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不幸を呼ぶアヒル

作者: ラビト

【登場人物】

谷島まこと

山ヶ岳私立山ヶ岳高校2年

あんりから、「まこ」と呼ばれる


谷島コトハ

山ヶ岳私立山ヶ岳中学3年

まことの妹


マー君

アヒル。谷島まことのペット。


安里杏里

谷島まことの親友。

一年の時、南の県から転校してきた。

谷島からは「あんりちゃん」と呼ばれる


中野丸尚二

安里杏里の彼氏。

杏里からは「しょう」と呼ばれてる

「ねぇ!聞いて聞いて!」


わたし、谷島まことは、賑やかに夏を告げる蝉に負けじと机を叩く


「なーに?」


もぅ、興味無さげに髪いじらないでよ。

だって、一世一代のことが起きたんだよ!


「あー、はいはい、中間、す期末が今まで50点台だったマコが60点にあがったんだね。すごいすごい」


いやいやいや、雑に褒めないでよ。


「言いたいことはそこじゃねぇし!」


勢いよく、ツッコむ


「で、なんなの?カレシ?」


ようやく話に乗ってくれた。

あんりの左手には、モテるアクセ特集と書かれた雑誌が。


わたしだって彼氏欲しいけどさ。

って話進まないや。


「よくぞ、聞いてくれた!」


わたしは溜めに入る。

妄想のドラムコールが鳴り響く中、

あるクイズ番組で司会者が答えを言うかのように。


そして、あらかじめ準備しておいたスマホを見せた。


「ジャジャーン!!」


勝ち誇るわたしと対象的に、不思議な表情をするあんり。

そう、よくわからないものを見たような・・・、リアクションに困る顔を。


「何?アヒルと付き合ってるの?」


怪訝な表情から、腹を抱えて笑い始めた。


「アヒル?アヒルがカレシ?ウケるー」


「違うんだってば!始めてのペットだって!」


あんりちゃんは笑い過ぎて出た涙を拭きながら、ごめんねと呟く。


「そっか、許可貰えたんだね」


「うん」


そう、幼いころから動物が好きで、何か拾っては毎週のようにパパとママに見せていた。


「で、今年で何回目よ、親にペットの許可を取るのって」


「60回くらい?パパとママ、ようやく認めてくれたわ。なんとなく疲れているように見えたけど。」


「それ、ノイローゼじゃね」


ケタケタと笑う。

そしてアヒルの名前を聞かれた。


「マー君」


由来はある保険会社のマスコットキャラクターからだ。

おしゃべりしていたら、授業のチャイムが鳴った。


数日後、

私は、あんりちゃんを家に呼んだ。

庭の掃除に、

あんりちゃんが手伝ってくれるんだって。

今日はママと2人。パパが緊急の仕事が入り、妹は友人と遊びに出掛けてるの。


「へぇ、スマホで見せて貰った時より、ちっさいな。そう言えば、あんりのおじいちゃん、昔食べたことあるって」


「怖っ!」


私はマー君を守るように抱きしめる。


「そんな反応しないでよ〜、あんりは食べないからね!おじいちゃんのは・な・し!


「へぇ、アヒルと言えば北京ダッグよね。

あんりちゃんのおじいさんは、何の料理だったの?」


「確かぁ、アヒル汁って言ってた。

鴨汁が美味しいんだって」


あんりちゃんの出身は南の方だって聞いたけど、アヒル料理なんてあったのかな・・・?


アヒル料理を想像して行くと、

マー君がお鍋の中に入れられて・・・、


「はっ、マー君、守らなきゃ」


「だから、あんりは食べたりしないって!」


そのあとは、マー君を室内にとどめつつ、庭に作ったアヒル用の池の掃除や、外敵避けに作った柵の確認などを行った。


2時間後、少し大きめの雑草が取り払われ、アヒル目線から見れば青々の広がる草原のような庭と、


ところどころ沈殿していた糞が無くなり、清潔になった子供用プールがそこにはあった。


掃除するって気持ちいいわー!

