ニートの俺と障害者の
働き者。障害者と健常者の差ってなに?
基準決めるのはいいが、あの人達言ってた
ぞ。健常者の眼が刺さるってさ。テクノロ
ジーはどんどん進化すっけどよ。人って未
だにアウシュビッツとかの反省をしてねえ
わ。何が優性だ。糞くらえ。なんかさあ俺
わかんねえわ。これが立派な社会構造と言
えるのか」
日向が山田望(32)に小間使い
される様子。
日向のM「九月九日。山田が俺を役所の臨時
職員にしやがった。俺の履歴書勝手に作っ
て出してた。文章偽造じゃね。悪い公務員
もいるもんだ。九月一日で採用されてる。
書類って怖いな。九月一八日。山田にいい
ように使われてる。休日も拉致られて。哲
学カフェに連れ出された。哲学カフェって
言っても、円になってボールを渡されたら
自分の意見言うだけ。好きと知りたいどっ
ちが先。どうでもいいんじゃないんですそ
んなのは。と言ったら山田に蹴られた。い
たい」
○アパート・日向の部屋
美月のM「コイツ働いてんじゃん。言えよ。
言えよな。障害者の差別を解消する法律が
できた。うちの会社でも枠が増えた。でも
障害者という言葉は適切か。ニュース解説
者が障害者の主体性が。障害者障害者障害
者と並べる度に悲しくなるのは私だけ。法
律が出来ても悲しい事件が起きても隔たり
がどんどん高くなる気がする。私だけ」
○回想
山田に小間使いされる日向の様子。
日向のM「一〇月一五日。ニートの生活が最
高だって、改めて思う。部屋に籠れば外部
のもろもろを遮断できる。あの時は良かっ
た。自分に傷がつかないから。ここ一ヶ月
山田のせいで傷つきっぱなしだ。いろんな
人にいろんなことを言われてる。不思議な
ことに傷も、箇所が多いと気にしないもん
だ。心の傷。ボクシングは体の傷だけど、
まあ似たもんか」
特別支援学級に向け異才発表会の説明
をする山田と助手、日向。
日向のM「最近、山田があちこちのプロジェ
クトに絡むから困ってる。なかでも教育委
員会の異才発見プロジェクト。まあ、東大
のパクリなんだけど。特別支援学級の取り
扱いがうまければ、文科省の評価高いみた
いよ。見栄っ張り的な企画。異才・特別支
援学級生徒の優れた能力を各々がプレゼン
する発表会をやるらしい。それを嗅ぎ付け
た福祉課の遊軍・山田が一枚噛んだ。そこ
には自分の好きな分野の知識をものすごく
詰め込める子、絵の上手い子、プログラミ
ングや映像制作のスキルが高い子。色々い
る。普通学級に馴染めない、集団行動を乱
す。たったそれだけの理由で特援送り、イ
ンクルーシブ教育の仕組み作りの不備。と
どの詰まり、学校教育の怠慢だな」
発表会の準備をする揖斐雄二(12)と日
向。
日向M「ちなみに俺が担当してる子、揖斐雄
二くん。計算とコミニケーションが苦手な
雄二くんはイラストと文章が得意。異才発
表会では自作の絵本を朗読。絵本の構想は
もうできてる。ストーリーは他人と接する
のが苦手な子・ジロウは人間の友達がいな
い。森にいるリスやウサギだけが友達。ジ
ロウはリスたちにちょっかいを出すサルの
サスケを嫌っていた。ある日、遅くまで森
で遊び日が暮れてしまう。真っ暗な道、ラ
ンプを持って歩く。しばらくしてお母さん
がもたせてくれたランプの燃料が切れてし
まった。リスたちに助けてもらおうと、必
死に叫ぶが巣から出てこない。途方に暮れ
ているところに、サスケが現れた。サスケ
の他にフク
ロウのよし爺などに助けられ自分の家にた
どり着く冒険物語。でも、朗読が苦手みた
い。大勢を前に、想像するだけで過呼吸に
なってしまう。克服できるかな。逃げきた
俺が言えることじゃないか。」
○アパート・日向の部屋
ブルーライトが美月を照らす。
美月のM「眼が乾く。コイツいい経験してる
よ。とどの詰まりなんてよく知ってるな。
山田の影響か」
○回想
日向の業務の様子。
日向のM「一〇月二〇日。発表会の日程が本
決まり。一一月一七日。去年、俺が死んだ
日。哲学では、新たな人生観を築くことを
Re:berthという。生まれ変わったのか。逃
げ続けているのか。未だわからず。最近の
悩み。山田の暴走が止まらない」
就労カフェで相談室仕様準備作業をす
る日向ら。
日向のM「山田が相談室をはじめた。よくあ
る事務的なものではなく。人生相談。ボラ
ンティア運営で金曜の夕方五時半から夜八
時、場所は就労カフェ。パーテンションで
