7.黒羽家にようこそ
そうして月日は流れていき、今日はテッちゃんちに行く日。私達は虹竜学園高等部前駅で集合した。
うちの学園は前も言ったようにマンモス校だ。
ここ月見里市には、生徒や教師、事務の人が大量にかつ、色んな所から集まってくる。そのため、月見里市は学園の関連施設などやそれぞれが住むためのマンションやデパートまでも建てられた学園都市となっている。だから、こうしたちょっとした帰省も時間がかかって大変なのである。
まあ、私の叔父夫婦は学園都市内に住んでるけどね。二人とも、ここの大学教授だし。
と、前方からテッちゃんの水色の髪が見える。
『テッちゃん!!こっち、こっち!!』
テッちゃんは私が呼び掛けると嬉しそうにこちらに向かって来る。
テッちゃんの影の薄さは異常だけど、私には関係ない。人や物を見つけるのは私の得意分野で、知ってる物を見逃した事なんてないしね。そのため、みっちゃんは、テッちゃんをすぐに見つける私を、尊敬の念を込めた目で見てくるのだ。(テッちゃんを見つける度にね)
みっちゃんはテッちゃんにかなり驚かされてるから仕方ないのだけどさ、慣れても直らないなんてある意味凄いよね、テッちゃんの影の薄さ。
話を戻そう。テッちゃんは私に電車の切符を渡してくれた。早めに来て買ってくれたらしい。ありがたいな。
「おはようございます。切符は既に買いましたから行きましょう」
『おはよ、テッちゃん。切符代は後で払うね。ありがとう』
「大したことではありませんよ。………こちらです」
テッちゃんは私に切符を渡してから道を進み出す。周りの人と私がぶつからないルートを選ぶテッちゃんは流石だった。
《黒羽殿はあかり様の事をしっかり考えておられますね》
《じゃねーと、警戒心強いお嬢の鉄壁は崩せねぇよ》
おい、シオくん。全部聞こえてるけど?私って、そんなに警戒心強いっけ?
《あかり様は警戒心がお強いですよ。現に私達とはじめて対峙したときなどは始終敬語だったではないですか》
《真名すら一言も出さないしな。お嬢は神に対する方法をよく知ってたんだよ》
二人に言われて納得する。うちにあった文献見て何となく覚えてただけなんだけどさ。…………あれ?もしかして、うちも元々霊媒体質な巫祇の家系だったりするのかな?
「あかりさん。電車が来てしまいますから早く」
『あ、ごめん!!すぐ行く!!』
二人の意味深な言葉を気にするあまり足が止まっていたようだ。振り替えって待ってくれているテッちゃんの元に小走りで向かった。
「今から行くうちなんですが、あかりさんも想像がついていそうですが、黒羽村にあります。祖父が現在の村長です。僕は一応長子にあたるので、祖父が何か変なことを言ってきても気にしないで下さい」
テッちゃんの名前が黒羽なことから名家だとは思ってたけど、まさか、東方色家だったなんて。
東方色家とは、日本古来から存在する能力者の家系のことだ。その名の通り、名字に色が入っている家ばかりで、それを纏めているのが赤城家なのだそうだ。
まあ、いくらか名前をあげたことのある黄田家や青葉家もそうだし、多分彼らも本家筋なのだろう。
だからこそ、結構レアな能力である巫祇を何回か輩出しているというのも納得がいく。そりゃ歴史がある家柄だもんね。
『私に文献見せて大丈夫なの?それ、かなり大切な書物でしょ?』
「大丈夫です。あかりさんが僕に対しそんな質問をする時点で、信頼に足る人物だと証明しているようなものですしね」
そういって微笑むテッちゃん。ちょっと嬉しい。
《お嬢、この際詰め込めるだけ知識詰め込んで本番で黒羽の助けになるしかないな。こんだけサポートしてくれてんだしよ》
当然!!
テッちゃんの相棒として彼の信頼に、何より、私を見捨てる気が更々無い友人たちの思いに答えないと女が廃る。絶対にテッちゃんと本選に出てやる。
『ちょっと早いけど今言わせてね。テッちゃんと友達になれて本当に良かった。私ができる事なら何でもするから、これからもよろしくね』
「それはこちらも同じですよ。先ずは本選に出て周りを驚かしましょう。カントクも楽しみにしているらしいので」
『うん!!』
テッちゃんは悪戯っ子のように笑いかけた。不安だらけの実技試験も頼もしい周辺のお陰か、今から楽しみで仕方ないものに変わっていく。皆のためにも、勝ち上がらないとね。リコ先輩の期待に応えるかどうかは別として。
それから30分ほどして、黒羽村に着く。
テッちゃんの家は黒羽村の一番奥の方にあり、私達の用がある倉は裏山の中腹にあるらしい。(私達にとってはあってないような距離だけどさ)
まあ、その前に、テッちゃんの家の人への挨拶が先なんだけどさ。
『こんにちわ。テッちゃん……黒羽君とクラスメイトの月見あかりと申します。
今回は貴重な文献を見せていただけるなんて凄く光栄に思います。
あの、これ。つまらないものですが』
テッちゃんちには、おばさんしかおらず、件のおじいちゃんは今村の用事で席を外していた。おばさんは、私の手渡したお菓子を見て「まあ、そんなことしなくてもいいのに」と苦笑した。
「哲夜。今から倉に行くのでしょう?ならついでにこれ、お供えしてもらってもいいかしら」
「わかりました。あかりさん。少しだけ、寄り道しますがいいですか?」
おばさんは、これ、の所でお菓子を持ち上げた。黒羽家の守護に御供えされるような大したものじゃないんだけどなぁ。私の手作りのマドレーヌなんて。
『いいよ。私が我が儘言って連れてきて貰ったんだし』
「義父さんには私から伝えておくから、いってらっしゃい」
おばさんに別れを告げて私達は裏山に登ることに。
その時、テッちゃんがスマホを見て怪訝そうにしていたけれど、私には何も告げないからたぶん大丈夫だろう。
さあ、どんな文献があるのかな?
まずはお参りが先だけど。