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お正月チャレンジ  作者: 柳瀬光輝
5/20

響邸

ラーメンを食ったらまた飲む!飲むのだぁぁぁ!!

(こうやって道端のもんじゃ焼き(麺入り)は生成されるのだろう)

 1時限目が終わってから教室に戻ったけれど、休み時間の度にワン子とコンちゃんが押しかけて来るため、結局、放課後まで貞子さんと話をする事ができなかった。


「岩井君、響さん、の、家、行く。一緒」


 放課後になり、貞子さんがボソボソと話しかけてきた。

 一緒に行くって話だったっけ? と思いながらも、断わる事もできずに頷いてしまう。

 お京さんが迎えに来た。


「おう、ノロイ! んじゃ行くか」

「えっと、もし迷惑じゃなかったら、貞子さんも一緒に連れて行ってもいい?」


 お京さんはニカッと笑った。


「おお、いいよ別に。迷惑なんかじゃねえけど、うち、マジでひっでえから、サザ子、チビんなよ?」


 貞子さんの背中をバンバンと叩いている。


「ボクも! くにちゃんの力になるよ?」

「わたくしもご同行させていただきますわ」


 ワン子とコンちゃんも駆けつけた。


 女の子4人を引き連れて、ぞろぞろと自宅に戻り、酔っ払いどもに絡まれないようにコッソリと蔵の扉を開け、ひいばあちゃんの指示に従い、道具を持ち出す。

 テキパキと指示を出す日本人形を見て、お京さんは腰を抜かし、貞子さんはニヤニヤし、ワン子はひいばあちゃんとの久々の再会にはしゃいで走り回り、コンちゃんはバカ丁寧に挨拶をした。

 それから更にお京さんの家に行くためにぞろぞろと歩き始めたのだが、ワン子とコンちゃんは犬猿の仲、正確には犬狐の仲だし、お京さんと貞子さんも、今までまともに話した事も無かったはずなので、会話は盛り上がるわけもない。