相談室ぽくして。相談員には街のお爺ちゃ
んお婆ちゃん連中がやりだかったけど、説
教染みたのは流行らんということで、若い
人・若手経営者などを相談員に据えた。若
いというだけで俺も入ってる。つとまるわ
けがない」
発表会の様子。
日向のM「一一月一七日。発表会おわった。
口の尖った教育委員共やこの子たちを特援
に送った連中が度肝を抜かれた。俺の担当
雄二くん。タイトルは「ランプ」。練習で
はバッチリできた。でも、なかなか第一声
が出ない。やつらはざわつく。それしかで
きない。透かさず、山田が俺の耳に呟く。
前に行ってしゃがめ。そう言った。訳のわ
からないまま、そうする。雄二くんと目が
合った。俺がうなずくと、雄二くんは朗読
をはじめた。雄二くんは主人公のジロウと
自分を重ねたんだろう。雄二くんにとって
森は自分を取り巻く環境。ハンデがあると
いう歯がゆさは森に迷い混んだよう。普段
は仲がいいが困ったときは知らないふりの
ウサギやリスはクラスメイト。行く手を阻
む狐やコウモリ、熊は二枚舌のいじめっ子
やうやむやにして、問題解決をはかるやつ
ら。そんな森でもサスケ、よし爺が寄り添
い励まし、ピンチを救ってくれたオオカミ
のリリーがいたことでジロウは森から抜け
出せる。これは雄二くんにとっての希望の
物語だ。偏屈だが適切なアドバイスをする
よし爺は山田だと思う。おっちょこちょい
だが一本木でジロウを支えるサスケは。俺
か? 俺はあんなにまっすぐではない。ず
るいし嘘もつく。サスケになれるよう努力
したい。まあ、憧れはリリーだけどね。朗
読、朗読は大成功。拍手がなりやまなかっ
た」
○アパート・日向の部屋
美月のM「ちくしょう。涙が止まらないよ。
止まらんなあ。止まらん。ティッシュ、テ
ティッシュティッシュがもうないぞ。仕方
ない再利用。もう泣きっぱなし」
美月は濡れたティッシュで、涙を抑え
る。
○回想
居酒屋で飲み食いする日向ら。
日向「いただきます」
山田「おう、食え食え。成功の立役者」
日向「はあ、はい。成功なんですかね。ほんと
に? 雄二くん。悔しがってました。出足
がよくなかったのと噛んでしまったこと」
山田「噛むのなんて、生理現象。ニュースな
んて見てみろ噛んではいけないはずのアナ
ウンサーたち噛み倒しても平然顔でいる。
噛んでもいいんだよ。古舘伊知郎が異常な
だけだ」
日向「まあそうですね。アナウンサーじゃな
いけど。元Jリーガー、永島のスポーツ。あ
れで何年も成立してますもんね」
山田「そうだそうだ。気にすることない。っ
て、言ってやれ。わかったか」
日向「はい」
山田「わかったら食え食え食え」
日向のM「一二月一日。山田が飯に連れてっ
てくれた。反省会と御疲れさん会を兼ねま
して。昼飯は頻繁におごってくれるが夜は
はじめてだ。馬料理がうまいという大衆居
酒屋。馬刺をつまみながら、山田の話を聞
く。酔っぱらった山田を見たことがない。
熱燗を二本、三本。手酌で、ちょこをすす
る。そして、呂律のまわらくなった山田が
ゆっくり語りだした」
日向「飲み過ぎてません?」
山田はちょこに口をつける。
山田「個性がある子って要領よく出来るやつ
が嫉妬するんだよな。嫉妬がいじめに繋が
るんだよ。バカはバカらしくバカやってろ
みたいな言い分。やつらの言い分。やつら
はイーブンじゃない状況を作って潰すのが
得意。要領いいだけに。要領しか持ち合わ
せてない野郎共」
日向のM「何を言ってるんだと。一瞬は思っ
たけど。雄二くんたちの生き辛さのことを
言ってる。ちゃんと福祉をやってる人間。
誰もが幸福であるべきと叫ぶ人間。それが
山田だ。もう帰ろう。俺が言うと、虚ろな
目、山田が精神福祉ホームにいた頃の話を
した」
山田「重度の統合失調症の利用者がいてさ。
その人は問題行動を繰り返すから鉄格子の
部屋にいつもいた。意志疎通がとれないん
だよ。食事投げつけたりもした。先輩たち
は人として扱ってなかった。オラウータン
みたいだからオランさんとかあだ名をつけ
てた。当直の時、その人に薬を飲ませる担
当になる。とにかく薬ぎらい。だから薬渡
さないで水だけ渡した。そしたらさ、手を
出してきた。薬よこせって。びっくりした
よ。そんとき、わかったんだ。この人は意
志疎通ができる。拒否してたんだ。自分を
眠らせる。脱力させる薬なんてのみたくな
いけど。お前、あいつらと違うから飲んで