さて、マー君と一緒に遊ぼう。


「ママ、マー君は?」

「うーん、見当たらないわ。」

「え、そうなの。まさか、玄関から出たんじゃ・・・」


3人で手分けして探したものの、トイレにも、洗濯機の裏にもいなかった。

マー君は掃除中、外に出ないようにしていたから大丈夫だとは思うんだけど。


クエー


遠くからマー君の声が聞こえた。

私達が急いで外に出ると道路にアヒルが。


「マー君、危ないから早く戻って来て!」


マー君は周りをキョロキョロと見回していて、こちらには気付かない様子。

マー君が心配、でも思ったより車が多くて、なかなかマー君のところには行けない。

ママとあんりちゃんの方を見ると必死で声を掛けている。


私も大声でマー君の声を掛けた。


ようやくマー君が私達に気付いた。


「マー君こっちに・・・ッ!」


キキーン

外から甲高い、まるでゴムが焼き切れるような音と共に、1台の車がマー君を飲み込んだ。


一瞬訪れた静寂。

誰もが轢かれた、そう思った時、

次の瞬間には車の群れを掻い潜り、私の足元にやって来たマー君が。


「良かったね。無事で」


解き放たれた緊張感と、無事だったことによる安心感から、マー君を抱きしめる。

マー君は、元気な声でクエーと鳴いた。


数時間後

マー君を轢いた車は、走り去っていった。

恐らくマー君をひいたことに気付かなかったのだろう。

あのあと何故マー君は外に出ることが出来たのかママとあんりちゃんと話あっていた。

どこを探しても外に出た形跡が分からず唯一少しだけ空いていたトイレの窓じゃないかということになった。


月曜日 休憩時間

「ねぇ、昨日のニュース見た?」


「あー、追突事故の事ね。やばかったね!確か池の近くだったんだよね。」


「池?ま、いいわ。亡くなった方・・・、昨日見た人というか・・・車にそっくりなのよ。」


私は目を丸くした。

その人がマー君の上を轢いたからだ。

マー君生きていて、本当によかった。


「嘘でしょ?」


「ホントホント」


トラックはあまり通らない。

基本、隣の町を通るんだけど、

この前の豪雨で土砂崩れがあって、

交通閉鎖していた。

それくらい。


あんりちゃんは険しい表情で考え混んでいるように見えた。


「どうしたの?顔怖いよ」


「え、何でもない。でさ、どこどこのスイーツ店行ってみない?」


こちらの表情に気付くと、何事も無かったように別の話題に切り替えた。


数日後。

いつもは部活で帰りが遅い妹が、うちにいた。


「いつもより、早いね。部活は?」


「あぁ、足挫いちゃってさ。早く終わった」


「そうなんだ」


時計を見上げると17時を指していた。

さて、好きな番組はまだやってないし勉強しようかな?


そう思ったころ、妹がペットフードを持って来た。


「ねぇちゃん、餌あげていい?」


「うん。」


妹は6畳ほどの広さを持つ庭に出て、餌を食べるマー君に見とれていた。


餌を食べるマー君可愛いなー。


とぼんやり考えていると、


キャッという小さな声が。


どうならマー君が足と足の間をくぐったようで、


妹は辺りを見回したあと私に近づいて来て「絶対に内緒にしてよ」と耳打ちしてきた。


若干目がウルウルしているような気がしないでもない。


そして、おっきな声で、


「このエロアヒル!」


と叫びながら追いかけ回していた。


いや、さっきの耳打ち台無しでしょ!


3日後

妹は動かなくなっていた。


葬儀が終わり、妹の遺品整理をすると、

1冊のノートが出てきた。


そこにはうめき声や足音、悪夢の記録が書かれていた。


そういえば、最近急に寝汗がひどかったっけ。


泣き腫らした目を拭き、制服へ着替える。

ふと、庭を見るとマー君が水浴びをしていた。


こちらを見るとゆっくりと近寄って来た。

どことなく悲しそうにも見える。


「マー君も悲しいんだね。」


マー君は小さな声で クエッと鳴いた。


学校に着いてから、明るく振る舞った。

でも、私の親友、あんりちゃんにはばれていたようだ。


お昼時間


「コネクトークでも書いたけど、やっぱり大丈夫じゃないようね。」


コネクトークは、スマホでやりとりするSNSツールだ。


あんりちゃんからは、

可愛らしい南の県の妖怪を模したキャラクターが、心配そうな表情のスタンプが来ていた。


「そう・・・かな?」


「嘘、無理してるって分かる」


「あはは、ばれた。ごめんね、こんなことになっちゃって」


「気にすんな!それと、マー君の事だけど、気になる事があるの・・・」


「気になること?」


「マー君って・・・、どこで拾ったの?」



まだ、話していなかったんだっけ?


