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プログラム№1 求人②

『君も今日からヒーロー。求むヒーロー戦士!』

 でかでかと書かれた見出しに、しばらくボケッとした顔をしていた俊介だったが、急にないかを思い出したかのように、顔が青ざめて行く。

 その様子が余程おかしかったのだろう。老人は、目を細め、タクトを振るような仕草で両手を動かす。

 「ちゃんとしたまで見ておくれよ」

 このじじぃ。むかむかしながら、俊介はページダウンさせていく。

 

 備考欄。


 尚、敵に基地がばれぬように、ヒーロー戦士の自宅を秘密基地として使用する。

 全てに承諾出来る者のみ、終了ボタンをお押しください。


 「なかなかおらんかったんじゃよ。ここまで到達するものは。大概は上記の部分で終わらされておるんじゃがのぅ」

 感慨深く話す老人を、見る目が潤み始めた俊介は思い出してしまったのである。

 

 君もヒーロー戦士になるチャンス。

 慣れるものならならせてくださいよ。そんなことを言った記憶がある。特殊能力も、もしかしたら身に付くかもと、アニメーションが流れ。ケタケタ笑いましたよ確かに。変身。すっごいですね~先生。是非教えてください。何てことも言った。言いました。はい。そしたら、だんだん気分が悪くなってきた俊介は、その場に崩れるようにしゃがみこんでしまう。

 老人そっくりのキャラクターが現れ、「良かろう」と、顎髭を撫で大きく頷き、ピースサインを送って見せた。

 随分軽いキャラクターだなと思って、その後気絶するように眠りこけてしまったんだ。

 全てを思い出した俊介は口を塞ぐ。


 バイト先でしこたま怒られ、酒を浴びるように飲み、散々吐きまくった後、このサイトを見つけた。

 「あんなコンビニ、潰れちまえ。辞めてやる」

 そう叫んだ僕は、どうせならでかいことがしたいよな。あの陰険店長が驚くような……。おお、まさしくこんな感じだよな。そんなことをべろべろに酔いながら口走ったような覚えがある。

 勢いよく打ち込んでいる途中、眠気に襲われ、Enterキーを押したまま、うとうとしてしまっていた。

 気が付いたのは、昼近くだった。

 ただパソコンに電源が入れっぱなしになっているくらいの認識で、そのまま電源を落としたと思う。それから、パソコンは、一度も開いてはいなかった。

 だからって……。

 「大概は、ここまで到達せずにUターンされてしまうんじゃがのぅ」

 老人は、顎髭を撫で下ろしながら言う。

 「いや、それは、ええー。違うだろう。これじゃ詐欺だ。僕はそんなのに応募する気もなかったし、ここをそんな怪しいことに使わす気もない。帰ってください。っていうかあんた。今、ページ作り変えましたよね。そんな備考欄なんてなかったと思う。そうだそんなもん成立するわけない。黙って帰ってくれるなら、このことは何もなかったことにしてあげます。だからさぁ立って」

 立ち上がらせようとする俊介の手を制しさせた老人は、ニヤリとする。

 「無理じゃ」

 「そう言われても、僕の方が無理です」

 「契約は成立してしまったんじゃ。正式書類もこうしてできておる」

 老人は手に持っていた紙袋から、契約書と表紙を付けられたものを俊介に突きつける。

 「ちゃんとお主のサインと印鑑も押されてある。何の不備もない完璧な書類じゃ」

 そう言う老人から引っ手繰るように受け取った契約書を、俊介はペラペラとページを捲る。

 契約条件がずらずらと書かれ、最終欄にでかでかと俊介の名前が、ちゃんと記されていた。

 間違いなく、俊介の字だった。

 「こんなもの偽物だ。書いた覚えがない。と言うか、今日初めて見たのに書けるわけがないでしょ? いい加減にしないと、本当に警察を呼びますよ」

 「それはおかしいのぅ。先週、ちゃんと自分の手で書いたんじゃがのぅ」

 先週?

 頭がクラクラしてきた。

 老人の手は再びパソコンのキーを叩き始める。

 こめかみに手をやりながら、だからと言う俊介を見て、ニヤリとしてからEnterキーをぽちっとなと押す。


 全く、身に覚えがないことだったが、はたと思い出す。

 

 いやいや違う。

 思考の隅。ずらずらと連ねられた文字。

 「ここでいいんですか?」

 チラつく光景。

 信じたくはない。信じてはいけない。これは何かの間違い。あれは夢だ。絶対にそんなことはありえない。

 混乱する俊介をそっちのけで、老人はパソコンのキーを叩き続ける。


 そうだ。俊介に名案が浮かぶ。

 印鑑、印鑑は嘘をつけない。中学卒業の時に学校から渡されたやつだ。売っているものとは違うから、それでこれが偽物だと照明が出来る。

 俊介が持っている印鑑はそれだけだった。それにこの印鑑の活躍はただ一度だけだ。コンビニに勤め始める時、契約書に押しただけだった。そのあとはずっと……、あった。教科書や漫画本が乱雑に押し込まれた袋の中から、その印鑑は出て来た。

 散らかり放題の部屋は気にならないくせに、妙なところに神経質になってしまう自分に苦笑しながら、俊介は綺麗に朱肉を拭きとられた黒く真新しさを保られている印鑑を、老人に見せる。

 それがどうしたというそぶりで、一瞥した老人はまたもやポチッとなと言ってEnterキーを押す。


 「なかなか几帳面でよろしい。それはヒーローに好ましい行いじゃのぅ」

 「ありがとうございます」

 

 いやー断じて認めない。認めたくはない。

 俊介は記憶の断片を否定すべく、頭を大きく振る。

 それを見て老人は、実に愉快そうな笑い声を上げだす。

 許せない気持ちが、ふつふつとわき起こる俊介。

 滅多にない感情だった。

 鋭い目つきになっている俊介を見て、老人はまたもや、ポチッとなと呟く。

 

 

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