寝てやる。俺にはそんな感じに伝わったん
だ最近の研究結果でこの手の人。なんか言
い方が悪いな。面倒なもんを背負って生ま
れた人はな」
日向「それもどうかと、福祉サイドの人間は
もう少し包んで包まないと、つつがなく事
が進むかと。学校サイドと色々あったじゃ
ないですか。ハハッ。もし、関係者いたら
筒抜けですね」
山田「ウーロン茶で酔ってる? 面白いな」
日向「なんかテンションあがっちって」
山田「そうか。でもな包む問題は譲れない。
譲れんな譲ってたまるか。包むから傷付け
るんだよ。お前までそういうこと言うな」
日向「すいません。続きをどうぞ」
山田「どこまでしゃべったっけ?」
日向「背負ったのくだりです」
山田「そうそう。コミニケーションが相手と
取りにくい分、相手の気持ちや考えを読み
取る脳の領域が人より大きいのさ。ホーム
辞める時あの人さ涙ながしてくれた。あの
時の頬を伝ったしずく忘れない。絶対」
日向のM「山田の原点を知った。しゃあない
山田隆之。についていくか」
○アパート・日向の部屋
美月のM「山田。いいやつだな。いい人に出
会ったんだな。果物園の摘みたてジャムで
財を成したブランド好きの社長さんがテレ
ビで言ってた。果物には堆肥をあげ過ぎな
い。花は摘む。木は生命の危険を感じると
果実にその栄養を送り込むらしい。まあ果
実に限った話じゃないけどね形振り構わず
必死な山田。甘やかさない山田。ぬるま湯
に逃げ込んだ息子、負け犬体質が根付きは
じめていた。そんな腐りかけの息子をひっ
ぱがしてくれた山田。ありがとう。一度は
実を落とした息子の人生。再びフレッシュ
な実をつける。どんどん大きくなれ。一方
そばに、おなじ屋根の下にいたのに、何も
気付かなかった。そう、私の眼は節穴」
○回想
相談室。方付けを始める日向ら。
日向のM「二月一五日。相談室を閉める八時
に相談者がきた。カランコロンが鳴る。現
れたのは迷える子羊、という感じはしない
男。キャップを深くかぶって、ラフなかっ
こジーンズ姿だ。今日は山田がいないし組
から足洗うみたいな話に対応できる人いな
いぞ。みんなその男から目をそらすんで、
俺が」
日向「相談員のご指名はございますか?」
日向に近付く男。
男「矢島さん。あなたで」
日向のM「低い声で男は言う。俺かよ。俺の
ブースに入って来た男はどかっと椅子に座
る。あれっ、どっかで聞いた声だな。男は
キャップを上げる」
キャップを上げた男の顔・木村人志
(21)
男「よう」
日向のM「木村だ。さっきは低い声で攪乱し
やがって、ようじゃねえよ。だから俺も」
日向「よう」
席につく木村。
日向のM「俺も、ようと言った。席についた
木村は俺に説教を垂れやがった。電話にで
んわとか、おやじギャグを交えながら。最後に」
木村「ジムの会長には顔みせろや」
木村は退室する。
日向のM「そう言って、出て言った。もうた
じたじだ。木村はわざわざこのために大阪
から来たんだろうか。高校時代に何度か勝
つたことがあったから、ライバルなんだと
思ってくれていたのか。木村」
日向「ありがとうな」
日向のM「と俺は呟いた」
○アパート・日向の部屋
美月のM「さすが、世界チャンプだ。木村いい
やつだな。おちぶれたやつのために。母、
おばちゃんからも言うよ。ありがとう」
○回想
リビング・日向は寝転んでテレビを見
る。
日向のM「一二月三〇日。昨日が役所の仕事
納めだった。だから今日はスマホを切って
一日中家にこもってた。最高だ。また戻ろ
うか。やつが戻してくんないな。今、母さ
んが男を連れ込んだ。久しぶりだな。昔は
よくストレス溜まったらよく連れ込でた。
母さんも化粧を施せば、まだ男がついてく
る。工事代は年々かかってるみたいだけど」
○アパート・日向の部屋
美月のM「うるせえな。コイツ」
○回想
自室・日向はパソコンに向かう
日向のM「一月一日。年が明けた。母さんに
神社へ誘われたが断った。他力本願をする
ほど、行き詰まってなんかない。まあ、山
田に振り回されたくはないが、福祉はやり
たい。母さんは何を願ったんだろ。孫の顔
だったりして。それ無理。相手がいない。
女と話すのは相談室ぐらい。神社は俺に彼
女を与えてくれるのか? 願ったとこで」
○アパート・日向の部屋(夕)
パソコン、外部スピーカーからメール
着信の効果音が鳴る。
美月のM「なんだこの音は? メールの着
信か」
