盗んだバイクで走り出す
酔っ払いです!w
サブタイも、15の夜ってだけで、バイク盗みません。無免許運転しません。校舎のガラスも割りません!
カタリ。
暗闇の中、物音が響く。
カタ、カタカタカタカタ・・・・・・。
静寂を打ち破り、激しく音が鳴り響く。
「ネ、ネズミでもいるのかな?」
蔵の高い窓から差し込む月明かりを頼りに、物音のする方向へと歩み寄った。
御札の貼られた細長い木箱。
積み上げられた、何が入っているのかわからない大小様々な箱の一番上にソレはあった。
恐る恐る手を伸ばすと、手を触れる前に、ソレは床に落ちた。
ガコッ
不吉な音を立て、床に落ちた衝撃で木箱の蓋が開く。
封をするように貼られていた御札は既に破れている。
ドサリ
中からやたらと質感のある音を立てながら零れ落ちたのは、30cmほどの小さな日本人形。
月明かりに照らされた、黒地に艶やかな赤の彼岸花の着物。
金糸銀糸の帯。
「なんだこれ・・・・・・」
更に人形に手を伸ばそうとしたところで、手が止まった。
うつ伏せに落ちていた日本人形の首が、ゆっくり、ゆっくりと動き出し、横を向く。
ギギギギ……と音を立てながら、ゆっくりと首が回り、顔が真上を向いた。
「!!」
悲鳴をあげることもできず腰を抜かし、失禁する。
埃っぽい蔵の中にアンモニア臭が漂う。
人形は立ち上がり、地の底から響くような声を発した。
「ぐ・・・・・・ぐぐぐぐにぐぐにおぉぉお、くぅ~にぃ~おぉぉおおぉお~」
「う、あ、うわぁぁぁぁっ!」
名前を呼ばれたショックで声を取り戻し、悲鳴をあげながら這いずって蔵の出口へと向かった。
扉に縋り、振り向くと、白く埃の積もった床に、自分の這いずった後だけが、黒々と線を描いている。
外から施錠された扉を両手で叩く。
「無理! 無理だよコレ! 無理ゲー! かーちゃん、開けて! 頼むから!」
扉の外から、母の非情な返答。
「ダ~メ。岩井家のしきたりだからね。15歳の誕生日を迎えた夜、深夜0時から朝の5時までは蔵の中で過ごさなきゃいけないのよ」
しきたりだろうが何だろうが、無理なものは無理だ。
「がーぢゃん、マジ、マジで頼むって! 人形動いた! 名前呼ばれた! なにこれ? なんなの一体」
僕の悲痛な訴えに、母は手を叩いて喜ぶ。
「あら~、じゃあアンタ、アタリだわ。先々代以来だわ。町長さんに知らせて来なきゃ。忙しくなるわ~。お料理はどうしようかしら。面倒だからケータリングでいいわね」
母の声が無情にも遠ざかって行く。
「ちょ、まっ・・・・・・かーちゃん! かーちゃんってば!」
ゴソリ
物音に振り返ると、月明かりのスポットライトを浴びて、人形が完璧に立ち上がっていた。
「く、に、お」
人形はしわがれた声で僕の名前を呼んで、手を前に突き出し、飛び掛らんばかりの勢いで走り始めた。
が、顔が完全に背中のほうを向いていたため、僕とは真逆の、荷物が積み上がっている方向にすごい勢いで突っ込み、崩れ落ちた箱の下敷きになった。
舞い上がる埃が月明かりに照らされてキラキラと輝いている。
「・・・・・・た、助かった? 僕、助かったの?」
安堵する間も無く、しわがれた声が蔵の中に響き渡る。
「くにお~! た~す~け~て~! く~に~お~! 助けてくれなきゃ7代祟ってやる! く~に~お~ちゃ~ん」
どうやらかなりたちの悪いモノのようだ。このままにしておいたほうが良さそうだ。
無視を決め込むと、ソイツは猫撫で声で語りかけて来た。
「邦夫、ワシはお前のひいばあちゃんじゃぞ。ご先祖は大切にせにゃあかん。助けたらきっといい事があるぞ。飴ちゃんあげるぞ」
僕も今日で15歳。もうそんな言葉に騙されるほど子供ではない。
「ホントじゃぞ。その証拠に、お前のち○ぽこに3つのホクロがある事も知っておる」
「ひいばあちゃん? 本当にひいばあちゃんなの?」
僕はひいおばあちゃんっ子だったのだ。
慌てて崩れた箱を次々にどけて人形を引き摺り出す。
「ふぅ、やれやれ。ひどい目に遭ったわい」
人形は背中を向いた顔を両手でくるりと元の位置に戻す。
「それにしてもさ、ひいばあちゃん、7代祟る、は無いでしょ。ひどいよ」
邦夫の言葉に、曾祖母はとぼけた顔をして(もっとも、日本人形なので無表情だが)言う。
「わしはそんな事は言っておらん。かわいい曾孫、かわいい子孫に祟るなどとんでもない事じゃ」
「ひいばあちゃん呆けたんじゃない? 言ったよ。言いました。絶対に言った」
「いいか、邦夫。年寄りの言う事じゃ。心して聞くが良い。世の中に『絶対』などという事は絶対に無いのじゃ。いいか、絶対にじゃ」
「・・・・・・・・・・・?」
わけのわからない事を言われ、煙に巻かれてしまったので、その件については触れない事にする。
「それにしてもひいばあちゃん、久し振りだね。僕が5歳の頃に亡くなったから、10年ぶりかな」
「そうじゃのう、美人薄命と言うからのう。お前がこの儀を迎えるまでは何とか、と思っておったのじゃが、気付いたらポックリ逝ってしまっておったわい。ひっひっひ」
「何言ってんのさ、ひいばあちゃん、300歳くらいまで生きてたでしょ」
「バカ言うな。わしゃ妖怪か!」
朝5時、蔵の扉が開かれるまで、僕は恐怖も忘れ、曾祖母と楽しく語らい合った。