1.平原から始まる
未だに序章です。これから頑張ります。
気が付けば、彼、大井戸健司は、異世界に飛ばされてしまった。
場所は、見渡す限り360度の大平原。
強いていえば、北海道の広大な大地が、彼が今まで見てきた中で、一致するのではなかろうか。
「な、なんだよ……ここ?北海道……?」
彼が呟く声は、当然ながら誰も答えてくれない。
いつもならば、話し相手になる同級生もここにはいない。
代わりに、遠くの方でドラゴンと思われる生物が「アンギャーーーーッ!」と咆哮しているのが聞こえてくるだけだ。
「あれはドラゴンか?……夢、夢なんだよな、これ……」
彼は未だに信じられないような顔でそう呟き、ポケーっと空を見ていた。
それもそうだろう、彼は異世界に飛ばされる経験などないのだから。
変わらぬ現実に目が覚めたのか、やがて彼はおもむろにスマートフォンを取り出した。
すると、一件のメールが届いていた。
もしここが、異世界であるならば、メールなど届く筈もないのだが。
彼はその事を考える暇もなく、ただメールを開いた。
メールの内容を読んでいるのか、微動だにしない。
しばらくすると読み終えたのか。
彼のスマートフォンを持つ手が、ブルブルと震えていた。
そして、大きく口を開いて叫んだ。
「なんでえええええええ、俺なんだよおおおおおおお!?!?!」
彼の心からの声が大平原に響き渡る。
メールの内容は、どうやら神様が異世界に連れてきたよというメールのようであった。
そして彼は、ここの世界に飛ばされたことを今知ったのだ。
◇
ようやく落ち着いたのか、彼は床に腰を下ろしながら、膝をついて考え事をしていた。
性格には、先ほどの神様からのメールを注視していた。
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差出人:神様 件名:異世界に飛ばしたよ
「やーやーおめでとう!!君たちは、スマートフォンを持つ人間からランダムで選出された運がいい人間達だ!!very good!!ここは異世界”レナトゥス”、君たちが知っている世界とは違うぞ!ファンタジーで剣と魔法とモンスター、そして”スキル”が使える世界だ!好きなことをして、ほかの誰よりも多くPを稼いでくれ!それでは検討を祈る、by神様 」
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(ずいぶんとフランクな神様じゃないかな……それに、いきなり異世界って言われてもさ……)
彼は、趣味でよく本を読む。
本と言っても、純文学と言った本ではなく、
ライトノベルの様なキャラクター小説が特に好きなので読んでいる。
その延長線上で、異世界に行く話はよく読んでいる。
だがそれはあくまでも物語の中だから楽しいのであって、現実に体験したいとは思わないのではなかろうか。
(見たいアニメとか漫画、まだプレイ中のゲームとかあったのに……)
今日から、君は異世界で生活してね!!あ、Pとやらも稼いでね!と言われたが
(どうしろと言うんだよ……?)
サバイバル能力が全くない18歳の学生に何を期待しているというのか。
(仮に、某農家アイドルグループぐらいの生活能力がないと、普通に生きていくのは無理だろう)
もしこの世界がどこかの世界と言った話であるならば、
異世界に飛ばされる前に神様が現れて、色々とこの世界についての知識や常識などを教えてくれた上で、
スキルなどこの世界で暮らしやすいような、チート性能なスキルをくれる筈である。
そこから何をすればいいのか分かると思うのだけども、
今回は突然、異世界に飛ばされたパターンだ。
(まあ……嘆いていてもしょうがないんだろうけど……)
彼はため息をつきながらも、前に動き出したのであった。
◇
(とりあえず、俺の現在の状況を確認しておくか)
彼は、スマートフォンに今の状況を文字で入力していく。
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名前:大井戸健司 年齢:18才 性別:男性
持ち物:スマートフォン、財布、腕時計、鞄(大学で使う本や、ライトノベル、筆箱etc)
服装:黒のコート、無地のパーカー、無地カットソー、青いジーパン、革シューズetc…。
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この世界に飛ばされたとき、講義中横の席に置いていた鞄もいつの間にか、彼の横に置いてあった。
神様が一緒に転送させたのだろう。
(だいたいこんな感じだろうか……)
彼が持っている持ち物は、一般的な大学生がもつ荷物とそれほど大差がなかった。
(この中で異世界で役に立つのは、服と鞄、それにスマートフォンぐらいか……)
彼はしばらく、自分の状況を確認していたが、何かに気が付いたようだ。
(あれ……?もしここが異世界とやらでも、メールが普通に来たよな……?なんで?神様だからか?)
