煩悩
文章も呂律回ってなかったら申し訳ない!w
風呂から上がると、どうやらお京さんが気を利かせて着替えを置いて行ってくれたようだった。
袋に入ったままの未使用の、ヘソまでありそうな白のブリーフと、ピンクのスウェットの上下。
さっきまで着ていたものは洗濯してくれているらしく、見当たらない。
ブリーフはハゲ町長のもの、スウェットはお京さんのものらしい。
お京さんは背が高く、僕と同じくらいの身長なので、スウェットはぴったりだった。
1階の座敷に戻ると、女性陣が既に風呂から上がり寛いでいた。
「あ、くにちゃん、お揃いだね~!」
全員が全員、ピンクのスウェットの上下を着こんでいる。
林家ペーとパー子軍団。そんな考えを振り払うため、激しく頭を振った。
「あの、よ・・・・・・」
お京さんがもじもじしながら話し始める。
「今日、うちの両親、帰ってこないんだ。ノ、じゃなくて岩井、あんたんちで夜通しお祭りだってさ。あんたも疲れてるだろうし、これから帰って酔っ払いどもの相手すんのも大変だろ? 今日はうちに泊まってけよ。こいつらも泊まってくって言うしさ」
それもそうだな、と思い、またまたご厚意に甘える事にする。
夕飯はお京さんがお寿司をとってくれた。
犬猿の仲だと思っていたワン子とコンちゃんも、穏やかに談笑しながらお寿司をつまんでいる。
そして意外な事に、お京さんと貞子さんは気が合うようで、話が弾んでいた。
髪を下ろした貞子さんに、お京さんがあの目付きをリクエストしてバカ笑いしている。
「やっべ、やっべ、マジ貞子じゃん! って、貞子か。ぎゃはははは」
貞子さんも嬉しそうに微笑んでいる。
お京さんはやたらと怖がりなのに、そういうのは平気なのかと不思議に思い聞いてみた。
「あたし、作りもんは全然平気。思い出しても怖くない。だって、作りもんだもん。でも、本物はダメ。ほんっとダメ。カンベンだわ」
単純明快だ。
先程までのこの家の状況では、僕でも家に帰りたくない。
町長があくどい事をして恨みを買った、それもあるだろうが、一番の原因は、中庭を掘り返し、隠し金庫部屋を作った事だ。
それによって封印の一部が壊れ、封じてあったはずの龍が姿を現した。
龍はまだ目覚めていなかったが、その瘴気に惹かれ、様々なモノが集まっていた。
今後はあの場所に欲望渦巻く穢れた金などを置く事は厳禁。
いつでもきれいに掃き清めておかなければいけない、という注意をしてから思い出した。
「ごめん・・・・・・後始末してなかった。穢れだらけだ。金庫、運び出さなきゃ。運べない大きさのは・・・・・・とりあえず清めの札貼ってごまかすから、1週間以内になんとかするように町長に伝えておいてくれるかな」
夜中までかかり、全員で運び出せるものは運び出し、座敷に積み上げた。
「あの、クソ、ハゲ、が。みんな、ごめん、ありがと。ハゲ、からも、絶対に、礼、させっから」
息も絶え絶えにお京さんが礼を言う。
その後、女性陣は1階に布団を敷き、僕は先程風呂を使った2階の客間に通された。
部屋まで案内してくれたお京さんが、部屋を出て行く前に立ち止まり、振り返り、突然抱きついてきた。
驚いて身動きもできずにいると、頬に柔らかな唇が触れた。
一瞬で離れ、すぐに後ろを向いたお京さんの耳は真っ赤になっている。
「今日の礼だ」
柔らかな感触の残る頬に手を当てる。
「じゃ、じゃあ、おやすみ!」
乱暴に襖が閉じられ、ドタドタと廊下を走り、階段を下っていく音が遠ざかっていった。
「・・・・・・お京さんって、やっぱり・・・・・・ビッチなのかな」
こんな自分がモテるはずなど無いという事は、よくわかっている。
お京さんの、あの、いかにも遊んでいそうな外見。はすっぱな、いかにもビッチ然とした話し方。
きっと深い意味は無い。ビッチの挨拶代わりみたいなものに違いない。違いないけれど・・・・・・。
どうして女の子の唇は、あんなにやわらかなのだろう?
頬に当てた手の匂いを嗅いでみると、かすかに桃のような甘い香りがした。
色々な事がありすぎて、とてもじゃないが今日は眠れそうに無い。
全員が寝静まるのを待ち、洗濯された自分の服に着替え、1階に下りる。
玄関を開けると、後ろからお京さんの声が聞こえた。
「岩井・・・・・・帰るのか?」
照れくさくて振り返ることができない。
「うん。あ、ごめん、戸締り、ちゃんとしてね」
そのまま玄関を閉めて、自分の家に向かう。
もう夜明けだというのに、邦夫の家には煌々と明かりが灯っており、近所迷惑なほど騒がしかった。
もっとも、迷惑を蒙るような近所の家の住人は、全員この家でバカ騒ぎしているが。