 全員が無言のまま、お京さんに至っては、よほど歌って踊れる日本人形が怖いらしく、へっぴり腰でガタガタ震えながら目を瞑り、貞子さんのおさげにつかまって歩いている。


 話す事も無いので、僕は貞子さんを意識しながら、ちょっとだけ大げさに印を結び、祝詞を唱え、道を浄化しながら歩いた。

 貞子さんはにこにこと笑って、僕の真似をしている。

 僕の好感度がかなり上がったに違いない。


 10分ほど歩いたところで、木の塀に囲まれた立派な屋敷に辿り着いた。


 僕の家も旧家で、かなり大きなお屋敷だが、古くてかなりガタがきている。

 それに比べてこの屋敷は、かなり金をかけているようだ。

 塀からは新しい白木の香りが漂っているし、建物の壁も、塗り替えたばかりなのか張り替えたばかりなのか、まるで新築のように見える。

 屋根の上には、町長の趣味なのか、金のしゃちほこが乗っていた。


「えっと、着いたよ、お京さん」


 声を掛けても、お京さんは目を開けようともしない。


「わりぃんだけど、あたしここで待ってるから片付けてきて!」


 そういうわけにもいかない。

 町長夫妻が僕の家で飲んだくれているため、響家は今、無人のはずだ。

 まず玄関の鍵を開けてもらわなければいけないし、屋敷の中の案内もしてもらわなければ、取りこぼしがあるかもしれない。

 そう伝えると、お京さんはしぶしぶと薄目を開けて、鍵を差し込んだ。


「あ、あれ? 開かねえ。なんでだ?」


 ガタガタと引き戸を揺さぶり、鍵をもう一度回したりしてみるが、玄関は開かない。


 もう既に妨害が始まっているようだ。


「コンちゃん」


 巻き毛の幼馴染を振り返ると、彼女は既に鞄から茶筒を取り出していた。


「お任せくださいませ、邦夫様」


 ポンッ、と茶筒を開けると、中から白く細長いものが現れ、素早く鍵穴へと吸い込まれていった。

 ドスン、という地響きの後、ビリビリと建物が震える。


「え? なに? なに?」


 キョロキョロと落ち着き無く辺りを見渡し、引き戸に手をかけたままのお京さんの手に、自分の手を重ね、軽く左へと引く。

 何の抵抗も無く、カラカラと音を立てて戸が開いた。


「ちょ、おま、手、手・・・・・・」


 お京さんが耳まで真っ赤になりながら、あうあう言いつつ家の中に一歩入ろうとした所で突然、奥から黒い塊が飛び出して来た。


「お京さん、危ない」


 お京さんの手を引き、背中に庇い、素手でそれを打ち払う。

 手の甲がスッパリと切れた。

 コンちゃんが無言でハンカチを取り出し、僕の手に巻きつけて、結んでくれた。

 白いハンカチが徐々に赤く染まっていく。

 手を押さえ、祝詞を唱えながら屋敷の中を覗くと、玄関の先、長い長い廊下の先に、大きな黒い獣が唸り声をあげている。

 屋敷の中、あちこちに穢れが渦巻いている。

 黒い霧のように漂うソレは、時に集まり、人の形を成す。


「うわぁぁぁ~、ノロイ、助けてくれよぅ~」


 バックパックから(ぬさ)を取り出し、祓おうとしたところで、突然パニックに陥ったお京さんが、後ろからだいちゅきホールドしてきた。


「あの、お京さん・・・・・・」

「うぇえぇ~ん、こええよぅ、こええよぅ」


 子供のように泣きじゃくりながら、離れようとしない。


「・・・・・・困ったな。ワン子、軽く掃除だけお願いしてもいい?」


 いつでも元気な幼馴染を見ると、彼女は大きく頷いて、廊下に向かって手を伸ばす。


「いっけぇ~~っ!」


 彼女の掛け声で、指先から白い大きな獣が飛び出し、黒い霧を払っていく。


「ノロイと一緒にいたら、いつでもこんなもんから守ってもらえんのかな? あたし、あたし、それならあんたと結婚してやってもいいぞ」


 とんでもない事を口走りながら、それでもお京さんは絡みついたまま離れようとしない。


「あの、お京さん、お気持ちは嬉しいんだけど・・・・・・」


 ふいに、上半身の戒めが解ける。

 振り返ると、お京さんは僕に足だけを巻きつけた状態でひっくり返り、頭を地面に打ってのびていた。

 その後ろには手刀を構えた貞子さんが立っている。


「あ、貞子さん、ありがとう。キミは怖くないの?」


 貞子さんは無言でコクコクと頷く。

 目がキラキラと輝いている。むしろ楽しいのだろう。

 気を失ったお京さんを廊下に転がしておいた。

 屋敷の案内をして欲しかったが、仕方が無い。起きていられるとかえって足手まといだ。


「お邪魔します」


 ズカズカと屋敷に踏み込み、次々と襖を開けてゆく。

 やたらと部屋数が多い。

 既にワン子の式が暴れまわった後で、部屋の中はきれいなものだった。

 部屋の隅に残った取りこぼしに、幣を一振り、二振りして祓って歩く。


 台所に入ったところで、貞子さんが小走りに流しに向かい、ハンカチを濡らし、そのまま玄関のほうへ引き返していった。