等と考えているとタイミング良く、再びその神様から一通のメールが届いた。
メールを確認すると、今度はこう書いてあったのだ。
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差出人:神様 件名:親愛なる君たちへ
「あ~sorysory、ひげソーリー!さっきのメールで伝え忘れていたけど、君たちのスマートフォンには、それぞれナビゲーターをつけておいたから、文字通りの意味でね!今後、君たちが生きていく上で重要な事になるからね!あっ……そうだ、君たちのスマートフォンのアプリは、公平を期す為に、メールのアプリとナビゲーターの部分だけにしておくから!それじゃ、また何かあったらメールするから!覚えておいてよ!またね!」
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(ナビゲーター……?ってことは、この世界を教えてくれるのか?)
この文面だけでは判断出来ないな、と彼は再び文面とのにらめっこを再開した。
その瞬間、スマートフォンが一瞬光った。
(今度は、なんだよ?)
スマートフォンの画面に、魔法のステッキを持った女の子でアニメ柄のアプリアイコンが追加されていた。
その名も"ナビたん”。
(えっと……このアプリアイコンが、ナビゲーターなのか?ずいぶんとアニメチックなんだが……)
しばらくこのアプリを眺めていた彼は、異変に気付いた。
それは、彼が普段使っていたゲームのアプリやら辞書アプリなどをインストールしていた筈のアプリには、
この”ナビたん”アプリとメールのアプリ”だけ”スマートフォンの画面に表示されていたのだ。
他の機能はほとんど消滅しており、時計や電源の残りの表示、電波が立っていることを示す以外のデータは文字通り、無くなっていた。
彼は急いで先ほどのメールを開いて確認する。
(そうか……公平にするってことは……今、アプリで使えるものが、謎のアプリとメール機能になるってことか……)
(色々とゲームのセーブデータなどはあったけど……しょうがないか)
彼はアプリゲームが大好きで、暇さえあれば色々なゲームを進めていたが、
異世界に来てしまったという現実からか、ゲームのデータが消されても
いつもより冷静沈着な様だった。
(どうせ、神様とやらに命綱は握られてるから、このまま動くしかないだろうな……)
そして彼は、謎のアプリ”ナビたん”を起動した。
(おそらく、これがナビゲーターとやらを呼ぶものなんだろうが……)
彼のスマートフォンがまたもや一瞬光り、
アニメ調子で軽快でリズミカルなBGMがどこからか流れてきた。
テーテーテーテーテー♪テテテーテーテー♪
(どこぞの魔法少女のBGMみたいだな……)
「はーいっ!!呼ばれて飛び出てジャジャジャーンッ!!私がナビゲータ―146号の”ナビたん”だよっ!!よろしくねっ!!」
謎のポーズを決めながら、スマーフォンから空中に、生身の女の子が飛び出してきたのだ。
何故か魔法少女風のヒラヒラした服を着ており、赤いステッキを持っている赤い髪ツインテールの小さい女の子。
そして、アニメキャラっぽい女の子。
2次元が具現化したようだ。
「えーと……なにこれ?」
彼の第一声がそれだった。
人間理解が追い付かないと、自身の脳がこれは嘘だと思い込むそうだが。
彼もどうやら理解が追い付いていないようだ。
「なにって?私が、可愛いいナビたんだよっ!――あ、あれ?なんだか、君、テンション低いね~!大丈夫?」
「ああ、まあ、これは元々こんな感じなんだが……」
「ふーん~そうなんだー!でもまあ気にしないでこれから、この世界について、説明するねっ!」
「えっと……おねがいする」
「オッケー!それじゃあ、耳をかっぽじってよーーく聞いておいてね!!」
こうして、彼はナビゲーター146号"ナビたん”に説明を聞くのであった。
◇
ナビたんは、彼に説明する。
この世界は異世界”レナトゥス”という名前である。
そして科学の代わりに、剣と魔法のスキルが発展している中世ヨーロッパの時代である。
特に”スキル”が使える者が重宝されている。
また人間のほかにも魔族、ドワーフ、エルフ、竜族など、様々な種族も生活をしている。
