無視される男
「――ッ! ハァハァハァ、ゆ、夢か……」
彼はそう呟いて、目を覚ました。
額や服は汗でぐっしょりと濡れており、彼があまり良い夢を見ていない事がわかる。
「とにかく、朝飯を食って学校に行かないと――」
そう思って、彼は高校の制服に着替えてリビングへと降りた。
「おはよう、母さん……あれ? いつも起きてるのに今日は寝坊でもしたのかな?」
彼の母は、時間にしっかりとした人で、これまで寝坊などした事が無かった。
ただ、その日は初めて朝のリビングに母の姿が見られない。
そんないつもと違う様子に彼は首を傾げながらも、自分で朝の用意をして、学校へと向かった。
いつもの通学路、いつもの風景だったが、どこか生徒の表情が暗い事に気づいた彼は、近くを歩いていた同級生に声をかけた。
「おはよう。みんななんか暗いけど、どうしたんだ?」
……。
声をかけたはずの同級生は、振り返る事もせず、ただ俯いて歩くだけで、彼に気づいた様子はない。
それでも彼は、めげずに何度も声をかけるが、全く相手にしてくれない事に腹を立てはじめた。
「なんだよ! 俺が一体何をしたって言うんだ!」
その後も彼は、道行く生徒に話しかけるが、誰一人として、一言も返してくれなかった。
「……なんなんだよ。みんなどうしたんだよ?」
徐々にだが、この薄気味悪い状況に彼は焦り始めた。
全く声が聞こえていないかのように振る舞う同級生たち、それどころか、振り返ったり彼に反応するのは、動物たちだけだった。
そんな薄気味悪い状況ながらも、何とか我慢して教室へと到着した彼は、1人の人物を探した。
それは、彼の一番の親友と言っても良い、「タクヤ」だ。
「大丈夫、タクヤなら俺の事を無視しない、あいつは俺の親友だ」
彼は自分に言い聞かせるように、ブツブツと言いながらタクヤの元へと歩いて行った。
そして、彼の目の前に着いた時、精一杯の勇気を振り絞って、強気を振り絞って、笑顔で挨拶をした。
「おはよう! タクヤ聞いてくれよ、みんなが俺の事無視するんだよ」
……。
彼が期待していた返事は全く無かった。
それどころか、彼の表情はどこか険しく、目の下にはクマと、泣き腫らしたようなあとが見えた。
「おい、タクヤ? 嘘だろ? お前まで俺を無視するのかよ!」
たった一人の親友も、彼の言葉に反応しない事に、最後の希望が消えた様な気がした。
彼は、それまで堪えていた気持ちが溢れたのか、ボロボロと大粒の涙を流しはじめ、クラスの全員に訴えた。
「なんでみんな無視するんだよ! 俺が何をしたんだよ! 誰か! 誰でも良いから俺を見てくれよ!」
彼の大声での叫びは虚しく教室をこだまするだけで、誰の耳にも入っていない。
その現実に、また彼は胸を激しく掻きむしりたくなるような、気持ちの悪い感覚が襲う。
「うぅぅぅ、なんで、なんでだよ……。昨日まであんなに楽しく話していたじゃないか! なんでだよぉ!」
そんな彼に、手招きをしている生徒が居る事に気が付いた。
アイダという普段あまり話をしない、何を考えているのか分からない女子生徒だ。
「……え? アイダ、さん? 俺を呼んでいるの?」
彼は、孤独に押しつぶされそうになりながらも、手招きをしてくれているアイダの元へと歩いた。
が、彼の後ろから歩いてきた一人の女子生徒が、彼女の元へと駆け寄ると、自分が呼ばれたのではない事がわかった。
「なんとなく分かっては居たけど、……本気でこれ堪えるな……」
またしても一人きりになった彼は、諦めた様子で自分の机に座って、授業が始まるのを待つ。
ただ、待ち続け、せめて教師だけでも自分の事に気付いてほしいと、願うばかりだった。
それから数分後、騒がしいクラスの中に担任の体育教師が、入ってきた。
が、いつも明るい笑顔の彼も、他の生徒と同様にどこか暗い。
「先生! 質問があるんですが!」
彼は精一杯の大声と挙手で、担任の注意を引こうとしたが、担任も彼の存在に気付いている様子は無く、無言で教壇から全員を見回していた。
流石にこれだけ無視されると、自分自身の中に嫌な予感が出てきたのか、彼は自分の胸を抑えて息を荒げ始めた。
クラスの全員が座ったのを見計らって、担任が暗い表情のまま、口を開いた。
「みんなも知っていると思うが――」
その言葉を聞いた彼は、意識を失うのだった。
さて、彼はどうなったのでしょうか?
それを知るのは、貴方の頭の中だけです。
リドル・ストーリーを書いてみたかったのです。
自分の中では一応結末は考えていますが、そこは皆さんの想像に任せます。
私はあえて何も言いません。
感想などにお好きにコメント残して行ってください。
では、またお会いする時までァィ(。・Д・)ゞ