「獣池っていう池だよ。大分前に死んじゃった運転手がいたでしょ。

あそこの近くに池があったの。」



学校帰りにめっちゃ可愛い子猫がいて、

それを追いかけていたら、あの池に着いたの。


あそこ、幽霊が出るってこのあたりに住んでいる人からは有名で、あまり人がいないの。

それで、怖くて心細くなっちゃって。


なんとか帰ろうと思っていたら、1羽のアヒルが池の奥から泳いで現れて、私の元にやってきたんだ。


それがマー君だった。


マー君を拾った瞬間、安心して、戻って来れたの。


私とマー君との出会いを目を閉じながら、うんうんと聞いたあんりちゃん。


一通り説明が終わったところで、あんりちゃんが目を開く。


「なーる、そういうこと。」


ポケットからスマホを取り出し、操作し始めた。


「数週間前に追突事故で死んじゃった運転手。確か、『池の近く』だったんだよね。」


「うん。」


「おかしいんだよねー、ネットの地図探しても、見つからなかった。


でも、まこやしょう、このあたりに住むあたしの知り合いはみんな場所を知ってる。


それから、もう一つ共通点が、みんなこの池には一度行ったことがあるってね。」


地図に出ていない事が衝撃的だった。

そして、あんりちゃんが見せてくれた地図には、何も示されていない。


もちろん、図をアップにしても、航空写真に切り替えても、変化なしだ。


ここに住んでいる人達は、一度でも行ったことがあり、みんな池の事を知ってる。


そして、テレビのニュースであの場所が映らないのは、単純に全国から見て地名が無名だ、という事になっているからだと思っていた。


そして、あんりちゃんは去年ここに来た。

だから、行った事ないし、場所も分からないんだ。


「それから、もう一つ怪しいところがある。」


「怪しいところ?」


「うん。それは・・・、マー君だよ。


「マー君?」


「マー君は、あの池で出会ったんだよね。しょうに聞いたけど、人どころか動物さえ、滅多に見かけないんだって。」


「確かに。マー君以外みなかった」


「変じゃない?幽霊が出ると言われた池に、アヒル一匹・・・」


「マー君がその幽霊だって言いたいの?そんなはずはないよ!抱き締めると暖かいし、触れるし」


「確かに、あたしも触れる。だけど、幽霊じゃなくって、別の存在だとしたら?

