プログラム№1 求人④
「最近の若者は、酷い仕打ちをするんじゃのぅ」
「あたしはしませんよ。ちゃんと電車でも席を譲ってあげるし。それよりあの人、れんれんとはどういう関係なんですぅ? ちょ~感じ悪んですけど」
「そう言わんでくれ」
髭を撫で下ろした錬三郎は、しょんぼりとした顔をしてみせると、ため息をつく。
「あれは、儂の孫じゃ。勘当した息子に出来た子でのぅ、母親を早くに亡くし、相当苦労したらしく、儂のことを恨んでんじゃろう。もっと早くに許してやれば良かったんじゃが、まさか息子までがあんな死に方をしてしまうとは思わんかった」
「あんなって?」
「息子は戦場カメラマンでのぅ。果敢に取材をしている中の惨事じゃった。ニュースにもなったんじゃが知らんかのぅ?」
「ごめんなさい。あまりテレビ見ないんです。新聞も読まないし」
「いいんじゃいいんじゃ。だいぶ古い話だ。可愛そうに身寄りを失った俊介は、養護施設に預けられてのぅ」
「れんれんの所に連絡はなかったんですか~?」
このくそじじぃ。
絶対、隣の住人に聞こえているよな。がたがた音がしているし。確か、強面の人だった気がする。何でこんな朝っぱらからこんな目に遭わなきゃいけねんだよ。何の嫌がらせなんだよー。もう。
「おおお。俊介、許しておくれ。儂が悪かった。ゴホゴホ。寒い。中に入れておくれ」
一段と大きくなった声に、俊介は耳を塞ぐ。
「大丈夫ですか?」
「もしかしたら、熱があるかもしれんのぅ。さっきからゾクゾクと背筋が寒くてたまらん」
僕に何の恨みがあるんだ? 人に恨みを買うことなんて何もしてねーぞ。
「ちょっとー、開けなさいよ」
ドンドンと玄関を叩かれ、俊介は飛び出して行きたい衝動と、必死で戦っていた。
「すいません。ここに住んでいるのは儂の孫でしてな、怒らせてしまって。朝からお騒がせして申し訳ありませんのぅ」
バタンと勢いよくドアが閉まる音に、俊介の心臓は大きく波打つ。
もう我慢が出来ない。ええい。こうなったらやけくそだ。
これは夢の中の話。覚めれば笑い話になる。こんなことが現実だったら堪ったもんじゃない。
「い、い、いい加減な話はしししないで下さい。ととうさんも、かかかあさんも、げん元気で、け、けんざいしてますって、ああ」
絶叫する俊介の脇を、錬三郎がするりと通り抜けて行く。
「明日から出勤を頼むよ。今日はガイダンスってことでこれで帰っていいから」
もうと言い残して、まどかが階段を下りて行き、錬三郎がそそくさとパソコンの前に座る。
「だから」
慌てて錬三郎のもとへ近寄った俊介は、パソコン画面を見て、思いっきりアホ面になる。
「夢だとか思っておらんよな」
ニヤリとした錬三郎の前歯が、金色に光る。
「夢じゃないんだな~」
本当に自分のパソコンなのか疑いたくなる。大学の入学祝に母親が持たせてくれたものだった。こんな容量の大きいものくれてもと言う俊介に、大は小を兼ねると言って笑っていた。すべてインストールしなければならなくて、面倒だけのパソコン。梱包もしばらく解かなかったと思う。どうしたんだっけ。ああそうだ。大学で知り合ったやつが、一度遊びに来て、ネットゲームしたいからって弄って行ったんだっけ。そう言えばあいつ、会っていない。って感傷に浸っている場合じゃなかった。何かの設計図らしきものが錬三郎の手により、クルクルと回転しながら新し線を描かれて行き、表示される文字はしかも英語で、辛うじてボディースーツだけ読み取れた。
……一体、このじじぃは何者なんだ?