 きっとお京さんの手当てをしようというのだろう。

 貞子さんのそんなところも好きだ。思わずにやにやしてしまう。


 水場には盛り塩をし、また次の部屋へ向かう。


「こ、これは・・・・・・」


 純和風の畳敷きの部屋が続いた後、いきなりどピンクの部屋が現れた。

 畳の上に薄いピンクの絨毯が敷かれ、カーテンは濃いピンクの花柄、ベッドカバーはピンクに赤の水玉、土壁を隠すためか、壁にはピンクの布が吊るされている。

 そして、溢れんばかりのかわいらしいぬいぐるみ。


「へぇ~、お京さんってクールっぽいのに、意外だねぇ」

「少女趣味ですこと」


 ワン子とコンちゃんから好き勝手な感想が漏れる。


「いや、さすがにお京さんの部屋じゃないでしょ。妹の部屋とかじゃない?」

「あら、町長さんのお宅は、確か数年前にご長男が亡くなられて、今はお子さんはお京さんだけのはずですわよ」


 意外に少女趣味の部屋に驚いたけれど、だが、問題はそこではない。

 何十体とあるぬいぐるみ、全てに、タチの悪い霊が取り憑いていた。

 ぬいぐるみ達は、ずりずりと這い寄って来る。

 その光景はなかなかシュールで怖かったが、それよりも、僕の背後に控えているワン子とコンちゃんのほうが怖い。

 こんな事で怯えていては、フルボッコにされてしまう。

 なるべく平静を保ち、震える声を抑える。


「これはすごいね。どうしようかな」


 思案していると、ワン子が元気に応えた。


「燃やしちゃえばいいじゃん。解決!」


 ぬいぐるみ達は一瞬ビクッと動きを止めた後で、急いで部屋の隅、物陰へと這いずって移動し、身を隠した。

 確かにそうしたほうが手っ取り早いけれど、お京さんが大切にしているものかもしれない。

 この人形ひとつひとつに思い出が詰まっているとするなら、それだけは避けたかった。


「詰まってるのは思い出じゃなく悪霊だけどね!」


 空気を読まず、しかしどうやってか人の思考を読んだ元気っ娘、ワン子からツッコミが入った。

 これだけの量のぬいぐるみを祓うとしたら、かなりの時間がかかってしまうだろう。

 大元を封じる作業は、できれば陽の落ちる前に済ませたかった。

 夜になると妖の者の力も増す。


「邦夫様、ここはわたくしが。このような細やかで繊細なお仕事は得意ですから。どこぞの大雑把で無神経な犬ッコロと違って」

「なにを~っ!」


 取っ組み合いの喧嘩を始めそうな二人を引き離し、ワン子を部屋から引き摺り出す。


「じゃあ、悪いけどコンちゃん、お願いね」


 コンちゃんをひとり部屋に残し、2階への階段を上ろうとしたところで、ワン子が手を繋いできた。


「あの、あのね、くにちゃん。ボクがいきなり積極的になったからって、誤解しないで欲しいんだ。別に、地位目当てってわけじゃなく、ボク、昔からずっとくにちゃんの事、好きだったから。くにちゃんが祝様になって、あの女狐がくにちゃんの事、狙い出したから、ボクも素直にならなきゃ、くにちゃん取られちゃう、って思って」


 大きな目をうるうるさせながら見つめてくる。


「ワン子・・・・・・」


 何か言わなければ、と思うのだが、言葉が出てこない。

 しばらく見つめ合った後、ワン子が元気に笑った。


「それだけ、わかっててくれればいい。2階、ボクがやっとくから。細かいの苦手だけど、なるべく取りこぼしもきれいに掃除しておくから。くにちゃん、本命中庭でしょ? ちゃっちゃと片付けて来ちゃって!」


 ぽん、と僕の背中を叩いて、元気に階段を駆け上がっていく水色と白のストライプを見送る。


「ワン子、パンツ見えてる」


 本人に届かない言葉を呟いて、廊下を引き返した。

 確か、さっき見た宴会場のような大きな座敷の部屋から中庭に出る事ができたはずだ。


「邦夫、モテモテじゃの。ふひひひひ」


 頭上から突然声を掛けられる。

 ひいばあちゃんだ。

 今まであまりにも静か過ぎたのですっかり存在を忘れていた。


「わしはPTA・・・・・・じゃなくて、PTSDをわきまえておるからの。黙っておいてやったのじゃ」


 僕は保護者と教職員の団体の事もわきまえていないし、それについてのトラウマも無かったのでスルーすることにした。


「あの二人はのう、昔っからお前の事が大好きじゃったからな。邦夫、いっその事、一子も紫紺もあの変態の娘さんも、み~んなモノにしてしまえ。ふぉっふぉっふぉ」

「何言ってんのさ」


 日本は一夫一婦制だ。重婚は罪になる。

 それ以前に、貞子さんはともかく、あの二人。あんな恐ろしい女達は御免だ。いくらかわいく言われても、信じない、信じないぞ。絶対に。絶対にだ!

 自分に言い聞かせる。

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