その上で、様々な国が乱立している巨大な大陸。
また島国も多く、未探索の島国も多い。
現在は、大きな紛争は起こっていないらしいが、どこかで小競り合いなどの紛争は毎日の様に起きている。
奴隷制度が、ほとんどの国で適用されており、金持ちとそうでない者の貧富の格差は大きい。
(聞いていると……典型的なファンタジー世界だな)
◇
次にナビゲーターは、この世界に飛ばされた目的を話した。
「つまりっ!Pをたくさん集めればいいんだよっ!!」
その他に付随する行為、世界を救えとか、勇者になれという話ではないようだ。
(話を聞いている限り、ほんとうに自由に過ごしていいみたいだな……)
「モンスターを討伐して、有名冒険者を目指すもありだし~犯罪を犯して、有名犯罪者を目指すのも可能だよっ!!」
(俺はもちろん、目指したくないな)
肝心のPを手に入れる方法をナビゲーターは説明した。
基本的に、モンスターを倒すことによって、
Pが手に入るので、積極的に倒す。
その他には、特殊な条件、何らかの条件を達成するとPがたくさん手に入るので、そのクリアも狙う。
また、このPは、
スマートフォンから確認が可能で、一定のPが貯まるとスキルに交換したり、
アイテムや食べ物等様々なものへと交換が可能となるので、積極的に交換するべきとのこと。
また、総取得Pというランキングが、
スマートフォン上で表示されるので、上位者には特典なども付与されるので積極的に狙うべきとのこと。
(ゲームで言えばPを集めて、その総数Pランキングを問うって……ことだろうな)
「他に、質問はないかなっ?」
「俺がいるこの平原ってどういう場所なんだ?」
ゲームにおいて、自分の位置情報を確認することは、基本である。
そして彼もそのことを確認しているのだろう。
「えーっとね……ここは”フリーデン”平原みたいだねっ!」
彼が飛ばされた地域は、初心者向けの魔物達(スライム、ゴブリン、ウルフ、etc…)が
湧く地域だということらしい。
(それならすぐに死ぬ……ってことはないか)
ナビゲーターのナビたんは、安堵する彼に追加情報を言った。
曰く元の世界から飛ばされて、この世界に来る地点は、完全にランダム設定であり、
下手をすると、いきなり野生のドラゴンが生息する地域に飛ばされる可能性もあるとの情報だ。
(なにその鬼畜使用……俺は平原でよかった)
◇
「それじゃ~一通りの説明を聞いてもらったところで、君の名前を教えてっ!
今、スマートフォン上に名前を入力して下さいってなってると思うからっ!」
ナビゲーターが言う通り、
彼のスマーフォンには、”名前を入力して下さい、この世界での名前を決めます”との表示が現れた。
(ソーシャルゲームなどで見かける入力画面っぽいな)
(俺の名前か……無難に、俺の名前でいいよな?)
彼は迷う事なく”ケンジ・オオイド”を押して入力を選択してOKをタップしようとしたが、
横合いからナビゲーターが話しかけてきた。
「ちょちょちょちょっと待って!そんな名前でいいの!?せっかく異世界に来たんだよ!もうちょっと、こう……その、良い名前とかないの!?」
確かにナビゲーターである彼女の言い分は正しいのだろう。
「良い名前か……でも自分の名前は、言いなれてる方がいいし、特に使いたい名前とかないぞ?」
「でもでも!色々とあるんじゃないのかな?†漆黒の死神†とか、†聖賢なる騎士†とか†黒の剣士†とか!」
「あの……なんで横にダガーマークつけないと、いけないんですかね?」
「もしくは、おち●ぎん大好き!とかアナ●雪の女王とか!」
「君の口から卑猥そうな単語は聞きたくなかったよ?」
「もうっ!!君なんかノリが悪いよーーっ!!」
「えっと……すまん」
「一応これでも、気を使って言ったんだよっ!!」
ナビゲーターである彼女は彼に気を使ったらしい。
(俺にはそうは聞こえなかったが、そうなんだろうな)
彼は心に思いを秘める。世の中言わなければ言いことが多いのだと。
「とにかく、俺は、自分の名前にするさ」
彼は、表示画面されていた画面のOKを押した。
彼のこの世界での名称は、”ケンジ・オオイド”となったのだった。
次回は、スキルを選択回の予定です。 次回更新予定日9/20