メール文面・「店ってどういうこと?」
美月のM「トラップにひっかかりやがった。
店じゃないんだ。派遣型か。まさか、うち
で事を? これも言える立場じゃないな」
○駅・改札前(夜)
美月は本屋の店先で、改札の方を眺め
る。
美月のM「暇だから顔でも拝もう。まあまあ
興味津々で駅に来た。時刻は六時三分前。
女が二人いる。どっちだ。ブスと小綺麗」
改札の向こう側・日向が自転車を漕ぐ
美月のM「改札の向こう、息子が自転車を漕
いでいる。パーカーの背中が小さくなって
いく。家に直帰の方角。あっブスがどっか
に行った。残った小綺麗は茶のパンツスー
ツで童顔。童顔とナチュラルメークでごま
かしてるけど、まあ中の中。風俗嬢の感じ
はしない。こういうのがうけがいいんだろ
う。この子ナンバーワンだな。きっと。そ
んな感じがする。役所の臨時職員なんかに
狙い定めるなよ。寄生しなさんな。そこら
へんにいるだろ、小金持ちのじじいがよ」
美月は店のに向きを変え、目についた
本を手に取る。
美月のM「この帯」
本の帯のアップ。
美月のM「賞味期限間近の若手女優さまのみ
ことば。タイトルが最高、タイトルで良い
読み物だと確信した。お前読んでないな、
確信した」
× × ×
美月のM「女は一〇分経っても帰らない。仕
事とは言えなんか可愛そうになってきた。
話掛けてみる」
美月は小綺麗な女、水田のぞみ(25)に
後ろから近付く。
美月「すみません」
のぞみは振り向く。
のぞみ「はい。なにか?」
美月とのぞみが立ち話をする様子。
美月のM「その女は風俗嬢じゃなかった。仕
事は英語通訳をやってると言う。私の勘違
いだった。女、のぞみちゃんは妹が風俗で
働いてることを息子に相談した。私の外れ
た推測、結果的にこすっていた。風俗に掛
けた訳じゃないけど偶然、掛かってしまっ
た。話を戻す。息子はダブルチェックをの
ぞみちゃんに課した。のぞみちゃんは自分
の勘違い、本当はとなりのビルの歯医者に通ってたみたいなオチを願ってい
た。しかし、妹さんのバックから風俗店の
名刺を発見。三玲という源氏名だった。ダ
ブルチェック後、息子は直接、妹さんと話
し合うことを勧めた。息子とのぞみちゃん
は妹さんをファミレスに呼び出す。山田は
こっそりとのぞいてたらしい」
○回想
自転車を押した水田琴音(19)が足を引
き摺る男に近付く。
美月のM「妹さんは自転車で通行人の男を怪
我させた。男は就職にひびくからと示談を
提案した。示談金で五〇万。誰にも相談で
きない妹さんは風俗へはしってしまった」
ファミレスの客席・うつむく琴音。
山田は琴音らの隣席から顔を出す。
美月のM「そこにジャジャンと、あらわれた
困った時の山田。山田はその人物を当たり
屋とにらんだ」
山田「絶対当たり屋だよ。それ」
喫茶店・男を囲むようにして座る日向
ら。
美月のM「山田と息子らは男に接触。山田は
彼女は未成年なので示談契約をの破棄して
警察に行こうと揺さぶった。案の定、それ
を拒んだ。山田は、男が警察に行くと当た
り屋常習犯だとばれてしまうから絶対に拒
むと読んでいた。男は突然態度を変えたと
いう。怪我は癒えたと言い出し、示談の破
棄を認める。また、これまで彼女が払った
示談金も返した。山田は男から慰謝料をと
ろうとしたが、彼女はもう男と関わりたく
ないと、拒んだ。悪いやつがいるもんだ。
なんかドラマみたい。雄二くんに小説にし
てもらえればいいのに」
○ファミレス・客席
美月とのぞみ。
美月「そうだったんだね」
美月はビールジョッキに口をつける。
美月のM「 今、流れでのぞみちゃんと食事
をしてる」
のぞみ「翔くんはもう帰って来てるんですか
ね?」
美月「知らなーい」
のぞみ「そうですか」
美月らは大きいパフェをつつく。
美月「会いたいなら、行けば?」
のぞみ「いいんですか」
美月「(歌う)いいんですよいいんですよどん
なに好きになったってもいいんですよ」
のぞみ「ラッドですか」
のぞみは顔を赤くする。
美月のM「 顔を赤くした。かわいいな。私
なんて、寒空歩いても顔が赤くならなく
なったよ。皮とファンデのせいで」
のぞみ「暑い暑い」
のぞみはインナーの襟を伸ばした。
美月「私の化粧が?」
のぞみ「違いますよ。冗談きついですよ」
美月「ファンデがきつい?」
のぞみ「もう美月さん。いじめないで」
スマホ画面・Lineの着信
文面・〉腹へった。飯は?
