表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
産霊の機械神  作者: ファイ
第一章
2/12

いつもの朝

しばらくプロローグに到るまでの回想です。

 纏舞操司(てんぶそうじ)、ごく一般的な高校生だ。強いて他と異なる点を上げるとすれば、両親が研究職でお盆や年末年始以外職場に泊まり込んでいるためにほぼ一人暮らしをしている点だろうか。


 そんな俺の朝はスズメの鳴き声と目覚まし時計の合唱で始まる。


「ふぁ……ねむ……」


 重い瞼を気力で持ち上げ目覚まし時計を止める。ベッドから這い出て洗面所へ行き顔を洗うも、眠気は未だに夢の世界へと誘ってくる。


 さて男の、それも高校生の一人暮らしと言われると、ずぼらな生活を送っていると思われるだろう。だが俺は家事はそれなりにできるし、それに料理はどちらかと言えば好きな方でそれ程乱れた生活は送っていなかった。


「朝はこれでいいか」


 キッチンに来て、冷蔵庫から某バイエルンなウィンナーや卵を取り出しフライパンを火にかけた。ウィンナーの焼けるいい臭いが漂いだすと、眠気よりも食い気が勝り始め意識が覚醒していく。


 そうして焼き上がったウィンナーと一緒に作っていた目玉焼きを皿に移し、トースターにセットしておいたパンを咥えテーブルに着く。ちなみに飲み物は野菜ジュースだ。これで朝食としては十分だろう。さすがに朝は手軽な物で済ませている。


「さて、いただきーーピンポーンーーます」


 いざ食べ始めようとしたとき家のチャイムが鳴る。だがそれに答えることはしない。こんな時間に来る人物など一人しか思い当たらない。


「そうちゃーん! おはよー、昨日の残りの肉じゃが持ってきたよ!」


 そう言って黒髪のショートボブを元気に揺らしながら笑顔で入ってきたのは、予想通りお隣さんで幼馴染みの日向美咲(ひなたみさき)だった。そしてどうやら朝食には肉じゃがが追加されそうだ。


「なあ美咲? 前から言ってるけどーー」

「そうちゃん! 朝はおはようから!」

「……おはよう」


 文句を言おうとしたら逆に文句を言われてしまった。


「でだ、美咲よ……いくら合鍵を渡されてるからって勝手に入ってくるのはいい加減やめろよ」

「えー、別にいいじゃん。それに優子おばさんから、そうちゃんのこと任されてるし!」

「いやいや、俺は一人で大丈夫だから。せめてチャイム鳴らしたら俺が行くまで外で待っててくれよ」


 まあそうなったら気づかないふりするがな……。


「そうしたら絶対そうちゃん出てこないよね?」


 漫画やアニメでもそうだが、幼馴染みはエスパー標準装備なのだろうか?


「……そんなことはないぞ」

「答えるまでに間があったんだけど?」


 どうやらこの話題は旗色が悪くなってきたようだ。うん、撤退しよう。


「そういえば肉じゃが持ってきてくれたんだって?」

「もう、あからさまに誤魔化した……まあいいけど。はい、これ」


 差し出されたタッパーには、味がしっかり染みこんでいて美味しそうな肉じゃががみっしりと詰め込まれていた。おばさんの肉じゃがは好きだけど、些か量が多すぎないだろうか。


「朝からこんなに食べられないって」

「男の子でしょ! 朝食がトースト一枚に、おかずがそれだけじゃ少ないよ。だからもっと食べないと!」


 よく聞く謎理論を展開してくる。まあ性別で食べる量に差があるのは分かる。だが個人でも差があるのだ、俺はこれくらいがちょうどいいのだ。その旨を伝えるも……。


「はいはい、とにかく朝はいっぱい食べないと力出ないよ~」


 そう言いながら勝手知ったる我が家のごとく、取り出された皿に盛り付けられた肉じゃがを出される。もう食べるしかないようだ……。まあ、量はタッパーに入ってる物の三分の一程で一応は考えてくれているようだ。


「これくらいなら食べれられるでしょ?」

「……いただきます」

「はい、召し上がれ!」


 テーブルを挟み向かいの席に座りにこにこと笑顔で俺が食べるのを見てくる。何がそんなに楽しいのか。


「どう味は?」

「ん?いつもどおり美味しいぞ。……あ、でもなんか微妙に味付けが違うか? どっちかって言うと今日の味付けの方が俺は好きだが」


 そんな風に思ったままの感想を言う。


「そっか! えへへ、よかった」


 美咲はそう言ってさらに、にこにこ度が上がる。今の会話に何か機嫌が良くなる要素でもあっただろうか、と思うも触らぬ神に祟りなし、肉じゃがを口に放り込み味をかみしめる。


「あ、そうだそうちゃん。今日一緒に帰ろーー」

「無理」


 もちろん即答である。何故なら美咲の『一緒に帰ろう』は『買い物行きたいから荷物持ちして』と同義だからな。


「ーーうえっ!?」


 美咲も流石にこの即答には驚かされたようだ。


「どうせ買い物の荷物持ちしろってんだろ? んなの面倒くさい」

「なっ……まあ買い物には行きたいけど、面倒くさいって……。わざわざ朝食のおかずを届けに来た幼馴染みがお願いしてるのに、ちょっと非道くない?」


 美咲はこれ見よがしに肉じゃがの恩を推してくる。いやいや、俺は頼んでないからな?


「とにかく無理な物は無理。それに、そもそも今日は父さんたちに荷物届けに行く日だし」

 

そう実は今日は元々予定があったのだ。月に数回、研究所に泊まり込んでいる両親の元に着替え等を届けに行っているのだが、ちょうど今日がその日なのである。


「あー、今日その日だったんだ。なら仕方ないかあ」


 美咲もこの事は昔から知っているので、これ以上誘うことは諦めたようだ。ーー勝ったな。


「それじゃあ私も着いて行こっかな!」

「……え?」


 慢心、ダメ絶対。

 とネタはさておき、美咲も着いてくるとな?


「なんでだよ?」

「なんでって、優子おばさんたちともう半年くらい会ってないから、久しぶりに会いたいな-って」


 至極わかりやすい理由であった。確かに両親は半年ほど帰ってきていない。さて、どうするか。……研究所は街とは離れてるし、道中も暇するよりはましだろう。


「まあいいか。そのかわり買い物には行かないぞ?」

「わかってるって! でもほんと久しぶりだなあ。放課後が楽しみ!」

「さいですか」


 さて、登校の準備しますかね。


お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