例えば・・・妖怪」


いやいや、幽霊はまだしも妖怪なんて100%ないし。


「しょうのじいちゃんに聞いたんだ。数十年前にも、似たような事があってね。


獣池からアヒルを拾って来た男の子が数日後に亡くなったって。


そして、一緒に遊んでいた友達も彼が亡くなってから数日後にあの世に。」


「怖い話なの?」


「違うわ。事実よ。

唯一1人助かった男の子がいるんだけど、彼によると、アヒルが友達の股の間をくぐって行くのを見たって。

それが、しょうのじいちゃん」


そうだったんだ。

コトハも、マー君にくぐられてから、おかしくなったんだよね・・・


「それで、方法は?」


ある日の週末


私と、あんりちゃんとしょうじさんの3人とマー君は、獣池へ向かっていた。


車で移動していたのだが、途中から舗装された道路ではなく、木の根が複雑に絡まった道となったので、歩くことにした。


あんりちゃんはマー君の正体について話してくれた。


「あれは、多分アンフィラーマジムンて名前の妖怪。

ここではどう呼ばれているかは、分からないけど、

あたしの故郷では、そう呼ばれてた。」


「アンヒラー・・・マムジン?」


「アン・フィラー、マ・ジ・ム・ン。


股を潜られると魂が抜かれるんだって。


だから、絶対に股を潜られちゃダメ!」




「じゃ、股の間のくぐられても、助かる方法ってあるの?」


「それは・・・、分からないわ。」


「そう。」


周りは沈みかけていて、3人分の懐中電灯を照らしている。


ほどなくして、大きな池が見えてきた。


「ここが例の池だ。」


しょうじ呟く。

しょうじがバットや、あんりが石を構える、私は足元を守るためのプラパンで作られた盾を持った。


「じゃ、股は開けてないよね、池に放すよ」


2人の同意が得ると、私はマー君を池に放した。


さよなら、マー君。

遠くに去って行くマー君を見ながら、少しだけ物思いにふけっていた。


すると、アヒルの鳴き声が響き渡る


「ここからが、本番だ」


「しょうじ君、後ろ!」


背後からアヒルがしょうじ目掛けて飛びかかるのが見えた。


通常のアヒルではない速度で飛んで行く。


気付いたしょうじはバットを振りかぶり、アヒルのアゴあたりにヒット。


飛ばされたアヒルは、ホタルのような光とともに消えニワトリの騒がしい鳴き声が響いた。


「ホントにアヒルかよ!」


しょうじが吠える中、次々を数を増すアヒル。


「やだ、囲まれてる。」


迫り来るアヒルに持ってる武器で追い払う。


「キリがない。」


私はプラパンの盾を思い切り振り回した。


アヒルが数匹ヒットし、ホタルの光となって消えた。


「やったー!」


直後、数匹消えた分だけ、ニワトリのような鳴き声がこだました。


耳を抑える私達。


容赦なく、股を潜ろうとするアヒルをなんとか追い払う。


「あれ!」


あんりちゃんが指を指したのは、唯一、アヒルの数が少ない方向。


「あっちからなら、なんとか脱出出来そう」


私たちはアヒルが少ないところを目指して走る。


「なっ!」


1羽のアヒルがあんりちゃんの目の前に飛びかかり、尻餅をついた。


「あんりちゃん!」


あんりちゃんに群がるアヒル。

足がすくんで動けないようだ。


その時、しょうじがあんりちゃんを立たせる。


「逃げろ!」


「でも・・・」


「俺の事はいいから生きろ!」


1回だけ頷いたあんりちゃんは、全力でこの場を離れる。


私に頼んだぞと目配せし、大の字に寝転んだ。


(もしかしたら、股を潜られずに済むのでは?)


私はそう思ったが、

アヒルは次々としょうじの身体をつついていく。

右手で顔をガード、左手でバットを振り回すも、襲うアヒルは増えていく。


アヒルによって、しょうじの身体が見えなくなった。


あんりちゃんは、目を真っ赤にしながら泣き叫ぶ。


やがて、複数のアヒルが飛び立つと

一羽のアヒルだけ、残った。


「しょう・・・」


ジリジリと迫ってくるアヒル。


「あんりちゃん、逃げよう。しょうじの事は辛いけど、私達までこうなったら・・・」


「うん」


普段は自信満々なあんりちゃんが、今は震えている。


あんりちゃんを見ていたら、震えていた体が止まった。


2人で走る。


足元を守っていた盾をアヒル達目掛けて投げ、身体中が土や木の葉にまみれても、ひたすら出口を目指して走った。


途中あんりちゃんの股の間を何かがくぐった気がしたけど、私達は気にせずかけていく。


アヒル達は、次第に数を減らし、国道に辿り着いた時には姿を見かけなくなった。


「やった・・・、助かった」


数日後、あんりちゃんが学校に来る事は無くなった。


彼女の悲報は、学校に伝わり、後日葬式が行われた。


勿論しょうじ君も葬式を行った。

私は周りの人達から、色々と聞かれたが、答えられなかった。


あの不思議な体験について、信じて貰えるか分からなかったのだ。


友人の葬式が終わった帰り道、親の乗る乗用車で家へと向かい、不思議な体験をした池の側を走る。


キキィー!と音が鳴り、車は一時停止する


「どうしたの?」


母が父に尋ねる。


「一瞬何かが横切ったんだけど、見当たらないんだよ。」


父は車の下を確認すると、車に乗り込み再びエンジンを掛ける。


「なんでも無いみたいだ、帰ろう」


夕日が沈み、辺りが暗くなる中、私は池の反対方向を見て驚愕した。


そこには、2羽のアヒルが、じっと見つめいたからだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定が良いと思います。 オチもホラーの王道といった感じで、悪くない締め方だと思いました。 [気になる点] 物語の進行が分かりづらかったです。 文章の前後がつながっていないと感じる個所が随所…
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