美月「腹へったてか」
〉ファミレスのテイクアウト。かわい
い子がデリバリーしてくれるよ。
〉なんだよ。それ
〉お楽しみにしてください
○居酒屋・店先
美月がのれんをくぐって入店。
美月のM「 店を出て、のぞみちゃんをうち
の団地までご案内。私は邪魔しちゃいけな
いと思って」
○同・店内
美月はカウンター席に座る。
美月のM「息子が行った大衆居酒屋で、一杯
引っ掻ける」
美月「山田か?」
美月M「そんな雰囲気を纏ったやつがいた」
山田「はい。山田です」
美月「そうか、あんたが福祉の山田か。下の
名前は隆之だろ」
美月「なんで?」
山田「息子が世話になってんな」
美月は山田にヘッドロックを掛ける。
山廣順次(52)が入店。
美月のM「山田と酒を飲んだ。店のテレビで
は稀勢の里の優勝を騒いでる。ジムの会長
も来た。息子がたまに子供たちにボクシン
グを教えてるらしい」
山田「凛子さん。スマホ光ってますよ」
美月「のぞみちゃん。なになに」
〉凛子さんがさっき一月一日の続き気
になってたんで送りますね
美月「お前は、読まなくていいんだよ。もう
嫁気
取りかよ」
〉神に祈ることじゃないけど、母さん
を幸せにしなきゃ。A五の肉でも食わ
すか。ですって
美月のM「 執行猶予確定ですな」
美月はおしぼりで目元を抑える。
山廣「凛ちゃん。どうしたの泣いちゃって」
美月のM「 不覚。何とかの目にも涙だね」
山田と会長があたふたする。
美月はスマホを操作する。
〉のぞみちゃん。息子、ごはんたべ
た?
〉完食ですよ。私デザートにされました
美月のM「はいはい。おかわりもどうぞ」
美月「山田。のむぞのむぞ会長のおごりだ」
山田「はい。お供します」
山廣「今日は断れんな」
酒を酌み交わす美月らの様子。
美月のM「時間は長くないがハイピッチ。深
酒してしまった」
美月と山田の眼が虚ろ。
山廣「もうかえろ」
山田「美月さん」
山田は美月に眼を向ける。
美月「なんだ」
山田「俺はね。革命起こしますよ」
美月「革命?」
山田「知能遅れだの。バカがうつるだの。ほ
ざくやつはいる。言われる方は屈辱。でも
ね、そいつらの才能を伸ばして、見せつけ
る。やつらに拍手、手を叩かすんですよ。
見下したものに対しておくる拍手ほど屈辱
に値するものはない。そう思うんですよ。
俺」
美月「山田。愛してるよ。息子の上司とかもう
関係ないわ。抱け」
山田「すいません。既婚者です」美月「場末の不倫はセンテンススプリングさ
れないでしょうよ」
美月は山田に抱きつく。
山廣「ストップストップ」
山廣が割って入る。
山廣「はい。レフェリーストップ。おわりお
わり」
山田はゴングを模してグラスを叩く。
美月のM「ゴングが鳴った」
美月「ちくしょう。まだやれるのに」
美月のアップ。
美月のM「と私は叫んだ。もう一〇若かった
らな。無念」
エンディング曲・関取花「もしもぼくが」
〈了〉
日向の顔を撮らない(バックショット、背中越し)演出手法を希望します。